洞窟には明かりが必要です
僕達は魔王を討伐する旅をしている。
だけどそれは、魔王だけを倒せば良いという話しでもない。
魔物に襲われている人々を助けたりする事もあれば、僕達自身が襲われる事もある。
そして逆に、魔物の根城へと踏み込む事もあった。
魔物が根城としている場所は様々だ。
人間から奪い取った城や、天高くそびえる塔など、数多くの種類がある。
そしてその中で最も多く、最も厄介なのが洞窟なのだ。
洞窟の中には陽の光が差さず、完全に闇の世界となっている。
魔物のように、目に頼らず周囲を知覚できる器官があればいいけれど、人間にはそんな物はない。
洞窟に入るのであれば、常に松明を灯し、火を絶やさないようにしなければならないのだ。
それでも、闇を完全に払える訳ではない。
魔物達はそのわずかに残った闇へと身を隠し、僕達へと襲い掛かってくる。
闇への恐怖と不意打ちへの警戒。その二つが僕達の心身を徐々にすり減らしてくのだ。
……本来であれば。
「凄いですわね……」
その光景に、レイラさんは絶句していた。
つい先程、僕達は魔物の巣窟となっている洞窟へと突入していった。
本来であれば、僕が松明を灯し、進むべき道を照らすのだけれど……。
「眩しいくらいですよね……」
今、洞窟内はまばゆい光に照らされ、その隅々ま眺める事が出来るようになっていた。
何が起きたのか分からない魔物達は、慌てふためき混乱している。
まぁ、洞窟内がこんなに明るくなるなんて、普通は考えられないよね。
これは、魔物達が引き起こした現象ではない。
ある物が発光し、洞窟内を照らしているのだ。
僕は視線を足元へと動かし、発光している物体へと目を向ける。
そこにいたのは、
「……スラたん」
僕の呟きに、「呼んだ?」という感じにこちらを振り向くスラたん。
「いや、キミ……どうやって光ってるの?」
魔法? 魔法なの? それとも別の何か?
いや、スラたんに説明を求めるのは無駄だって分かっているけどさぁ……。
案の定、スラたんはクネクネと身体を動かすだけで、説明らしき説明をしてくれない。
いや、その動きで説明をしてくれているのかもしれないけれど、僕にはまったく理解できなかった。
「ロイ、スラたんはそういうものなのよ。あまり深く考えると……禿げるよ?」
「……それは勘弁してほしいなぁ」
マリィの世話のストレスで、すでに僕の毛髪は充分なダメージを受けている。
これ以上の追加ダメージは、本当に僕の毛根を死滅させかねない。
スラたんについて考えるのはやめた方が良さそうだ。
ありのまま、見たままを受け入れる事にしよう……。
「スラたんの存在は謎ですけど……こちらとしては助かっておりますし、まぁ良しとしましょうか」
レイラさんもまともに考えるのをやめたようだ。
突撃槍を構えて戦闘態勢をとる。
「では、参りますわよ!」
「駆逐するわ」
マリィとレイラさんが魔物の群れへと飛び込み、戦闘を開始する。
魔物達は混乱しているし、不意打ちさえなければ二人に恐れるものはない。
間もなく、この洞窟の魔物達は全滅させられるだろう。
戦闘の激化と共に七色に発光し始めたスラたんの横で、僕はぼんやりとその光景を見つめるのだった。