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78:エピローグ

 屋敷の地下室に、僕たちはいた。


「その魔法陣、合図するまで触るでないぞ」

「分かってますってば」


 イサさんは、今日もとの世界へ帰る。

 これで世界に平穏が訪れる。万歳。


「晩御飯どうしようかと思ったけど、助かったわー」


 当の本人は、ちっとも感慨深げじゃなかった。

 隣の家へお茶を飲みに行ってきた、その程度にしか考えてなさそうだ。


 最初に乗ってきた乗り物には、来た時と少しだけ違う荷物。

 イサさんが持ち込んだ食材はとうの昔に料理されちゃったけど、近所のおばさんたちが「餞別だ」って言って、いろんなものを渡してた。

 それが山ほど入ってる。


「帰ったらこれで、急いで晩御飯作らなきゃ」


 本当におばさんって生き物は、どうしてこう現実的なんだろう?

 もうすこし情緒とかを理解すればいいのに。


 師匠の長い長い呪に反応して、魔法陣が光り出す。


「イサさん、行きますよ」

「はいはーい」


 緊張感のカケラもない声で、おばさんが返事をした。

 一歩、踏み出す。


「わー、帰ってきたー」


 そう言うイサさんの声が、遠く聞こえた。


 目の前に広がるのは、想像を絶する異世界。


 近くにあるのは、たぶん家だろう。

 でもどれも二階建て三階建てで、何部屋も中にありそうだ。


 遠くの建物はどれも塔のように高くて、もっともっと大きくて、空を遮るようにいくつもいくつも建っている。


 でもいちばん目を奪われたのは、薄桃色の木。

 僕が今いる広場と、その周りに続く道のどれも見渡す限り、薄桃色の花で覆われた大木が植えられてる。


「きれい、ですね……」

「桜、きれいでしょ。ちょうど満開ね」


 夕闇に浮かび上がる、一面の薄桃色。

 見上げる大木は、空までも薄桃色に染めていた。


 そよ風が吹いて、はらはらと花びらが散る。


「一年でいちばん、この国が綺麗な季節なの」


 言いながらおばさんが大木の一つに歩み寄って、「本当はいけないんだけど」と言いながら、下のほうの花の房を、ひとつだけ摘んだ。


「はい、おみやげ」

「ありがとうございます」


 僕の世界には存在しない花。きっと師匠も喜ぶだろう。


 でもこの夢みたいな景色を、信じてくれるだろうか?

 それ以前に、想像してもらえるだろうか?


「――さ、帰らなきゃ。子供たち待ってるし」

「そうでしたね。僕も帰ります」


 イサさんが乗り物に乗る。

 金具にかけられた足が踏みこまれて、勢いがつく。


 夢のような薄桃色の中に、その後ろ姿が消えていった。


                                     【了】

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