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14:案内人のホラー

「で、どうすればいいわけ? 起こしたってことは、誰かからそういう連絡あったんでしょ?」

「え? いや、それは……」

「なんだ。役に立たないわねー」


 言い放つとおばさんは、よいしょ、と言って立ち上がって、ドアを開けた。


「どこ行くんです?」

「厨房。待ってたってしょーがないでしょ」


 言ってさっさと出て行こうとするおばさんを、僕は慌てて止めた。


「ダメですよ、勝手に歩いたら。不審者と間違われたらどうするんですか」

「うー」


 よく分からない声を出しながら口を尖らせるさまは、まるで子供みたいだ。


 ――これだけ見てたら可愛いのに。


 なのになんで、あんな破壊力のある行動ばっかりするんだろう?

 でもともかくこのおばさんをなだめないと、僕まで城から追い出されかねない。


「きっとそのうち、誰かが呼びに来ますから。それまで待ちましょうよ」

「だって喉渇いたし」

「僕もお腹は空いてますってば……」


 思い出して悲しくなった。せっかく忘れようとしてたのに。

 そして同時に、切ない音でお腹が鳴る。


「キミもお腹空いてるんじゃない。厨房行こうよ」

「ダメですってば……」


 止めてる自分が、さらに悲しさを誘った。

 けど、やたらと動くわけに行かない。お城って言うのはそういところだ。

 ただ幸い、そんな押し問答をしてる間に、部屋のドアがノックされた。


「ザヴィーレイ様のところの料理人の、イサ様はおいでですか?」

「あたし料理人じゃないのにー」


 ふくれっ面になったおばさんを、再度なだめる。


「そう言わないと、許可が下りなかったんですよ。しょうがないじゃないですか」

「でも腹立つ」


 背筋を冷たいものが伝った。

 こういうふうに言う女の人には気をつけろって、父さんが言ってたからだ。


 父さんが言うには、女の人って言うのは腹が立ったこととかを、ずーっといつまでも覚えてるらしい。

 そして何か事あるごとにそれを持ち出して、こっちを不利に追い込むんだとか。


「女の人は絶対怒らせるんじゃない」それが父さんの口癖だった。

 なのに僕はいま、女の人を怒らせてしまったわけで……。


 でも自分に言い聞かせる。おばさんを怒らせたのは僕じゃなくて、このお城の人たちだ。

 僕は関係ない。ぜったいに関係ない。うん、それなら大丈夫なはずだ。


 ともかくこれ以上イサさんを刺激しちゃいけない。

 そう思った僕はドアを開けた。


「あの、何でしょうか?」


 ドアの向こうにいたのは、僕より十くらい年上に見える、きちんとした男性だ。

 きっとここのお客を案内する係なんだろう。


 本当なら僕たちなんて、ここの皿洗いと同じ扱いされても文句が言えない。

 なのにこんなちゃんとした人が案内に来るなんて、やっぱり持つべきものは偉大な師だ。

 その案内人が言う。


「料理長が、手が空いたので会いたいと。来られますか?」

「はいはーい」


 僕が何か言うより早く、おばさんが答えた。礼儀も何もあったもんじゃない。

 相手の人だって面食らってる。

 こんな無礼働いて追い出されたらどうするんだ、僕がそう思って謝ろうとしたとき。


「案内してくださるかしら?」


 僕の脇を悠然と歩いて前へでたおばさんが、総毛立つような声で言った。

 けっして脅すような声じゃない。むしろ柔らかくて、心地いい部類の声だ。


 なのに怖い。

 鳥肌が立つほど怖い。


 僕に背を向けてるから分からないけど、きっとにっこり微笑んでて、でもそれがとっても恐ろしい笑顔になってると思う。

 案内の人もよほど怖かったのか、そのまま動けなくなってる。そこへさらにおばさんが一言。


「あら、こんな年寄りのおばさん相手じゃ、お嫌だった? ごめんなさいね」

「い、いえ、こちらでございます!」


 怖い。怖すぎる。

 僕が案内人の立場なら、きっと逃げ出してる。

 案内人の人も度肝を抜かれたみたいで、まるで従者みたいにおばさんの案内してる。


 そして当のおばさんは、平然とした感じだ。

 まるでどっかの貴族みたいに、お城の中を堂々と歩いてる。

 もしかしたらこの人、向こうの世界じゃホントに貴族かもしれない。


 ――あ、でも、最初に来たとき、食材抱えてたっけ。


 食材抱えて走り回る貴族なんていないだろうから、そうすると違うんだろか?

 それとも、料理が趣味の貴族の奥様なんだろか?

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