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10:世界を超えたソレ

「まぁまぁスタニフ、いいじゃない。別にヘンなところへ行ったわけじゃなし。

 それにイサだってこの通り、子供までいる人なんだ。ヒョロヒョロしてるあんたより、よっぽどしっかりしてるよ」


 今度こそ僕は何も返せなくなった。

 というか父さんの言うとおり、おばさんを納得させようってほうが無茶だった。


 それにしてもイサさん、これで子供って……そういやたしかに魔法陣通り抜けて来たときに、子供たちのご飯がどうとかは言ってたけど、ほっそりしてる身体はとても子持ちに見えない。

 おばさんたち二人は、黙ってしまった僕なんておかまいなしに、話を続けてる。


「さてっと、イサ、もう少しでスープができるからね。持ってお行きよ」

「ありがとう、ズデンカ。あたし立ちっぱなしだと時々倒れちゃうから、作ってもらえるとホントに助かるわー」

「気にしなくていいさ、いつも作ってるし、お皿のいい洗い方聞かせてくれたし。それより今度、さっき言ってた料理の作り方、教えとくれ」

「もちろん」


 なぜか二人、既に意気投合してる。

 父さんは「おばさんは国を越える」とか言ってたけど、世界まで越えてる。何かが起こりそうですごく怖い。


 それにしてもこのおばさん、立ちっぱなしだと倒れるって、かなり身体が弱くないだろか?

 たしかにたまに、いいとこのお嬢さんで、線が細くてそういう人はいるけど……。


 もしかするとイサさん、案外育ちがいいのかもしれないと思った。

 知識も語彙も豊富だし、太ってない――上流階級の女性はスタイルにすごく気を遣うから、中年になっても大抵痩せてる――し、何より手がまったく荒れてない。


 どっちにしても、イサさんがズデンカさんと仲良くなったのは、すごくありがたかった。

 ケンカでもされたら、僕のご飯がなくなる。


「さてっと、これでできた。スタニフ、ほらこの鍋持ってお行き」

「あ、はい、ありがとうございます」


 なぜか僕のほうが鍋を持たされる。

 けどさすがに、女の人に重い物を持たせることはできなかった。


「おば……じゃない、イサさん、戻りますよ」

「はーい。じゃね、ズデンカ」


 子供みたいな返事をして、おばさんが僕の後ろをトコトコついてくる。

 ちらっと見たら手を後ろに組んで辺りを見回してて、妙に可愛い。


 情が移りそうになるのをこらえながら、僕は言った。

 ここで言わないと、後々トラブルになる。


「ダメですよ、勝手に出たら」

「だからさっきも言ったでしょ、あなた寝てたって」


 一理ある。一理あるけど、でもやっぱりダメだ。


 だっておばさん、ここのこと何も知らない。

 しかも実験で間違ってここへ来て長逗留だから、迂闊に知られたら困る。

 隣のズデンカさんに知られた以上、もう手遅れかもしれないけど、それでも被害は減らすに限る。


 そのことを言うとおばさんはちょっとふくれっ面して、口を尖らせた。


「つまんない」

「つまんなくても、やめて下さい。何かあったら困ります」


 なんだかぶぅぶぅ言いながら、それでもおばさんは僕と一緒に屋敷に戻る。とりあえず良かった。

 ぽふ、と音を立てて、おばさんが僕が寝ていたソファに座る。


「で、今日はどうするの?」

「どうするのって言われても……」


 考え込む。

 僕の一日は、師匠に始まり師匠に終わる。


 師匠が散らかしたものを片付けて、師匠が汚した部屋を掃除して、師匠に言われた通りに手伝いをして、あとは合間に自分で魔法の勉強をするくらいだ。


 だから、予定なんてない。すべて師匠次第だ。

 それをおばさんに言ったら、あからさまに呆れた顔をされた。


「計画性無いわねー」

「そんなこと言ったって、僕は見習いです。見習いってこういうもんです。てか魔導師ザヴィーレイって言ったら、都でも有名なんですよ。そんな人の弟子になれるだけでも、すごく運がいいんですから」


「へぇ、あのじーちゃん偉かったんだ」

「そうですよ」


 言って僕は説明した。さすがこのままだと、弟子の僕の立場まで危うい。師匠はどうでもいいけど。

 ただそれでも、おばさんはさして感心したふうも無かった。


「でも、礼儀知らずの迷惑じーさんよね」

「それはそうですけど……」


 こう言われてしまうと、僕も言い返しようがない。

 何しろ事実だし。


 なによりこのおばさん、そういう「偉い」は理解しなそうだ。

 上流階級の人にたまにそう言う人は居るけど、そのたぐいなんだろう。

 ため息をついて僕は話題を変えた。

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