表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/15

15:甘い蜜

 ともかく僕が案内するんじゃなくて良かった。

 そう思いながら、あとを付いていく。


 長い廊下を歩いて、くぐり戸をくぐって階段を降りて。

 大きな屋敷やお城はたいていそうだけど、ここの厨房も火事予防で、離れにあるみたいだ。

 そうやってたどり着いた先は、大きなかまどが四つもある、立派な厨房だった。


「お連れしましたから、あとはお願いします」


 案内人の声に、白いエプロンをした恰幅のいい人が振り返る。


「あんたかい、ジモンの言ってた、ふわふわのパンの焼き方知ってる人って言うのは。あたしゃウッラ・ペーデル、ここを預かってる者さ」

「初めまして、イサよ」


 イサさんはにこやかに手を差し出したけど、僕は声が出なかった。

 おばさんだ。ここにもまたおばさんだ。


 たしかに厨房は、女の人が働いてることはある。

 あるけど、お城でチーフの座まで行くのは珍しい。というか、僕は初めて聞いた。


 何より、なんでこんなに「おばさん」づいてるんだろう。

 ただでさえここに厄介なおばさんがいるのに、さらに追加しなくたっていいと思う。

 本当に神様はヒドい。


 イサさんのほうは、相手がおばさんなことをちっとも気にしてなかった。

 きっと、自分もおばさんだからだろう。


「材料は何がいるんだい? 粉がいるのは分かるけどさ」

「あとは卵と油と、砂糖は……あるかな? なければ蜜ね」

「それなら山ほどあるよ。あと、粉は菓子用のでいいのかい?」

「んと……ともかくふんわり焼けるもの。ある?」

「ああ、あるよ。あと道具は何を用意すればいいかね」


 二人が相談を始めて、僕はただ立ってるしかなくなる。

 なんで僕、こんな場所でこんなことしてるんだろう?

 まだ朝ごはんも食べてないのに。

 しかもここは厨房なのに。


 お預けを食らった犬の気分だ。というか、イサさんおかしい。

 夕べだって大して食べてないのに、あの人なんでお腹空かないんだろうか。

 そんなこと考えてたら、お腹が盛大に鳴った。


「あら」「おや」


 おばさん二人が声を上げる。


「そういえばキミ、ご飯食べてなかったっけ?」

「あれま、じゃぁその辺のものでも食べるかい?」


 厨房おばさんがそう言うと、あっという間に食べ物が並んだ。


「残り物だけどね」


 厨房おばさんはそう言うけど、パンにチーズにスープまであって、しかもお城のなだけあって、師匠の家のよりずっと質がいい。

 おばさんはみんな魔人だけど、飢えから解放してくれることだけは確かみたいだ。


 必死にお腹を満たす僕を尻目に、おばさんたちはまだ相談を続けてた。

 でもそれも、やっと終わったらしい。


「だいたい分かったよ。ちょっと待ってな」


 厨房おばさんが手を叩いて、下働きの少年――だいたい台所の働き手は男だ――を呼ぶ。


「いいかい、いま言った物を持っておいで。割るんじゃないよ」


 怯えた顔でこくこくうなずいて、少年が走り去った。

 きっと彼も、「おばさん」って種族の怖さを、日々思い知ってるんだろう。きっと僕と気が合うに違いない。


 しばらくすると、少年が大急ぎで戻ってきた。

 僕が食べてる皿に、視線が突き刺さる。

 もう朝ごはんは終わってるはずなのに、僕のまで食べようって言うんだろうか?

 隣じゃおばさんが、びっくりした声を出してた。


「ここ、こんなに砂糖あるの?」

「そりゃあるさ」


 そんな話を聞きながら、なるほどと思った。

 僕らにとってお城に砂糖があるのは不思議じゃないけど、ふつうのユラの村から来た異世界のおばさんには、びっくりすることだったんだろう。

 で、当のおばさんは上機嫌だ。


「これなら楽だわー。蜜で作ったときは苦労したのよね」


 言いながら、手際よく粉だのなんだのを計ってる。


「砂糖と粉が同量なのかい」

「うん。あとだいたいこの半分の、水と油と……」

「油がバターじゃないってのがね。ふつうはそっちなんだけどねぇ」

「これがキモなのよー」


 とりあえず、二人とも楽しそうだ。

 これなら僕のほうには、当分矛先は向かないだろう。


 ひたすら様子を黙って見つめる。

 父さんもいつも、機嫌がいい女の人にはぜったい水を注すな、一生恨まれかねない、って言ってたし。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ