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06:違うセカイ、同じ世渡り?

「どういうこと?」

「どういう、と言われても。

 なんというかの、あんたが来た同じ場所には、ほぼ同じ時間にしか繋がらんのじゃ」


 初耳だ。

 というか師匠、そういう重大なことは、やる前に教えてください。


 師匠の言葉が続く。


「この異世界に繋ぐ陣はの、最初はどこへ繋がるか分からんが、繋がってしまえば座標を取れる」


 それは確か僕も前に聞いた。

 なんでも「世界座標」とかいうものがあって、それが分かるとどの世界のどの位置のどの時間かっていうのが特定できるって言う。


 それを師匠、さっきとっさに取ったんだろう。

 というかきっとその作業中だと思ったから、僕もおばさんが師匠に話しかけるのを止めたんだし。


 おばさんの方は思案顔だ。

 小首をかしげてるのが妙に可愛くて癪に障る。


「つまり……座標が分かってるから大丈夫ってこと?

 でもじゃぁなんで、時間が過ぎないの?」


 おばさん、案外鋭いかもしれない。

 喜んだのは師匠だ。何しろ師匠、こういう鋭い質問が大好きだったりする。


「時間はな、繋ぎっぱなしだと過ぎるんじゃ」

「あぁじゃぁ、今は繋がってないんだ」


 おばさん、なんでそんなあっさり理解するんですか。

 僕でさえ理解するのに一週間はかかったのに。

 師匠の方は満足げにうんうん頷いてる。


「さっき座標だけ取って一旦切ったからの、今度やった時に繋がるのは、そうじゃの……あんたが来た一瞬か二瞬か、ともかくそのくらいしか過ぎていないところじゃよ」

「そういうことね。驚かさないでよ」


 誰も驚かしてなんてない……って言いたかったけど、言ったらヒドい目に遭いそうだから、言わずに言葉を飲み込んだ。

 話の方は僕に関係なく続いてく。


「で、今すぐ大慌てじゃなくていいとして、いつ帰れるわけ?」

「んー、五十日くらい後かの」

「何でそんなにかかるのよ!」


 間髪入れずのおばさんの抗議。

 でもこの状況に慣れてきたらしい師匠――なんか悔しい――は飄々と答えた。


「さっきの召喚で、陣が魔力を使い切っての。

 また使えるようになるまでに、どうしてもそのくらいかかるんじゃ。まぁ諦めてくれ」


 あ、やぶ蛇、と思ったけど、僕は何も言わなかった。


 父さんからいつも言われたのは、「余計なことは言うな」だ。

 横から口を出すとロクなことがない、世の中黙っているに限るっていうのが父さんの持論で、僕の見る限り、それはいつも場合正しい。


 そんなわけで親孝行な僕は、ちゃんと父さんの言いつけを守った。

 そして言われた側のおばさんは。


「ちょっと! 人を勝手に連れてきておいて、『諦めてくれ』ってどういう言い草?!

 歳食ってるから何言ってもいいってもんじゃないわよ!」


 当然師匠に食ってかかった。


「だいたいね! その歳さえくってりゃ偉いってその発想自体気に入らない!

 何がカメのコウより歳のコウよ、幾つになってもダメなものはダメ、あったりまえでしょっ!」


 一気にまくし立てて、また師匠がたじたじになる。


「いやだから、その、要は待ってくれと言うわけで……」

「だったらそう言いなさい!

 そもそもね、そっちが謝る状況なのに『諦めろ』って何なの!

 誠意とか謝罪とかそういうものが先でしょうが!」


 やっぱり師匠みたいな人には、おばさんが最終兵器になりそうだ。


 師匠のそばにこのおばさんがいれば、師匠の人でなしな言動が少しは治るんじゃないだろか?

 だとしたらそれだけで、僕にとってこの事故は価値がある。


 ただ、絶対に言うわけにはいかなかった。

 ただでさえおばさんはこの事故に腹を立ててるわけで、なのにそんなことを迂闊に言ったら、僕まで一緒に悪者扱いだ。


 悪いのは実験を企てた師匠で、僕はただの助手。

 できたらおばさんを助ける側に回って得点を稼ぐのが、ここは絶対賢いだろう。


「とりあえずライサさん……でしたっけ?」

「イサっ! ライサはやめてって言ったでしょ、もう忘れたの!?」


 うっかりミスで僕のほうに矛先が向きかける。


「す、すみませんイサさん。それでですね、えっと、師匠の実験でご迷惑をおかけしたのは謝ります」


 そこまで言ってはっとする。

 何で僕、頭下げてるんだろう?


 けどさすがにここで撤回はできない。そんなことしたら余計に印象が悪くなる。

 ともかくここはガマンガマン、そう自分に言い聞かせた。

 頭なんて何回下げてもタダだって、父さんも言ってたし。


 ちょっとだけモヤモヤしながら、僕は謝り続ける。

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