06:今日はきっとご馳走
「ともかくその、陣がまた使えるようになるまで待ってくれませんか?
僕も師匠を手伝って、少しでも早く帰れるようにしますから」
「それはありがたいけど。でもあたし、その間どうすりゃいいのよ?」
言われて気づいた。確かにその間、おばさんを野ざらしにするわけにはいかない。
というかこのおばさんを野放しにしたら、村が大変なことになりそうだし。
「えっと、えっと、その間は――」
言いかけた僕の言葉を、師匠が勝手に引き継いだ。
「その間はここに居ればいいじゃろ。ワシとしてはあまり気が進まんが、かといって他の家にというのはさすがに……」
「ちょっとっ! 人を勝手に連れてきておいて、まだそういうこと言うわけっ!?」
またおばさんの怒りの声が炸裂。
「気が進まないとか言うなら、実験なんかしなきゃいいでしょ!」
「そ、そう言ってもな。実験せねば理論が証明できんじゃろうが」
「なら失敗しないでよ!」
なかなかおばさん、言うことがムチャクチャだ。でも師匠が困ってるから良しとする。
「失敗するなと言われても、実験には失敗が付き物じゃしなぁ」
「だからって他人に迷惑かけていいってもんじゃないでしょ! というか、迷惑かけといてその態度なんなのっ!」
要はこの辺が、おばさんの怒りの理由なんだろう。
まぁ師匠も、そういう他人のキモチとか迷惑は顧みない人だから、ここは言われて少し凹んどけって感じだ。
内心ニヤニヤしながら、でも顔には絶対出さないように注意しつつやり取りを見守る。
けどそのうち、僕は重大なことに気づいた。
――夕飯、どうしよう。
僕と師匠の夕飯は、いつも隣の家が作ってくれる。
師匠が言うには、なぜかここの領主がそのお金を出してくれてるんだそうだ。
でもそれは当然二人分で、おばさんの分は入ってない。
そしてあのおばさんの勢いだと、夕飯が無いなんて許さないだろうから、きっと僕の食べる分が無くなる。
それは絶対にイヤだった。
大食らいの師匠のせいで、ただでさえ僕の夕食は少なくなりがちだ。
そのせいでいつもお腹いっぱいなんて食べられなくて、朝ごはんの直前とか夕食の直前はフラフラしてるのに、全部とられたら絶対飢え死にする。
夕食ナシという最悪の事態を避けるために、僕はやむなくやり取りに口を挟んだ。
それにもしかしたら、今思いついたすばらしい作戦が上手くいくかもしれない。
「あのですね、大事なことが」
「なによ」「なんじゃ」
二人から同時に答えが返ってくる。
特に師匠の声はあからさまにホッとしてて、僕を後悔させた。
でも飢えをしのぐためには仕方が無い。
父さんもよく、メシのためにはイヤなことも我慢してやるしかないんだ、って言ってたし。
ひとつ息を吸って、口を開く。
「おば……じゃない、イサさんにここに居てもらうのはいいですけど、師匠、食事どうします?」
師匠が眉根を寄せて思案顔になった。やっぱりおばさんの食事のこととか、まったく頭に無かったみたいだ。
気づいてよかった。
「食事といわれても、何かあるじゃろう?」
「無いですよ。隣に頼んでるの、二人分じゃないですか」
そして僕は思いついた作戦を実行した。
「だから明日からはともかく、今日はどこかで食べたらどうでしょう?」
「むぅ」
師匠が顎に手を当てて考え込む。でも即効で却下されてないから、かなり勝算アリだ。
今日はきっとご馳走だ。
ステップ踏みたくなるくらい嬉しい。
何しろ師匠ときたら、食べるものは量さえあればいいって人で、ここへ来てからご馳走なんて食べたこと無い。
かなり味に難点があったけど、それでも特別な日にはご馳走を作ってた、実家のほうがまだマシだった。
それが今日、やっと――。
「だったら隣の飯炊き女に、増えたと言えばいいかの。よく見たらまだ明るい時間じゃから、まだ間に合うじゃろ」
「え……」
師匠がそんなことに気づくなんて予想外だ。というか時間なんて気にしたこと無いのに、今日に限って気にするなんてヒド過ぎる。
しかもそこへ、おばさんまで口を出してきた。
「何よ、隣に頼んでるなら大変じゃない。すぐ言わないと向こうだって困るわ」
「いや、ですから……」
せっかく今日はご馳走が食べられると思ったのに、なんか話の方向が違いすぎる。




