episode-3 ~困惑~
俺が黙って見守っていると少女は徐々に泣きやみ、顔をあげた。
「あ...あの...ごめんなさい。わ、わたし...びっくりして...」
「いいよ、だいたいわかるから...。」
やさしく声をかけた。
今のは完璧だな。好感度アップ間違い無し!
「あ...ありがとうございます...」
「う、うん。」
...沈黙。
そりゃそうだ。
会って間もない人と会話が弾むわけがない。
確かにこんな状況だから色々話したいことはある。
しかし、ありすぎて何から喋っていいかわからない。
俺はしばらく考えたあげく、名前が一番無難だと考え、聞いてみることにする。
「あの」「あの...。」
...かぶった。
ただでさえ気まずいのに更に気まずい状況に...
「な...何ですか...?」
少女が俺とかぶらないように質問してくれた。
正直ものすごく助かった。
「いや、名前を聞こうと思って...。教えてくれるかな?」
「え?あ...た、立華みすずっていいます。」
俺は名前を聞かれなかったが一応名乗ることにいた。
「じゃあ...みすずさんでいいかな?俺の名前は紅月希。あ、あと敬語は使わなくていいよ。」
...ちょっと色々言いすぎたな。
そう思いながらみすずに目をやると、やはり困惑した顔でこちらを見ている。
可愛い。
...じゃなくて、どうしよう。
すると、みすずが唐突に口を開いた。
「のぞみ...ちゃん?...女の子ですか!?」
...びっくりした。
いきなりそんなこと聞かれるとは正直思わなかった。
確かに俺は希なんて名前だからよく言われたものだが、
ここまで真剣に驚かれ、なおかつ女であると信じられたのは初めてだ。
声や容姿でわかるだろ普通...。
どうやら俺が出会えたこの女の子は本物の天然さんのようだ。
俺はこの天然少女にやさしく自分の性別を教えてあげることにする。
「いや、俺は男だよ?こんな名前だし言われ慣れてるから気にしないで。」
するとみすずは一瞬表情が和らいだかと思うとまた硬い表情となり、大きく口を開く。
「お...男ですか!?な、なんかあやしいです!証拠を見せてください!!」
また驚かされた。
なんなんだこの子は...。
だいたい証拠と言われても何を見せたら...
家までこれば学生証か保険証があるが今の俺には触ることもできない。
...あとは卑猥なものしか思い浮かばない。
しかし、いくらなんでも初対面の女の子にそんなものを見せる俺ではない。
「な...何を見せたらいいの?」
そう聞くとみすずは少し考え、
「え...あ、あの...。」
と言いながら赤面していく。
やっと俺と同じ思考までたどり着いたのだろう。
俺の想像より天然であることはよく分かった。
ここで俺は気持ちを切り替えて最低限の情報を共有することにした。
「君もこの次元に飛ばされたんだよね...?」
「はい...。私はこの次元に飛ばされて...私だけで...友達はみんな普通に...。」
また泣きそうになるみすずに質問を重ねて涙を止める。
「この場所について何か知ってることはある...?」
「いえ...ニュースでやってたことぐらいしか...。」
だろうな。
まぁ期待はしてなかった。
ちゃんとニュースを見てたことすらも驚くほどだ。
「なら状況は同じか...どうする?」
みすずは俺の唐突な質問に困惑する。
予想どうりの反応をしてくれたのでちょっと嬉しい。
「ここから二人で抜け出す方法を考えるか...また一人に戻るか。」
「ひ...ひとりは嫌です...。」
言ってから、"二人でいよう"と言ってるようなものだと気付いたがまぁいい。
俺だってまた一人に戻るのなんてごめんだからな。
「じゃあ、とりあえず立てよ。」
俺はそう言ってずっと座り込んでいるみすずに手を差し伸べた。
みすずは、「あ、はい。」といいながら俺の手を――――――
―――握れずに、すり抜けた。
「みすず!?」
おもわず一歩引いてしまう。
瞬時にみすずを警戒してしまった。
だが、みすずも困惑している
どうやらこの警戒は無駄だったようだ。
...確認のためもう一度手を取ろうとするが、やはりすり抜ける。
何故...?
何故俺はみすずに触れることが出来ない...?
俺はこの事態で、みすずにかけるべき言葉を見つけられなかった。