旅をする為には仕方のない事なのです
「今回も派手に暴れたなぁ……」
僕の目の前には、大小様々な宝箱やお金が散らばっていた。
これは魔物との戦闘の後に、よく見かける光景。
たった今ここで、魔物の群れがマリィとレイラさんによって全滅させられたのだ。
「さ、次は僕が頑張らないと」
彼女達の仕事が魔物との戦闘ならば、ここから先は僕の仕事だ。
散らばっている宝箱の中身やお金を回収し、次々と袋に詰めていく。
戦闘が出来ない従者だからこそ、これくらいの事はしないとね。
「それにしても、何で魔物を倒すとお金や宝箱が落ちてくるんだろうね?」
手を動かしながらも、今まで疑問に思っていた事を呟く。
魔物は倒されると黒い霧のようになり、そのまま散っていってしまう。
そして代わに、宝箱やお金が出現するのだ。
「アイテムや貨幣を媒介にして、魔物が生み出されているのではないのでしょうか?」
「それじゃあ、ある意味このアイテムが魔物の本体って事ですか?」
レイラさんの一言に、宝箱から回収したアイテムをまじまじと見つめてしまう。
もしそれが本当なら、何がきっかけで魔物に戻るか分からない。
そんな危険な物を持っていたくはないなぁ……。
「もしかしたら、魔物がコツコツと貯めていたものなのかもね」
「魔物が? 人間のようにかい?」
僕の問い掛けに、マリィが頷く。
「人間のように彼らも汗水流して働いて、それでも少ししか稼げないから残業して、家に家族を残しているのに、もう何日も帰っていなくて、そんな時、彼らは勇者を見つけるの」
魔物は好戦的で、人間に害をなす生き物だ。
倒すのは悪い事ではないはず。
「勇者を倒せば、魔王から莫大な報奨が貰える。そうすれば彼らは愛する家族の下へと帰る余裕も出来る。家族の為にも、彼らは勇者を倒す事を決意するの」
だけど何故だろう。
マリィの話を聞いていると、胸に芽生えるこの感情は……。
これは……罪悪感?
「けれど残念、彼らでは勇者に敵わず返り討ちに。家族の為にと彼らがコツコツ貯めていた財産は、全てロイの財布の中に……」
「待って! 待ってよマリィ!?」
それじゃあ僕が極悪人みたいじゃないか!?
「だってロイ、いつもお金やアイテム回収してるでしょ?」
「それはそうだけどさ!?」
だって仕方ないじゃないか!?
魔王討伐の為に旅をしている僕達に、まともに働いている時間はない。
こうやって路銀を稼がないと、旅なんて出来ないんだよ?
これは犯罪じゃないし、やましい気持ちでやっている行動ではないんだ!
マリィに、そう説明したのだけど、
「だから、いつも私が人の家のタンスやツボを調べるって言ってるのに」
「それこそ犯罪だと僕は思うんだけど!?」
昔の勇者は、人様の家の物を勝手に持ち出していたという。
もちろん、おじさんに勇者教育されていたマリィもそれが普通だと思っている。
だけどさぁ!?
「普通に考えておかしいよね!? 何で勇者が家を荒らすの!? そして何で皆、それを平然と受け入れているの!?」
僕がおかしいのだろうか?
この世界ではそれが普通で、僕の感覚がおかしいのだろうか?
だけど、そうであったとしても、僕は自分の信じる道を行く。
マリィに強盗の真似などさせてたまるか!
だから魔物達には悪いけど、僕は彼らの財産を回収させて貰う!
……いや、さっきの話はマリィの想像で、実際どうなのかは知らないけどさ……。
色々と葛藤しながらも、僕はアイテムやお金を回収していく。
落ちている物を拾うだけの、大した労力も必要のないこの作業。
だけど全てを回収しきった時、僕の身体と心は、とてつもない疲労感に襲われていた……。