亡霊騎士団は突然に~其の四~
「お前がもし喋れるのなら、『踏み潰してやる、この虫けらどもが。』とでも言うのだろう。だが、言わせてもらえば、貴様は所詮そこまでのものなんだよ。」
モンドの左目が見開かれ、瞳にサファイア色の炎が宿った。
第二騎士隊の各隊員は、素早い動きで間合いを積め、それぞれが一太刀浴びせてはすぐにまた間合いをとった。
このようなヒットアンドウェイを巨大骸骨の踝に繰り返すと、脆くなった足首が巨体を支えきれなくなり、ミシミシッと不快な音を響かせながら折れた。
今や巨大骸骨は大地に這いつくばり、モンドのサファイアの瞳がとらえた敵の赤く光る急所は彼の目の前にあった。
「無様だな。貴様の軽はずみな行動のせいで、第一騎士隊と第三騎士隊の活躍が見られなくなったではないか。」
モンドは淡く光る剣を巨大骸骨の胸部に突き立てた。
「グオォォォォォォォォォォッ!」
巨大骸骨を構成していた骨は砂となり崩れ、二度と復活することはなかった。
チンッ
モンドは剣を鞘に納め、第二騎士隊は撤収を始めた。
「まずい…ホントに復活しないな。あー、何て説明しよう…。」
若き隊長の胃がシクシクと痛みだした。
「遅い!」
「遅いな…。」
第二騎士隊の後方で展開していた、第一、第三騎士隊の隊長は、それぞれヤキモキしていた。
「まさか、殲滅したんじゃないだろうな、アイツ。」
腕組みをした大柄な女剣士が呟く。
「うーん、アイツ、真面目だから『つい倒しちゃいました。』なんて言いかねないですからね。」
女剣士の言葉に、華奢な術士が応える。
待てど暮らせど、敵は姿を現さなかった。
「お仕置きだな。」
「そうですね。」
どうやら、モンドの胃痛の原因はここにあるようだった。
しばらくして姿を見せたのは、敵ではなく、無傷の第二騎士隊であった。
彼らは整然と隊列を整え、第一、第三騎士隊の方に向かってきたが、先頭を歩いているモンドの表情は冴えなかった。
「モンド隊長、敵はいなかったのか?」
先程の女剣士、第一騎士隊隊長サクラが、割れんばかりの声で問いかけた。
モンドは、思いの外サクラが怒っていることに激しく動揺した。
「い、いや、実はつい倒し…。」
「つい倒しちゃいました。ですか?」
サクラと話していた術士、第三騎士隊隊長キリエが、モンドの言葉を遮る。
「何か、集まって大きくなっちゃったから、急所が一個になっちゃって…余りにも愚かしい行為だったから、つい力が入ったというか、急所が見えちゃったというか、先輩方の手を煩わせたくなかったというか…。」
モンドは二人の機嫌を伺いながら、恐る恐る説明した。
「あ、やっぱ大きくなったんだ。あれ?約束では敵が形態を変えた時点で、引き継ぐんじゃなかったのかな?お姉さんずーっと待ってたんだけど。」
「あ、いや、余りにも手応えがなくて…。」
「それとも、我々はモンド隊長の信頼を得るには程遠い実力なんですかね。では、鍛え直して頂かないと。」
「えっ?えっ?何でそうなるんですか?イタタタタッ!サクラ隊長?腕を組んでくれるのは嬉しいんですが、何か間接キマってるし、それ以前に私の足、宙に浮いてるんですけどっ!それと、キリエ隊長!?さっきからバチバチスパークが眩しくて、それ、私に対するものじゃないですよね?それ、魔物とかに喰らわすヤツでしょ?あの丸焦げになるやつ。み、みんなっ!助けてぇー!」
モンドの叫び虚しく、彼は二人の隊長に連れられ、王宮の方へ消えていった。
「すいません隊長。自分達、あの二人相手は無理っす。」
その呟きは風に流され、各隊員は改めて認識した。
世の中には、魔物より怖い人達がいる。
今回の没ネタ~
・巨大骸骨の口からビーム。←もういいかな、みたいな。
・サクラとキリエが、攻撃しながらモンドを問い詰める。←ただの表現力不足。
・サクラ、モンドをハグ。→モンド全身骨折。←そこまで、やる?