始まりは花の香
「安心して。貴方が守ろうとした世界は無事たがら。」
ヴァンレットの耳元で姫が囁いた。
刹那、淡い花の香りがヴァンレットの周囲の空気を染め上げる。
「ふふっ、私、思い出しちゃった。」
踵を返し、姫、エリーナが玉座へ歩みを進める度に、エリーナの美しさに心を奪われ、魅惑の虜となった臣下達は、只々溜め息を漏らすだけだった。
エリーナは、玉座の前まで戻ると、声高らかに宣言した。
「ヴァンレット・ル・クルフォード・ナハトを王宮近衛騎士団団長に任命します!」
エリーナの凛とした宣言に、魂を抜かれ、自我を失った臣下共は、拍手喝采、歓声を揚げヴァンレットを讃えた。
一見すれば、国の最重要拠点の守り手を束ねる新たな長が決まった、手放しで祝うべき状況だが、当人であるヴァンレットの周囲の空間は、奈落というものが存在するのなら、正にその奈落の、更には、奈落の最も奥深い生命の存在を許さない暗黒そのものであった。
ヴァンレットは、呼吸すらままならず、喪失しそうな意識の中で、古の自分と戦っていた。
臣下共の歓声はおさまらず、エリーナの虜になりながらも臣下達は、王国随一の剣と術の使い手が永遠に国の安泰を守るものと信じていた。
周囲の歓声等は、ヴァンレットにはどうでもよいものであったが、ヴァンレットは古の己を振り切り、意を決して立ち上がりエリーナに深々と一礼した。
「謹んでその大役をお請けします。この身には重責ですが、姫の期待にそえる様邁進する所存。」
歓声は最高潮に達した。
いいんだ。これでよい。
騎士にとって、エリーナ様を直接警護出来る事、これ以上の幸せがあるだろうか。
全ては夢、そう、幻だったのだ。
ヴァンレットは、安堵し、普段の自身を取り戻しつつあった。
我が命に代えても、姫はお守りする。
お決まりだ。ものの数十秒前まで、自分が何に怯え、悩み、迷っていたかさえも忘れようとしたとき、ヴァンレットの脳髄に声が響き渡った。
「貴方の最期の魔法が世界を救ったの。」
「!!!」
「そして、私はココニイル。」
人が発した声ではない。
ヴァンレットの精神に直接語りかけてくる声。
その声の主は紛れもないエリーナのものであった。
今回の没ネタ~
・エリーナがヴァンレットに耳元で囁いた後にチュー→ヴァンレット失神。
・主人公の名前が「ナハトイェーガー」
・クイーン・エリーナ