13:それは憧れの
「今度来て、教えてくれとさ」
「お城まで? 遠そうねぇ」
この世界に慣れてないイサさんは、乗り気じゃなさそうだ。
馬車に酔う体質らしいから、よけいに嫌なんだろう。
けど、僕は行きたかった。
お城にはさっき話にも出てきたとおり、お姫さまがいる。
これが大変な美人だとかで、ひと目見たいと濠を泳いで渡って塀をよじ登るヤツまでいるんだとか。
で、お菓子を食べるのはその姫さまなわけで……おばさん、もしかしたら姫さまに会えるかもしれない。
だから上手く一緒に行ければ、僕も姫さまに会えるかもしれない。
「イサさん、行きましょうよ。せっかく欲しいって言ってるんです。食べさせてあげないと」
「でもねぇ……」
まだ渋るおばさんに、僕は重ねて言う。
「僕も行きます。荷物でもなんでも持ちますから」
「あら、荷物持ちしてくれるの?」
「ええ、もちろん!」
姫さまをひと目見られるなら、荷物なんてお安い御用だ。
「じゃぁ、行こうかな」
「ならイサ、息子にそう連絡するよ。スタニフ、手紙書いてくれるかい?」
「はい!」
村の人たちの手紙を書くのは、僕の仕事だ。
昔は村長さんがやってたらしいけど、あまりに忙しいから、師匠が村に来てからはみんなこっちへ来るようになった。
でも師匠はあの性格だから、僕が弟子になってからは、みんな僕に頼むようになってる。
「いま、ペン取ってきますね」
「あぁ、頼むよ」
そんな声を背に、うきうきしながら僕は自分の部屋へと駆けだした。
「イサさん、起きてます?」
「ふぁい」
寝ぼけ感満載の声だ。
というかきっと寝ぼけてる。
でもそろそろ起きてもらわないと、たぶんまずい。
「入りますよ」
念のために声をかけてから部屋に入ると、ベッドの上に布地の塊があった。
「イサさん、ホントに起きてます? というか、具合だいじょぶです?」
「だいじょぶー、たぶん」
なんだか頼りない答えが返ってくる。
お城の話が出てから十五日ほど経ったある日、僕たちはそのお城にいた。
ただお城って言っても、そんなに大きくはない。
ハッキリ言って、僕が育った村近くにあった首都の宮殿なんかとは、比べ物にならないくらい小さい。
まぁ領主様のお城で、国を統べる王様のお城じゃないから仕方ない。
でもちゃんとしたお城だ。
目的はもちろん、お城の料理人にお菓子を教えること。
僕が付き添うっていう話も、首尾よく許可が出た。
けど今は本気で、ついてきてよかったと思う。
イサさんが乗り物が苦手らしいのは聞いてたけど、予想以上だった。
僕たちがいたユラの村は、お城から歩いてせいぜい二日、馬車なら半日で着く。
なのにそれだけでぐったりで、着いたときにはふらふらしてた。こんなに弱い人、見たことない。
どうしても余裕が欲しい、教えるのは一泊して着いた翌日にしたいとおばさんが言い張ったときは、なんでそんなこと言うのかわからなかったけど、これじゃたしかに一泊必要だろう。
「イサさん、材料見るんじゃなかったんですか?」
「あーうー」
口ではそんなことを言いながら、イサさんはベッドから這い出した。
「粉と油と砂糖か蜂蜜くらい、あると思うんだけどなぁ」
「そりゃ、あるとは思いますけど」
なんたってここはお城だ。材料だって何でも高級品のはずだ。
――僕らのご飯はそうでもなかったけど。
僕らが案内されたのは、城に招かれた人が使う一室だ。
いちばん端っこのほうだけど、でもちゃんとお客が使う部屋だ。
城内の人間の紹介があったと、僕が魔導師ザヴィーレイの弟子だったのとで、城に招いていいってことになったらしい。昨日だってここの偉い人に、僕は名代として挨拶もした。
そう、僕は首都でも知られた――ここは首都じゃないけど――魔導師、ザヴィーレイの一番弟子なんだ。
そう思うと、なんだか背が高くなった気分になる。
「なにニヤけてるの?」
「ニヤけてませんよ。感慨にふけってるだけです」
「傍から見たら、ニヤけてるだけの怪しいヤツだけど?」
おばさんって生き物は容赦ない。でも僕はメゲなかった。
おばさんに理解を求めろというほうが、きっとムリなんだ。
そういうことにすれば、僕は悲しくなんてない。




