[挿話]美味しい≒快感
旅立ち~紅茶とクッキーとサンドイッチの間ぐらいのお話です
パチパチと音を立てる焚き火を囲み、ゲンナリとした表情で、器の中身をかき混ぜるトリ・トレとは対象に、無表情だが、一定のペースで食事を続けるジョヤの姿がそこにあった。ヴァルシュもトリ・トレ程ではないが、決して美味そうな表情を浮かべてはいない。
「ジョヤちゃん、良く飽きずに食べれるわね。私なんて里からでた直後は、三食携帯食なんて一日で食欲を無くしたわよ?」
美味しいですと言いながら、砕いたビスケットで作ったオートミールを食べるジョヤを、偉いわねとトリ・トレは眺める。
はっきりいってザラザラとした食感と、塩以外の味がないそれは出来れば食べたくない代物だが、食材が基本手に入らない旅路では致し方ない。
「美味しいと飽きるんですか?」
その言葉に確かに美味しくとも、毎日続けば飽きるかもしれないと思うが、一日で飽きるものだろうか? と不思議そうにジョヤは尋ねる。
「いやいやいや、これそんなに美味しくないというか、はっきりいって不味いでしょ。ジョヤちゃん今までどんな食事をしてきたのよ」
真顔で問うジョヤに思わず、トリ・トレは思わず突っ込みを入れる。
「ドームに居た頃は、食事……ではないのですが、少なくともそういう行為は全て、味覚とは関係のない行為でした。ここに来て初めて、ヴァルシュさんに同じ物を頂いた時、見てくれは悪いが食べてみれば美味いぞ? とおっしゃっていたので、てっきり美味しいのだと思っていました」
「……確かに言った」
そういえば、そんなことも言ったと思い出す。あの頃は食べ方が分からないのではなく、食べたくないのだと思ってそんな言葉を投げかけた様な気がするとヴァルシュは、過去の記憶を振り返る。
「これは美味しくない部類に入るのですね……確かに、宿の食事の方が快感でした」
「快感……?」
何か、間違っていました? と、変わらないペースでオートミールに口を付けるジョヤに、味覚障害……? 偶然にも、ヴァルシュとトリ・トレは同時にそんな言葉を脳裏に浮かべる。ジョヤにだけは絶対料理をさせまいでおこうと二人は心に誓う。