見た目は大切です
街へと入る為に人型へと変化したスラたん。
これで安心して街へと入れると、そう安心した矢先の事、
「あ、そうだ」
僕は肝心な事を思い出していた。
「どうしの、ロイ?」
「いや、スラたんにアイテムを出して貰わらないといけなかったんだよ」
スラたんの体内には、旅の途中で回収したアイテムが収納されている。
それらのアイテムを街で売る事により、僕らは旅の路銀を稼いでいるのだ。
「さすがに街中で出して貰う訳にはいかないでしょ? 今のうちに出して貰わないとね」
スラたんの収納しているアイテムの数は多く、僕だけでは持ちきれない可能性があるかもしれない。
だけど街の中であれば、戦闘が起こる可能性は少ない。
申し訳ないけど、マリィかレイラさんにも荷物を持って貰う事にしよう。
「じゃあスラたん。アイテムを出して貰えるかい?」
こくんと、可愛らしく頷いてくれるスラたん(人型)。
うん、スライムの姿でも問題無いけど、表情がある分、こっちの方が感情が分かりやすいなぁ。
僕がそんな事を思っていると、笑顔を浮かべたスラたんはアイテムを取り出すべく行動を開始した。
上を向き、大きく口を開けると、
その中へと自分の腕を突っ込んだのだ。
「っ!?」
いきなりの光景に度肝を抜かれてしまう。
スラたんの目は虚ろになり、可愛らしい小さな口は、それよりも大きな腕がねじ込まれ、あり得ない程大きく広げられていた。
「うわぁ……」
隣にいたレイラさんもドン引きしている。
いや、こんな光景見せられたら、誰だって引くだろうな……。
スラたんは口の中へと入れた腕をもぞもぞと、中をかき回すかのように動かしている。
多分、身体の中のアイテムを探しているのだろう。
やがてスラたんは、アイテムを見つけたようだ。
頭の上に「!」という表示が現れたかと思うと、口の中から一気に腕が引き抜かれる。
その手の先には、スラたんの収納していたアイテムがしっかりと握られていた。
それを確認し、満足そうに頷いたスラたんは、再び口の中へと腕を……。
「ちょ! ストップ! ストーップ、スラたん!」
突っ込もうとしたところで、慌てて僕らが止めた。
「何で止めるの?」といった顔で、首を傾げるスラたん。
「ちょーっと、そのやり方はダメだと思うんだ、スラたん。取り出せるアイテムも一つずつだし、効率が悪いしね?」
「そうですわ! その通りですわ!」
同意するように首を縦に振るレイラさん。
これ以上こんな光景を眺めていたら、僕らの精神が壊れてしまう。
「他の方法で取り出して貰えないかな?」
僕のお願いに対して、スラたんは少し考え込むような素振りを見せる。
そして、何かを閃いたようだ。
ポンと手を叩くと、その場へとしゃがみ込んでしまう。
「……今度はどうする気なんだろう」
若干の不安を抱えつつ、僕達はスラたんの行動を見守る。
スラたんは地面の上へと綺麗に正座すると、右手を変化させて刃物を作り出していた。
「ナイフ……にしては長いか。短剣かな? いったいそれで何を……?」
何故アイテムを取り出すのに、刃物を作る必要があるのか分からなかった。
不思議に思う僕達が見守る中、スラたんは刃物に両手を添え、逆手に構えると、
その刃を勢い良く自分のわき腹へと突きたてたのだ。
「っっ!?」
あまりの出来事に、言葉を失う僕とレイラさん。
スラたんは平然とした顔で、その刃を横へと動かし、腹を裂いていく。
「あ、あれは……まさかHARAKIRI!?」
「! 何か知っているの!? レイラさん!」
突然叫びだしたレイラさんに、僕は慌てて質問する。
「え、ええ。あれは確か東方に伝わるHARAKIRIと呼ばれる儀式。伝え聞いた話によると、自らの失態を、腹を裂く事により帳消しにする奥義だとか……」
「何それ!? 東方の人達、頭大丈夫!?」
そんな事すれば普通死ぬよね!?
あ、いや、回復魔法があるから大丈夫……なのか?
「と、ともかく何をしているのかは分かったけど、何でスラたんは急にそんな事を!? スラたんは何も失敗してないよね!?」
「それは私に聞かれても……あ! あれを見て下さいロイウスさん!」
レイラさんが指差す方向、スラたんの方へと目を向けると、すでに刃は半分以上腹部を切り裂いており、HARAKIRIはほとんど終わりかけていた。
「あ、あれは!」
しかし僕達が驚いたのはそこではない。
スラたんが切り裂いた腹部。
その中から大量のアイテムが流れ出してきていたのだ。
「な、成程……こうやってアイテムを出す為にあんな真似を……」
スラたんがHARAKIRIをした理由は分かった。
さっきよりも効率の良い出し方だというのも理解した。
だけども……。
「この出し方も、やっぱり……ねぇ?」
「ええ……次からは、アイテムを出してから人型になって貰う事にしましょう……」
スラたんの身体から流れ出てくるアイテムを前に、僕達はそう心に決めるのだった。