亡霊騎士団は突然に~其の七~
ベルーテは、サナリィの事が好きである。
透き通るような肌、艶やかな漆黒の髪、均整のとれた細身の身体、絶対的な強さ、容赦ない冷たい光を放つ瞳。
まだまだある。
第四騎士隊『命』なところ、素で毒薬を作れる料理の腕、自分の倍はある巨漢を軽々と投げ飛ばす怪力、その結果生ずる骨が折れる程のツッコミ、感情が瞬間湯沸し器なところ、俺に対する本気の殺気、壁にめり込むほどブッ飛ばされて、息も絶え絶えなのに顔面を踏んだときのブーツの感覚、さっきのあわや切り刻まれそうに…うん、あれはマジ、ヤバかった。今度から気を付けよう。
とにかく、俺はサナリィ隊長を愛している。
だからこんなチンケな爪野郎に時間をかけてはいけない。
無駄だ。こんなのと戦うくらいなら、まだ隊長にぶん殴られた方がよい。
ベルーテの槍は、攻撃のため跳躍した爪野郎を両断し、チンケな爪野郎は何が起こったかも感じぬまま、宙で砂となり崩れ落ちた。
サナリィは、30年間空白だった第四騎士隊の隊長である。
第四騎士隊は、簡単に言えば、実力はあるが部隊活動が苦手、いや、出来ない者の集まりであり、一癖も二癖もある者のみで構成されている。
このような曲者をまとめるには、それ相応の実力を求められるのだが、サナリィは、その実力以上、猛者共も震え上がる力を持っており、刃向かう者などは皆無であった。
以下、彼女の今回の戦いの記録である。
王宮に転移してきたのは、森でヴァンレットと戦った亡霊騎士の部下で、生前はボルボロッソ四天王と吟われた者達の成れの果てである。
その実力は、魔法大戦で一騎当千の働きをした頃と謙遜無いはずだった。
だが、今回は相手が悪すぎたようだ。
四天王のリーダー格である鎧の騎士以外は、既に語られたように瞬殺状態で、当のサナリィと斬り結んだ亡霊騎士も、サナリィの圧倒的な魔力の影響で、何も出来ずにただ消滅してしまった。
魔方陣は砕け散り、エリーナ姫の部屋に再び静寂が訪れた。
エリーナは、この一連の闘いを表情ひとつ変えずに見守っていた。