アイテムの持ち運びについて
さて、前にアイテムやお金の回収の重要性を説明したと思うけど、その回収作業には一つの問題があった。
それは、
「……重い」
持ち運べる量の問題だ。
旅の間の荷物の管理は、基本的に従者である僕の仕事。
当然、僕が持ちきれる量しか、手に入れる事は出来ないのだ。
「ロイウスさん、大丈夫ですか? 私が荷物を持ちましょうか?」
確かにレイラさんなら、非力な僕よりも多くの荷物が持てるかもしれない。
だけど、彼女の仕事は戦闘だ。
重い荷物を持っているせいで、急な戦闘に対応出来ないような事になっては不味いだろう。
「大丈夫ですよレイラさん。それに僕には、これくらいしか出来ませんし」
「……そうですか。ですが、無理をして身体を壊されてもいけません。今後の事も考えると、馬車を購入する事も検討しておくべきかもしれませんわね」
確かに、身体を壊して皆の足を引っ張るのは問題だ。
それに馬車を買えば移動も楽になるし、荷物を運ぶのが楽になるのも事実。
だけど僕達の旅は、どんな道を通るか分からない。
馬車の通れない道があれば、最悪の場合、置いていかなければいけなくなってしまうのだ。
「僕が身体を鍛えればいいことですし、馬車の購入はしばらく見送りましょう」
疲れた身体に活を入れ、無理やりにでも笑顔を作る。
そうとも、ただでさえ僕は足を引っ張る存在なのだ。
これ以上迷惑を掛ける訳にはいかない。
「荷物が邪魔なの? それなら、任せて」
僕がそんな決意をしていると、マリィが自信満々に声を上げるのだった。
「マリィ……一応言っておくけど、捨てるとかは無しだよ?」
「……そんな事、しないわ」
僕からそっと視線を逸らすマリィ。
どうやら少しは考えていた様だ。
「それで? どうするつもりですの?」
レイラさんの問い掛けに気を取り直したマリィは手を叩き、ある生物を呼び寄せる。
「おいで、スラたん」
近くの草むらから出てきたのは、もはや見慣れたいつものスライム。
スラたんは草むらから出てくると、器用に飛び跳ね、僕らの下へと駆け寄ってきた。
「……それで? スラたんを呼んでどうするの? まさかスラたんに荷物を持たせるつもり?」
もうスラたんが付いてくる事に関しては諦めた。
問題が起こったら、その時考えればいいという投げやりな考えだったけど、現状ではどうする事もできない。
「スラたんにですか? スラたんでは荷物を持ち運べないと思うのですが……」
レイラさんもすでにパーティーの一員として受け入れているみたいだしね。
「そうだね、スラたんじゃちょっと無理な感じがするよねぇ」
スラたんはそもそもそんなに大きなスライムではない。
僕の背負っている道具袋と同じくらいの大きさだろうか。
そんなスラたんに、荷物持ちが出来るとは思えなかった。
……いや、身体を変形させれば出来るのかな?
「心配はいらないわ。スラたんはこう見えて、力持ちなの」
ぶよぶよとした身体で力こぶを作り出すスラたん。
どう見ても力があるようには見えないのだけれど……。
「その証拠に、スラたんはロイが諦めて回収しなかったアイテムも、持ち運んでいるのよ」
「え? それって僕が持ちきれなくて、諦めたやつ?」
回収したアイテムは基本的に街や村で売るのだけど、魔物との戦いが頻発すると、次の街へと辿り着く前に道具袋が一杯になってしまう。
実は今もその状態で、前回の戦闘で落ちたアイテムは回収できなかったのだ。
「見せてあげて、スラたん」
スラたんは敬礼のポーズを取ったあと、もごもごと身体を動かすと、口(?)の中から勢い良く物を吐き出した。
「これは……確かに僕が諦めたアイテムだ」
僕が確認している間も、スラたんは次々にアイテムを吐き出す。
石ころにも似た鉱物。魔物のツノや爪。そして欠けた剣など。
明らかにスラたんの体積以上の物が、その身体から吐き出されてきたのだ。
「……どうやってこんなに詰め込めたんだろう」
「……不思議ですわね」
唖然とする僕とレイラさんを余所に、スラたんはその全てを吐き出し終えたようだ。
満足気に、身体を揺らしている。
「ね? これなら大丈夫でしょ?」
「……ああ、そうだね、マリィ」
どうやってスラたんがアイテムを収納しているかは分からない。
だけどスラたんが出したアイテムには傷付いている様子もなく、変な粘液が付いている事もなかった。
「じゃあ、これからはスラたんに荷物持ちをお願いしようかな。悪いけど頼めるかい、スラたん?」
僕の問い掛けに、再び敬礼するスラたん。
そしてスラたんは、吐き出したアイテムと僕が置いた道具袋へと覆いかぶさり、その全てを体内へと飲み込んでいった。
「よし、これで全部……あれ? あそこに一個残ってるや」
全てを収納したと思っていたのだけど、少し離れた場所に一つだけアイテムが転がっていた。
スラたんが吐き出した時に、そっちまで飛んでしまったのだろう。
「ちょっと待っててねスラたん。すぐに持ってくるから」
そう言って僕が向かおうとした矢先。
スラたんが大きく口(?)を開けたかと思うと、その口の中からもの凄い速さで何かが伸びていった。
「!?」
僕の目がおかしくなっていなければ、それはイカの足のように見えた。
恐らくは触手と呼ばれる類いのものだろうか。
触手は素早くアイテムを回収すると、スラたんの中へと舞い戻っていく。
「……スラたん、キミは……」
「どうしたんですの? ロイウスさん?」
どうやらレイラさんは目を離していたらしい。
今の光景を見ていなかった様だ。
「キミは……いったい……」
先程僕が見た触手は、スラたんと同じような粘液で出来ているようなものではなかった。
体内に別の何かを飼っているのだろうか?
それともスラたん自体が、スライムの皮を被った別の何かなのだろうか?
確認してみたいとは思ったけど、僕には恐ろしくて出来そうもない。
「……まぁ、スラたんはスラたんって事でいいよね」
無理やりにでも、自分自身を納得させる。
そんな僕の事を、スラたんは静かにジッと見詰めているのだった。