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04:ヨジハンの呪い

「師匠、このおば……いや、この人に説明してください。未熟な僕じゃ手に余ります」


 途中で「おばさん」って言いそうになって慌てて言い直して、ついでに自分を下げて師匠を上げて。


 ――なんで僕、この年でこんな苦労してるんだろう?


 だんだん情けなくなってくる。けどここで修行を諦めたら、今まで我慢してきた意味がない。父さんだっていつもそう言って、どんなことでも我慢してた。

 けど師匠は答えなかった。顎に手を当てながら、まだぶつぶつ言ってる。


「あの、ししょ――」

「ちょっとそこのじーさんっ!」


 僕の声にかぶさるようにして、地下室にカン高い怒声が響き渡った。

 これにはさすがの師匠も度肝を抜かれたみたいで、びくっと震えて辺りを見回す。


「な、な、なんじゃ?!」

「なんじゃじゃないわよこの立ち枯れオヤジ! 人をこんなとこへ連れてきて、とっとと説明しなさいってば!」


 師匠もしかして、こんなこと言われたの初めてなんだろか?

 目を白黒させて口をぱくぱくさせて、酸欠の魚みたいだ。


 同時に「おばさん」って種族をちょっと見直す。

 師匠にこんな顔させるなんて、並大抵じゃない。


「さぁ、ちゃんと説明しなさいってば。しなかったら容赦しないわよ」


 何をどう容赦しないのかは、ちょっと興味がある。

 けど僕に向けられるのだけは願い下げだ。師匠だけにしてほしい。


 師匠の方はまだ口をぱくぱくさせてたけど、おばさんの剣幕に押されて、なんとかしわがれ声を絞り出した。


「つ、つ、つまりじゃな、違う世界へ行く実験をしておって……」

「それは聞いた!」


 さっきと同じやり取りになる。


 まぁさっき言ったのは僕で、師匠にしてみれば初めておばさんにこれを言ったわけだから、気の毒と言えば気の毒だ。

 でも普段いろいろされてるから、むしろたまには困れ、って気分のほうが大きい。


 おばさんの怒りは収まる気配はなかった。


「で、ここどこ?」

「ここはユラという名前の村で……」

「それもさっき聞いた!」


 師匠、墓穴を掘りすぎだ。

 でもいつもコキ使われてる分、こういう「やられてる」師匠を見るとスカっとする。

 けどここで風向きが変わった。


「で、ここが仮に違う世界だとして。あたし帰れるの、帰れないの?!」

「そ、それは帰れる」


 師匠が断言して、おばさんのトーンが下がる。

 下がらなくていいのに。


「なんだ、そうならそうと言ってよ」

「言う暇なかったじゃろうが……」


 師匠が愚痴るけど、当然ながらおばさんは聞いてない。


「お茶なんか飲んでる場合じゃない、早く帰らなきゃ。ほらそこの二人、急いでよ」


 おばさん、横柄なことこの上ない。向かうところ敵なし、って感じだ。

 でも師匠は動かなかった。


「ちょっと、何してんのよ!」

「何と言われてもな。帰れるは帰れるが、今すぐというわけにはいかなくての」


 言って師匠、ずずっとお茶を――なんでいつもの不味いのじゃなくて僕のお茶――をすする。


「じゃから少々お茶を飲んでも変わ――」

「いいかげんにしてっ!」


 おばさんがついにキレた。


「あたしすぐ帰って、子供たちの夕食作んなきゃなのっ!

 こんなとこでぐずぐずしてるヒマないんだから!」


 子供たちの夕食ってとこが、現実味がありすぎる。

 そしてあの散らばった食べ物らしきものは、今夜の材料だったんだなーと今更ながらに思った。


 おばさんの降り注ぐ火矢みたいな言葉は、まだ続いてる。


「さぁ! とっとと立って! じゃないと、どんどん帰るのが遅くなっちゃうじゃない!」


 どうもこのおばさんには異世界へ来たっていうことも、その辺へ買い物に出たのと大差ないらしい。

 恐るべき肝っ玉の太さだ。


「あたしね、明日ヨジハン起きなの!

 今から帰って急いで夕食作って食べさせて、少しでも早く寝ないと辛いんだから!」


 ヨジハンっていうのがなんだか分からないけど、重大な事なんだろう。で、

 そのせいで帰るのを急いでるみたいだ。

 一方の師匠は、相変わらずのんびりしてた。


「あんたねぇ!」

「まぁまぁ。いつこちらを発っても、戻る時間は同じじゃよ」


 今度はおばさんが目を丸くする。

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