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近未来漫才シリーズ

近未来漫才4

作者: 山田結貴

何気にシリーズ第四弾目です。

過去作を読まなくても何となく内容はわかるように書いているつもりです。

 ここはとある小規模な演芸会場。現在ステージには、二人の男が満面の営業スマイルをたたえながら上がってきていた。

 一人は、田安春明たやすはるあき。ありふれたグレーのスーツを着ている彼は、これといった特徴を持たない地味な感じの男だ。

 もう一人の男は、東城渓人とうじょうけいと。こちらは田安と異なり、こじゃれたファッションをパリッと着こなして華やかな雰囲気を身にまとっている。一見すると、そこらにいる色男と何ら変わらない彼であるが、決定的に周囲と一線を画している点があった。それは、彼の頭から、銀色のアンテナ状の物体がちょこんと飛び出ているのである。

 東城の正体は、自分の意思を持つ精巧なロボット。つまり、アンドロイドなのであった。

 人間とアンドロイドが共生することが少しずつ当たり前になり始めたご時世において、二人は世界初の人間とアンドロイドの異色の組み合わせの漫才コンビとして活動しているのである。コンビを結成して数年。最近は万人受けこそしないものの、地道な活動が実ってか、わずかながら自身達の芸に関心を持ってくれているファンが増えてきているのだった。

 そして今宵、いまだに空いている箇所がいくつも残る客席を前に、異色コンビ『機人変人きじんへんじん』のステージが幕を開けた。


田安「どうもー! 『機人変人』でーす! よろしくお願いしまーす!」


東城「ねえねえ、田安君。もうすぐバレンタインだね」


田安「まあ、そうだね」


東城「バレンタインって言ったら、愛の告白ってのが鉄板ですよね」


田安「まあね」


東城「特に、学生時代のバレンタインって大きいと思うんですよ。まあ、残念ながら俺はアンドロイドなんで甘酸っぱい青春というものを堪能したことはないんですけれども。田安君は、学生時代にチョコをもらったことってあります?」


田安「え? ま、まあね」


東城「ふーん。何個くらい?」


田安「そりゃあ、二個くらいは余裕で」


東城「ふーん。お母さんと妹さんからね」


田安「何で俺の家庭事情を知っ……よ、余計なこと言わなくていいんだよ!」


東城「いやいやいや、田安君。これは、全然余計なことではないですよ。モテない息子を気遣う優しい母親。甘い青春を謳歌できない兄を思いやる天使のような妹。いやあ、何て美しい家族愛なのでしょうか!」


田安「美談風に言っても駄目だから! さらに悲しくなるからやめてくれ!」


東城「では、そんな寂しい青春しか過ごせなかった田安君に、俺からちょっとしたサプライズ。今から俺が、バレンタインに告白をする女子学生をやるから」


田安「えっ。それはつまり、俺に甘酸っぱい青春を」


東城「田安君は、それを木陰で見守る用務員のおじさんをやって」


田安「よーし。張り切って用務員のおじ……あれ?」


東城(女っぽい声)「いきなり呼び出したりしてごめんね」


(東城、田安をそっちのけで急に芝居を始める)


田安「え? ちょっと。ええっ⁉」


東城(男っぽい声)「何だよ、急に。らしくないな」


田安「もしもーし。あのー」


東城(女っぽい声)「実は……これ」


東城(男っぽい声)「こ、これって。おまっ……」


東城(女っぽい声)「そう、手作りのチョコレート。今日、絶対に渡そうと思ってて。私、ずっとあなたのことが」


田安「待てやゴラァーっ!」


東城「ん?」


(東城、芝居をやめて田安の方を向く)


田安「これのどこがサプライズなんだよ。リア充カップルの甘酸っぱいひと時を見せつけられている用務員のおじさん役を押しつけられることの、どこがサプライズだって言うんだよ!」


東城「いやあ。告白される男子学生役より、こっちの方が田安君的にはリアルかなーと」


田安「まあ、確かにそ……コホン。そういうリアリティーいらないんだよ。頼むからさ、俺にバレンタインに告白される学生役をやらせてくれないかな。少しでも、サプライズ的な気持ちがあるんだったらさ」


東城「どうしても?」


田安「どうしても」


東城「……田安君も、なかなかイタい人だなあ」


田安「何か言ったか?」


東城「ううん、何にも。じゃあ、さっさとリクエストにお答えしましょうか」


(二人、それぞれの立ち位置につく)


田安「東城の奴、いきなりこんなところに呼び出しやがって……おっ」


東城(めっちゃ太い声)「田安、お前のことが好きだ。ウッス!」


田安「何で男が来ちゃうんだよ!」


東城「だって、田安君って男子校出身顔だから。ついでに言うと、好きというのは友達としてッス。ウッス」


田安「じゃかあしいわ。それと何だよ、男子校出身校顔って。俺は男女共学校出身です!」


東城「ありゃあ、これはリサーチ不足だったかな」


田安「家庭事情を事前に調べておくくらいなら、どうせならこっちの方もきちんと調べろよ」


東城「はいはい。次からそうしまーす」


田安「東城、いきなりこんなところに呼び出しやがって……おっ」


東城(今度はちゃんと女っぽい声)「遅れてごめんなさい、田安君」


田安「いや、全然。謝ることなんて」


東城「……でも、こんなことはやっぱり」


(何故かうつむく東城)


田安「はい?」


東城「そう。これは決して許されないこと。でも、好きになっちゃったんだもの。仕方ないわ」


田安「え、いや、あのー」


東城「本当の愛なら、きっと神様も許してくれるはず。例え、教師と生徒という関係であっても!」


田安「何で女教師が告白しに来ちゃうんだよ! 男女共学って設定が全く活かされておりません!」


東城「そうかな?」


田安「そうに決まってるだろ。俺はな、そんなどっかのドロドロ恋愛劇みたいのじゃなくて、ノーマルで甘酸っぱい青春を疑似体験したいわけだよ。だからさ、お前は普通に女子学生役をやってくれ。それこそ、さっきのくだりに出てきたリア充カップルみたいなさあ」


東城「もしかして、さっきのこと根に持ってる?」


田安「……。東城の奴、いきなりこんなところに呼び出しやがって」


東城「見事な黙殺、いただきました」


田安「遅いなあ……おっ」


東城「急に呼び出したりしてごめんね。実は……これ」


田安「えっ。こ、これってまさか」


東城「気に入ってもらえるといいな。手作りオイル」


田安「へえ、手作りオイ……って、オイル⁉」


東城「頑張ってブレンドしてみたんだけど、口に合うといいな。いい燃料になると思うんだけど」


田安「俺、東城君と違って人間だから。オイルなんて飲んだら、大変なことになっちゃうから。アンドロイド界のことはよくわからないけれども、きちんと人間の女の子らしいものをプレゼントしてはいただけませんかねえ」


東城「……モテないくせに、注文多いなあ」


田安「何か言った?」


東城「ううん。本当のことしか言ってないよ」


田安「そうか。何か、もういいや」


(完全に悟りきった顔をした後、立ち位置に戻る田安)


田安「東城の奴、いきなり……おっ」


東城「急に呼び出したりしてごめんね。実は……これ」


田安「えっ。こ、これって」


東城「一生懸命作ったんだ。義理チョコ」


田安「へえ。義……義理チョコぉ⁉ わざわざ呼び出して、義理チョコぉ⁉」


東城「だって、ついつい作り過ぎちゃったから。ついでに、みんなの前で田安君にチョコ渡すとかマジ笑われちゃうし……ぷっ!」


田安「何気に失礼なことを言ってくれるな。 こんなのやり直し。次っ!」


(ブチ切れる田安を前に、東城は無言で肩をすくめながら立ち位置に戻る)


田安「東城の奴、いきなり……おっ」


東城「急に呼び出したりしてごめんね。実は……これ」


田安「えっ。こ、これって」


東城「そう、手作りチョコレート。口に合うといいな」


田安「じゃあ、早速食べていい?」


東城「うん。ちょっと色が変かもしれないけど、気にしないでね?」


田安「まあ、失敗なら誰にでもあるよ」


東城「ちょっと変な匂いがするかもしれないけど、気にしないでね?」


田安「それくらい……」


東城「ちょっと味が変かも」


田安「ねえ。もしかして盛った? 疑いたくないんだけど、もしかして何かチョコに盛った?」


東城「い、いや、そんなことは……うっ。ちょっと、ごめんね」


(東城、田安に背を向ける)


東城「おえっー!」


田安「やっぱり何か盛ってるんじゃねえか! しかも、え? 何かを盛ったチョコを味見しちゃったわけ? 馬鹿じゃねえの?」


東城「うう……ミッション失敗。ここはやはり、服毒よりも目から光線を出して()るべきだったか」


田安「勝手に変なミッションを遂行しようとするな! 普通にバレンタインの告白をしてくれ!」


東城「イ……イエス・サー」


田安「東城の奴、いきなり……おっ」


東城「急に呼び出したりしてごめんね。実は……これ」


田安「えっ。こ、これって……ん?」


東城「……ゲフッ。美味しかったー」


田安「自分で作ったチョコ食っちまったのかよ⁉ 仮にも渡す予定だったチョコを!」


東城「田安君と生理的欲求を天秤にかけた結果、生理的欲求が勝利しました」


田安「頼むから、生理的欲求以上に俺を思っている女の子をやってくれ」


東城「本当、注文多いんだから」


田安「東城の奴、いきなり……」


東城「急に呼び出し……あれ? 田安君? 田安くーん」


田安「俺はここにいます!」


東城「あはは、ごめん。影が薄くて見えてなかったー」


田安「今更そのいじりを入れますか⁉ 普通、序盤でその手のいじりを入れるだろうが。ボケの順番おかしいだろうがよ!」


東城「俺がめちゃめちゃなタイミングでこんなボケをかましたのは、田安君がこんなネタを書いたからです」


田安「ネタは二人で書いてるだろうが。しかも、このくだりはお前が……」


(謎の効果音『ジージージー……チーン』)


田安「?」


(謎の機械声『無事に、特定のメモリーを消去することに成功しました』)


田安「現在進行形でメモリー消去してんじゃねえよ!」


東城「さあ、田安君。スッキリとした、新たな気持ちで漫才を」


田安「こっちの気持ちは全然スッキリしてねえわ! もういいよ」


東城「それではこれにてシャットダウン!」


田安・東城「どうも、ありがとうございましたー!」

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― 新着の感想 ―
[一言] まるで本物の漫才を見ているようなテンポのよい掛け合い。このシリーズも4作目となり、登場人物とともにゆんちゃん、コホン、結貴様も円熟味を増してきているということでしょうか。 欲を言えば、東城だ…
[一言] 何で男が来ちゃうんだよ!にやられました。(笑) 話の構成が更にレベルアップしてますね。 最後のやり取りも良かったです。
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