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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: 天海六花

この短編は、「即興小説トレーニング」で書いた作品を清書した作品です。


コロセウムに罪人である男が連行されてくる。これより死刑の執行なのだ。

それを見守る恋人。彼女は男が罪人であっても彼を愛していた。

 重い鎖を引きずって、死刑台まで歩く死刑囚。彼は私の恋人だった男だ。

 罪人つみびとだと知らずに付き合っていて、ある日やってきた騎士団によって、彼は取り押さえられた。

「ハンス……」

 死刑執行のコロセウムで、私は彼の名を呼ぶ。


 死刑囚でも罪人でも、私は彼を愛していた。彼も私を愛してくれていた。

 そんな私達を引き裂いた彼の罪は、教会の聖母像の窃盗。私と出会う前、食うに困って売るために盗んだらしい。


 この国では、宗教は国王以上に尊いものとされ、宗教がらみの罪は耳が痛くなるほど細かく多い。そんな中でも窃盗、しかも聖母像を盗んだ罪は、死罪と同等とされるのだ。

 私は彼の罪を聞いて、彼を疎んじたり軽蔑したりはしなかった。だって命がかかっているなら、私だって同じことをしたかもしれないから。

 聖母像を盗むまではいかなくとも、パン一切れを盗んだかもしれないし、お金を盗んだかもしれない。

 つまり誰もが生の前では、生きる欲望剥き出しになるものだと、私は思うのだ。


 ハンスは手枷と足枷を繋ぐ重たい鎖を引きずりながら、死刑台へと上った。

 ──彼の最後を見たくない……。

 そんな思いもあったが、彼の最後を見届けずして、彼の恋人は名乗れないと思ったのだ。


 わたしは罪人ハンスの恋人。互いを愛しあった。


 それは私の誇りであり、勇気である。思いの強さである。

 だからこそ、彼の最後を見届ける義務がある。

 私は両の眼をしっかりと開き、ハンスを見つめた。


「これより、聖母像窃盗の罪を科せられている、この者の死刑を執行する!」

 コロセウムがわっと賑やいだ。


 人は自分より劣る者が惨めな姿を晒す行為が大好きだ。自分より惨めゆえに、自分はこうではないと自尊心を保つ。

 愚かで気位の高い動物だ。


 壇上のハンスが項垂れる。そしてその隣に円月刀を持った屈強な男が立った。あの獲物で罪人の首を切り落とすのだ。

 痛みを感じる暇もないからこそ、まだ救いがあるのかもしれない。

 いえ、救いなんてない。私との愛を強引に奪われる事の、どこに救いがあるというのだろうか。

 ハンスは何も言わずに項垂れたまま。抗う事を諦めてしまったかのように。

 私は飛び出したい気持ちを必死に堪え、ハンスの最期を見守っった。


「ヤァッ!」

 円月刀が空を凪いだ。

 ごろりと転がる、ハンスの頭部だったもの。それが私の足元まで転がってきた。

 私はニタリと笑う。

「うふふ、やっぱりハンスは私の元へ帰ってきてくれるのね」

 彼の頭部を抱く私。そして私は──


「聖母像窃盗の実行犯である男と、それを匿った女はこれにてさらし首とする!」

 コロセウムの入り口に、男女二つの首が晒し者にされた。

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