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四話 交わらない愛

「じゃあナル、早速入んな。遠慮なんてしなくて良いからさ」

「………………」

「どうしたんですかーナルさん。感じ悪いですよー」

「ナル? なんか気に障る事でもあったかい?」

「いや、あの……」


 別に彼女が悪い訳では無い。

 突然異世界に飛ばされしかも森の中で寝てしまった僕は、服もドロドロだし疲れている。このままだと肌が荒れてしまい、僕の品位にも関わる。

 それに何も持たずサバイバル技術などある筈が無い僕はこのままだと生きていけない。

 よってエアリさんを頼る他無いのだが……。


「何だか、気配がする」

「ん? なんのですか?」


 僕はしばらく立ち止まったまま、鼻先に意識を向けていた。先程嗅いだばかりのこの匂い。森の野生のものよりは少しましではあるが、それでも僕は過敏に反応している。この家、犬がいるな。

 警戒心を隠さない僕の心を読んだらしく、ニムニムは勝手に「あー、なるほどなるほどナルだけに」などとほざきながら納得していた。そんな僕らを不思議そうに見つめながら、開けた扉を手で抑えて僕等が家に入るのを待っていたエアリに、ニムニムが誤魔化すように僕の紹介を始める。


「あのですねー、このナルってやつは見ての通りおかしなやつなんですよー。元々は森に住んでいたパーサーカーなんですけどねぇ、だからほら、服もだっさいし、そんなこんなで野生のまま独りよがりに生きてきた奴だから、あの偉大なるアン様のことを教えてやって根を正してやろうと思いましてねえ!」

 

 何を言ってるんだこいつは、そう思い反論しようとして口を開いたところで、僕は思い止まった。僕が本の外から来たということは言わない方が良いのだろうか? そもそもここを本の内などと言っても逆に僕が「何を言ってるんだこいつは」、と思われるだけかもしれない。

 そういえば僕は今、現実だとどうなっているのだろうか。まさかニムニムの様子からして浦島太郎にはならないだろうけれど、本の上で爆睡していたりするのだろうか。戻ったときに寝違えたりしていたらどうしよう。

 ともかく、無駄に混乱を招くことは好ましくないはずだ。後でデコピンするだけで許してやろうと心に決め、ニムニムの顔が青冷めるのを横目で見て満足してから僕は家の中へと入った。エアリは靴を履いており、玄関付近に下駄箱なども無いようなので、どうやら土足のままでも良いらしい。

 これらのことについてだが、町並みやすれ違った人々の顔、それからこのエアリもそうだ。僕はこのしばらくで絵本には出てこなかった物事をこの世界でいくつか見てきた。そもそも来た時点で、アンの死後の世界として当たり前のように確立している時点でそれは分かっていたのだが、やはりなんだかもどかしさがある。描かれていなくとも決められていた設定であれば反映されるのだろうか、ここの作者もこんなしょぼい本の為にそこまで考えていただなんて、なんとも無駄な人生だ。


「そうだったのかい……」


 そうして無駄なことを考えていた僕の顔がどうやら暗かったらしく、それがエアリに拍車を掛けたのか、エアリは声のトーンと眉を少し落として僕を慰めようとしてきた。


「大変だったねえナル。もう大丈夫よ、これからはあたしに好きなだけ頼ってくれて構わないからね。母親だと思って甘えてくれよ」

「………………」


 なんだか気遣われ、複雑な気分になる。

 僕の心情を察したらしく、ニムニムが話をそらそうとへらへらしながら再び口を開いた。


「そ、そうですよーナルぅ、甘えましょう!あ、そういえばですねー、キミをエアリさんの所へ連れてきたのには屋根を借りる以外にも理由があるのです。なんとなんと、このエアリさんはあのアン様の育て親なのですよ!わーぱちぱちぱちー」


 何はしゃいでるんだこいつは。

 というかこれがあのアンの親なのか……。絵本ではデフォルメがきつく顔は普通の少女の様の描かれていたが、まさかこの世界でも遺伝子を次いで巨体だったりするのだろうか。


「あぁ、いやいや違いますよー。アン様は元々孤児なんです。それをエアリさんが引き取って育ててくださったんですよ。ね、エアリさん!」


 ニムフェ・ニムファ、貴様常に心を読んでいるな。エアリの方も読まれているのだろうか。

 とりあえず僕は形だけでも礼などを言おうと、エアリを振り返ったところで思い出した。僕は玄関に立っていて、その所為で僕が邪魔でエアリが家に入れていない。ずっと外に居たらしい、申し訳なく思いながら奥へと進む僕の背に続いて、ニムニム、それから大柄なエアリと、その後ろから紳士的な男性と子供が三人、それにくっついて森で見た犬型のやや小さい版が入って来た。

 あれなんか増えてる。

 家族だろうか、出掛けててでもいたのだろう、バザーだもんね。

 しかしこの家、やっぱり犬がいたんだね。

 !?


「ニムニム、犬だ!!!」

「何はしゃいでるんですか」


 やはり僕の勘は正しかった。考え事をしていた所為で数分頭から離れてしまっていたが、素早く構えを戻す。

 手早く片付けよう。


「って何しようとしてるんですか!!!ペット片付けられて堪りますか!!!」


 当然の様にニムニムに心を読まれた訳だが、こればかりは譲れない。僕に歯向かいそしてこれ以上汚そうとするやつには、たとえペットであろうと容赦などできるものか!


「あらあんた、おかえり」

「やぁエアリ、ただいま。寂しくなかったかい?」

「今は最高に幸せだよ、あんた達もおかえり」

『ただいまー!!!』

「オレもいるぞ!」

「はいはいエリス、アリス、リリスもおかえり、オオトモもおかえりなさい」

「あっ、おかえりなさいですー。おじゃましてますお久しぶり」


 エアリがそれぞれに声をかけると男性、少女達、小犬の順番で返事を返す。そしておまけのニムニム。相変わらず僕らにエアリは何も言ってこない。ふざけあっているのだと思われているのだろうか。確かにそうかもしれない。


「いや待てニムニム、こいつは犬なのか!?」

「いやオオトモは狼ですよ」

「ハァ!? 誰だお前、いきなりこいつとはなんだ!」

「だがしかし狼だろうと関係ない!」

「ならなぜ聞いた!?」


 身構えていた僕に、案の定オオトモがキレて襲い掛かってくる。やっぱり狼は野蛮だ!犬と大して変わらん!!

 出会い頭に戦闘を始める僕等を、エアリは微笑みながら「あらさっそく仲良くなったのねえ」などと言い見守る。本当にペットなのかこいつ、勝手に付いて来ただけじゃないのか? 飼い主にも心配されないなんて流石犬コロだな!


「とどめだぁぁぁ!!!」

「ナルやめれええええええ!!!」


 盛り上がって来たところで、ニムニムが邪魔こ入ってくる。なんたることか、再び僕の顔に向かって突っ込んで来たのだ。だがしかしこれ以上傷付けられてたまるかと、身を翻した僕の一瞬の隙をオオトモは見逃さなかった。僕は足に犬コロからタックルをくらい、そのままよろけて紳士の方へと倒れ込む。

 ブチャッ。床に手を突き四つん這いになっていた僕は、そんな破裂音を聞いた。

 視界に入るのは、紳士が来ていた服、それから散らばった緑色の液体。手に付くそれは、すこしべとついていた。

 そしてそこに、先程までいた紳士の姿は無い。


「……えっ」


 状況が把握できない。もう意味が分からない。

 まさか……これは……。


「僕が……殺した?」


 ふと、オオトモの顔を見る。犬コロの分際で奴は、驚愕といった表情を浮かべていた。

 そうか、そうなのか……。紳士さん……僕が大人げなく取り乱したあまりあなたは……。

 緑色の液体に……。


「おっとっと、危ない危ない」


 絶望する僕の横顔に、何者かが声を掛けてくる。振り向くと、そこには散らばった液体が集束し、巨大な塊とったうねうねと動くナニカが居た。

 な、なんだこれは……。

 自分の顔が青冷めて行くのが分かる。

 大爆笑するニムニムの声に重なり、エアリが声をかけてきた。


「あらあら、大丈夫かいナル。ほらアンタ、いきなり溶けるからナルがビックリしてるじゃないか」

「ハッハッハ、すまないなナル君、少し驚かしてやろうかと思っていたんだがね、逆にこちらが驚ろかされてしまってこの様だよ。ハッハッハ」

「ナル、この人はスライムと人間のハーフなんだよ。驚いたかい?」

「うわぁぁぁああああああああああ!!!!」

「逃げたー」「逃げたよ」「逃げたね」

「なんなんだアイツ!!」

「うわぁー、やっちゃいましたね」


 僕の脳のキャパシティはもうとっくに限界を越えていた。もう抑えられないと、僕は来た道を振り返り、駆け出していた。



 

-




 やってしまった。

 パッギューラさんが悪い人じゃないのは僕でも分かる。

 だが苦手な犬種であるオオトモが居る事で緊張してたせいか、思わず逃げ出してしまっていた。

 もう戻れないな、致命的だ。

 辺りを見渡すといつの間にか町を抜けて草原に来ていた。

 町と祭りの活気はまだそんなに遠くないが明らかに小さくなっていた。

 ……なにやってんだか。


「ホント何やってんですか」

「……ニムニムか」

「はーいニムニムちゃんですよー。……落ち着きましたか?」


 いつの間にか肩の高さに飛んでいた羽虫に心配される。


「何シリアスしてんですか、自分がガキなだけでしょー」

「何を……ッ」


 反論したいところだが、でも確かにそうなのだ。僕が狭い世界に生きていた所為で、失礼を働いてしまったのだから。


「あら気持ち悪い。彼らはそんな柔じゃないですよ」

「え?」

「見ての通りパッギューラさんは魔物と人間のハーフです、それはやっぱり珍しいのですが、周りの人間からしたらどうです? 先程のキミもそうですが」

「……迫害」

「そう、愛の世界だからこそ、魔物のなどの害ある存在は無条件で忌み嫌われる。でもそんな事も、ものともせずに夫婦で支えあった夫婦は今や、町の人気モノなのですよ」

「……スゴいな」


「そうですね。アン様にもそれはちゃーんと引き継がれていますしね。……まあ、そんなだから、思春期のガキに何言われてもちゃんと謝れば許して貰えますよ」


 こんな羽虫に慰められるなんて、自分が情けない。


「さあ、というわけですので、行ったそばから飛び出して来たばかりですが、またエアリさんの家に向かいましょう! もう暗い! 夜!」

「……そうだな。少し抵抗はあるが、謝らなければいけないし」

「ガルル……」


『えっ?』


 気が付くと僕らは、犬型の魔物に周囲を囲まれていた!

 どうする?


「……オ、オオトモ?」

「違いますよ! オオトモはちっちゃいじゃないですか、でもオオトモの名前は『大きな支えになってくれる友達』が由来で……」

「現実逃避してる場合か!」

「あんたが言わないで下さい! 自己愛の魔法でなんとか出来ないんですか!」

「あぁ! それがあったか!」

「あ、ちなみにキミの自己愛だと対象が自分だけなので、火炎魔法とかチュウニビョー的なカッチョいいのは使えませんよ」

「じゃあなんとか出来ないな!」


 僕らの漫才を待ってくれる程魔物達は優しくない。今にも襲いかかって来そうな野郎共に、仕方なく僕は心を決め身構えた。最悪ニムニムを文字通り餌にしていて逃げ切ることもできそうだが、逆に言うと魔法のスーパーパワーでこいつだけでもぶん投げて逃がしてやれる訳か。

 絶対やらないけど。


「あっ、ワタシは飛べるので逃亡に関しては問題ナッシングーです」

「ギャフン!」

『えっ?』


 突如、一匹の犬型が吹っ飛んでくる。そのまま数メートルほど地面に身体を打ち付けながらこちらに向かって跳ねて来た後、僕らの少し前で止まり、動かなくなる。

 何事かと暗い視界に目を凝らして辺りを伺うと、やがてカチャカチャと鳴る音と共に、馬に乗った鎧の騎士が見えた。その数なんと……、いや暗くて数えられない、不明。

 

「大丈夫か君達! 我々は王宮騎士団だ!」

「やったーナル! 助かったよ!」

「ここは大人の私たちに任せてか弱い子供の君達は逃げなさい!」


 騎士団というからにはそれなりの数を揃えているのだろう、はしゃぐニムニムの言うとおり、どうやら助かる見込みはありそうだ。いや僕一人でも全然余裕で切り抜けられただろうけどね?

 それにしてもなんだよか弱いって。僕が? あんな鎧カチャカチャマンにナメられてる?

 それは少し、不愉快だな。


「あーあ、ナルシストスイッチ入っちゃった」

「どうしたんだ君達! 早く逃げなさい! ……あっ、危ない!」


 オッサンが叫んだ後に、狼が僕らに襲いかかって来た。

 構えはとっくに出来ている。隙など一切無い。なんなら騎士団をも倒して見せようものの意気込みだ。僕は拳を強く握る。必殺!


「動物虐待キィィィィィッッック!」

「ガフンッ!?」

「何!?」

「ワオ」


 僕の強烈な蹴り上げを顎に食らったクソ犬は、為す術なく倒れた。

 やはり犬型など僕だけで余裕だったらしい。さあもっとかかって来いと、犬型の群れに向けられた僕の目に写ったのは、この一瞬で残りの犬畜生共を無力化した騎士団とそのリーダーであろう人であった。やっぱり騎士団を倒すのはやめておこう。一人だけ鎧の色が赤いのは、返り血の所為ではないはずだ。近付いて来ていたため、暗くてもよく分かった。

 僕もこちらから歩み寄る。


「やあどうも、か弱い子供では無くパーフェクト人間のナルです」

「ただのナルシストバカです」


 今回はニムニムより先に、きちんと自己を紹介することができた。

執筆担当:塩辛

執筆補佐:くぬ

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