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ある夏の日

「暑い....」


もうすぐ夏休みに差し掛かろうとしている今日。

私は友達と学校からの帰り道を歩いている。


相も変わらず太陽は着々と地面を焦がしにきている。いっそのこと別の色で塗りつぶしたくなる程の清々しい青空、軽そうに浮かぶ白い綿雲、真夏と呼ぶに相応し過ぎる日だ。

私の住んでいる涼坂町すずさかちょうはかなりの田舎で、田んぼや畑は当たり前、そして今年も大量の蝉の不協和音オーケストラが聞こえる。正直もう慣れたが、こんな日に聞くとやはり段々と腹立たしくなってくる。風でさわさわと草の擦れる音が唯一の癒しだ。


「うぇー、暑いー....暑くないのー?悠ちゃーん....」

「暑いって言ったらもっと暑くなるから暑くない」


悠ちゃんこと流見悠ながみゆう。それが私の名前だ。性格は友達曰くクールらしいが、ただひたすらに無愛想なだけだと私的には思っている。生まれも育ちもこの涼坂町、典型的な山育ちで、小学校の頃は辺りそこら中を駆け巡ったせいかこの町で知らない所はないと自負している。


「悠ちゃん強すぎ....」


隣にいる友達は立道柑菜たつみちかんな。普段は馬鹿っぽい行動ばかりするくせに凄く頭がいい、なんとも恨めしい良い友達だ。性格はポジティブで明るく、フレンドリー。まさに私とは正反対。「何故友達なのか」と尋ねられても、「成り行き」としか答えられない。それでも私と柑菜は仲がいい、周りからはいつも一緒という印象が強いぐらいには。


「アイスー、アイス食べたいよー、悠ちゃん買ってきてー」

「残念ながら、お金なんて持ってないよ」


私達は地元の公立高に通っている高校一年生。これといった将来の夢のない私は特に何も考えず、ただ近い、の非常に合理的な理由だけで高校は選んだ。以前、柑菜にもっと頭のいいところに行けるはずなのに何故この高校にしたのか、と聞いた事があるが、食い気味に「近いから」と返され、所詮同じ穴の狢だと納得した。


ジリジリ、ジリジリ肌が焼かれる感覚に何も言わず耐えていると、突然隣から空に向かって叫ぶ声が聞こえてきた。


「雨降れバカヤロー!!」


....何でこいつが頭いいのだか未だに謎である。


「それで雨降ったら苦労しないだろ」

「それでもやりたくなるの!」


今にも空に何かぶん投げそうな勢いの柑菜にため息を吐いてからふっと空を見上げた、本当に何気なく、何かを感じた訳でもない、そこにあった空を見ただけなのだ。


だが、私の視線は空に縫い付けられる羽目になった。


自然と歩いていた足は止まり、吸い込まれる様に空を見つめた。

少し前にいた柑菜が私に何か言っているようだが、もはや聞き取る気もない。気にも止めず空を見上げ続けた。


確かに、私は見た。

視界を掠めた程度ですぐ雲の中に消えてしまったけれど、それに見たものが本当なのかすらわからないけれど、あれが存在して良いものなのかも。

だが、私は確かに見たのだ。心の中には説明のしようがない確証があった。体全体が見たものの存在を訴えている。息がしづらい、心臓が痛い、頭がグラグラと揺れる、目の奥で何かが弾けた様だ、これ程興奮した事は生まれてきて初めてだとさえ感じる。



私は、見た。


太陽の光を身に纏い、流水のように空をなめらかに翔び、雲の中にその身を滑らせ消えた




龍を――

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