三角関係?
つい先日、魔物の罠に掛かってしまい、捕まってしまった僕なのだが、それ以来少々困った事になってしまった。
それは、
「……どうかしたの?」
「……いや」
マリィが僕の傍を離れようとしないのだ。
いや、心配させてしまったのは僕なのだから、ある程度は好きにさせてあげようとは思う。
だけど……。
「あのね……マリィ? さすがに首輪はどうかと思うんだけど……」
僕に動物用の首輪を掛けるのはやめて貰えませんかねぇ!?
もちろん、首輪から伸びているヒモの先は、しっかりとマリィの手の中に。
「だって……こうでもしないとロイが逃げ……どこかへ行っちゃうから」
「いや、前回のも捕まったからであって、逃げた訳ではないよ?」
どうやらマリィは、僕が離れていってしまう事を心配しているようだ。
それはとても嬉しい事だし、可愛い娘に必要とされれば、男冥利に尽きる。
「だけど、やっぱり首輪は違うと思うんだよね!」
「……そう」
首輪を外す僕に対して、諦めたように首を振るマリィ。
そして彼女は、
「じゃあ、足枷の方がいい?」
懐から、禍々しい鉄球付きの足枷を取り出したのだ。
ゴトリと重たい音を立て、鉄球が地面へと落ちる。
「そういう問題じゃないからね!?」
いったいどこで手に入れて来たんだ、そんな物!?
微妙に薄汚れているし……もしかして使用済みなのか!?
「首輪も足枷も、どっちもダメ!」
そもそもそれじゃあ移動が出来なくなるだけで、この前みたいな罠には通用しないと思うしね!
「じゃあ……」
「縄とか他の拘束具もダメだからね!」
「……ちぇ」
僕の言葉に、マリィは動きを止めた。
やっぱり他にも何か用意していたようだ……。
「でもそれじゃ、ロイがまた危険な目に……」
心配そうな顔で、マリィは僕の事を見詰めてくる。
そうだよね、マリィがこんな事をするのも、僕の事を心配してくれているからだよね。
決して、僕を逃がさないようにしている訳ではないのだ。……多分。
「マリィ……」
どうすればいいだろうか。
全ては僕が情けないせいで起こった事。僕がマリィを心配させたのがいけないのだ。
どうすれば、マリィの不安を解消させられるのだろうか。
もちろん、首輪や足枷は受け入れない方向で。
「う~ん……」
僕がどうすればいいか悩んでいる時、視界の端にスラたんの姿が映った。
スラたんは、マリィが置きっぱなしにしている首輪や足枷を吸い込み、自分の体内へと収納していく。
「そうだ! スラたんだよ!」
うん、そうだ。スラたんが居れば解決する問題じゃないか。
「今回だってスラたんが一緒にいたおかげで、僕は無事だったんだからさ。これからもスラたんに守って貰えばいいんだよ」
情けない話だし、スラたんにとっては迷惑な話かもしれないけれど、僕にはこれくらいしかマリィを安心んさせる方法がない。
「なるべくスラたんと一緒に居るようにするからさ。それならマリィも安心だよね?」
話を聞いていなかったスラたんが不思議そうな顔(?)をしているけど、仕方がない。
これでマリィが安心して、首輪とか足枷とか馬鹿な事を言わないようになってくれればいいのだけれど……。
「ロイ……ロイは、私よりスラたんを選ぶの?」
「え?」
おやおやおや? 何やら雲行きがおかしいですよ?
「ロイは……私よりスラたんが好きなのね」
「ちょっと待ってよマリィ!? どうしてそういう事になるのさぁ!?」
おかしい、何故そういう発想になるんだ!?
僕はただ、マリィを不安にさせないようにと……。
「ロイの馬鹿ロイの馬鹿ロイの馬鹿……」
ブツブツと何かを呟きながら、剣を引き抜くマリィ。
その瞳には危険な光が宿っていた。
「ちょっと落ち着いてよマリィ!? ……ダメだ! 聞こえてない! 誰か助け……そうだ! スラたん! レイラさん! ……あれ!? 居ない!?」
助けを求めようとした仲間の姿はどこにもなかった。
どうやら、いち早く危険を察知して逃亡したようだ。
「ひ、酷いや……」
深い絶望に捕らわれた僕の目の前には、ドス黒いオーラを滲ませているマリィの姿が。
「誰か……助け……」
だけど、その言葉は誰にも届かない。
「ロイの馬鹿」
そんな言葉を最後に耳にし、僕は意識を失うのだった。