第99話 一目見ずには帰れない
走った先が何やら騒がしさを帯びる。
ここは未知の世界。どんなエネミーがいるか分からない。
「きら丸大丈夫かな」
視界が開ける。
たどり着いた先には村があった。でけえ丸の正面では、ダークエルフたちが槍や弓を構えている。
牢屋に拘束されているのとは髪型や顔立ちが違う。明らかに別個体だ。
ダークエルフたちが俺を見て目を見開く。
「バカな、どうして人間が魔界にいるんだ!」
ここは魔界という世界らしい。早速新しい情報が出てきた。
ダークエルフたちとでけえ丸とやり合った痕跡はない。彼らは思ったよりも好戦的じゃないようだ。
俺は声を張り上げる。
「俺たちに戦うつもりはない。武器を納めてくれないか?」
「それを信じろと言うのか」
「少なくとも俺は一人だ。この数的不利で戦うつもりはない」
ダークエルフたちが顔を見合わせて何やら話し合う。
ここにはでけえ丸がいるしヴォルテクス・ハチェットのチャージも終わっている。ラムネの攻撃もあるし負ける気はしない。
でも話を聞くチャンスだ。ここはやるっきゃない。
「分かった、だが話は聞かせてもらうぞ。ついてこい人間」
俺はダークエルフの案内を受けて広場に足を踏み入れる。
ダークエルフたちが俺たちの周囲を取り囲んだ。ずいぶん手洗い歓迎だ。
ひげを生やしたダークエルフが一歩前に出た。
「わしは村長のダブラじゃ。いくつか話を聞かせてもらうぞ」
「こっちの質問にも答えてくれるならな」
「よかろう、先にこちらから質問させてもらう。貴様はどうやって魔界に来た」
「地下の門を使った。ダークエルフたちに聞いてな」
「バカな、戦士たちが門の場所をしゃべったと言うのか」
ダークエルフの間で動揺が広がる。信頼されてたんだなあいつら。
哀れ、誇り高き戦士たち。
全部終わったらちゃんと説明してやるからな。
「戦士たちは生きているのか」
「ああ。さすがに拘束はさせてもらってるがな」
あちこちで安堵のため息が空気を揺らす。
「こっちからも聞きたい。どうして門をくぐってまで俺たちを滅ぼそうとしたんだ」
「別に滅ぼそうとしたわけではない。必要だから行った、それだけじゃ」
「長、それは」
ダブラさんが仲間を手で制す。
「侵攻した同胞を殺さずにいてくれたのだ。最低限の礼は尽くさねばなるまい」
ダブラさんが事情について語り出した。
魔界には魔王を名乗る王様がいるようだ。魔王いわく、脅威が迫っていると主張して妖精界への侵攻を命じたらしい。
聞いただけだと魔王が乱心したとしか思えない。魔王をどうにかしないと危機は去らないと考えるべきか。
「さっき滅ぼそうとしたわけじゃないって言ったな。もしかして妖精界に何かあるのか?」
「真偽は定かではないが、妖精界には古の兵器が眠るとされておる。魔王はそれが欲しいのじゃろう」
なるほど見えてきた。その兵器を独占したいから先住民のアメリアたちにはご退場願いたいってことか。
自分勝手だなぁ。侵略者なんていつでも自分勝手だとは思うけど。
「その兵器がどんなのか分かってるのか?」
「さあな」
「おい」
「別に隠したわけではない、わしらまで情報が下りてこないだけじゃ。兵器が一つなのか二つなのか、どんな兵器かすら分からん」
「そんな状態でよく従ったな」
「見たことがあるからな。異変を」
「異変って?」
「子供を探しに川を下った時のことじゃ。夜の渓流におぞましい人型の魔物がうごめいておった。一目散に逃げ帰ったのは後にも先にもあの時だけだ」
よく分からないが、そこまで言うからには相当やばいものなんだろう。
興味をそそられる話じゃないか。
「俺、そろそろ妖精界に戻りたいんだがいいか?」
「ああ。構わん」
「長老! 彼らを行かせるつもりですか!」
「たわけ。手を出して同胞の命を危険にさらすつもりか」
「しかし魔王がこれを知ったらどうなるか」
「もともと我らは世俗から距離を置いておる。奴らが圧力をかけてきたから仕方なく従ったにすぎん。もしもの時は妖精の側に寝返ってやるまでよ」
ダークエルフたちがぎょっとする。
驚いたのは一部。意外と魔王に対する不満が溜まっていそうだ。
「そりゃいいな。妖精界に戻ったらトップと話をつけといてやるよ」
俺たちは一通り情報を交換してダークエルフの村を後にした。
俺はきら丸とラムネを連れて坂を下る。
ダークエルフが畏れたという妖しい影。いかにもなきっとレアな素材を持っているに違いない。
「見ずに帰れないよなやっぱ」
川を目指しながら採取ポイントも探す。
ピッケルの音でエネミーが寄るから発掘はまた今度だ。回復のためにオーバーズフを優先して集める。
でけえ丸から鉱石系アイテムを受け取って、代わりに薬草のオーバーズフをたくわえさせる。
ゼロツーの不在が悔やまれるな。面白そうなエネミーがいると分かっていれば連れてきたのに。
目的地の渓流に到着した。
周りを見渡しても妖しい影は見られない。
ダークエルフの長老が見た時は夜時間だった。しばらく時間を潰さないと駄目そうだ。
「せっかくだし川釣りでもするか」
俺は釣り竿を発現させて、釣り針に川釣り用のエサをくくりつけた。
ヒュッと釣り竿を振ってヒットを待つ。
「魔界の川はどんなのが釣れるかな」
一分とせずに浮きが沈んだ。
気合とともに釣り竿を引き上げる。
「むっ」
釣り竿が上がらない。
岩にでも引っかかったかと思いきやグイッと引っ張られた。
「おっと」
地面に靴裏を押しつけてふんばる。
魔界の魚は活きが良いな。
数秒の均衡がくずれて紫の魚が宙を舞った。
レア度4
『スヴァニア』
鋭利な牙を持つ肉食魚。噛まれた獲物は毒により数秒で死に至る。
あと肝が苦い。それはもうすさまじく。
「お、おう。肝が苦いのか」
そんなに強調しなくても。てか食えるんだなこれ。
ポーチに収納される魚をしり目にエサをつけ直して竿を振る。
またスヴァニアが釣れた。
次もスヴァニア。
さらにスヴァニア。
スヴァニア、スヴァニア、スヴァニア!
「スヴァニアしかいないのかよここ!」
一種類の魚しか存在しないとかありえないだろ。
スヴァニアが他の生き物を食いつくしたってことか? あげく共食いを繰り返して終わってる川ができ上がったってことか?
終わってる。
何かもう、色々と。
「釣り場変えようかなぁ」
次もスヴァニアだったら移動しよう。
そう思って竿を振ろうとした時だった。視界の隅に紫の霧が映る。
「何だ」
きら丸とラムネが鳴き声を上げる。何かを警戒するような声色だ。
まさかと思って振り向くとドクンと鼓動がした。
俺の胸の奧からじゃない。空間が鼓動したというか、いまいち形容しがたい感覚だ。
そんな現象を引き起こした存在は、まさしく形容しがたきものだった。
「うわ何だあれ」
人型の体表がうごめいている。はっきり言って気持ち悪い。
よくよく見ると細長いものが束になっている。蛇が何十匹も重なって人型をなしているみたいだ。
き も い!
「おわっ!?」
前触れなく腕が伸びてきた。完全にはかわし切れずわき腹に赤い線が走る。
ただのかすり傷。
それだけで視界の左上に映るHPバーが七割減った。
「はあ!?」
減りすぎだろ! かすっただけだぞ今の! こんなんじゃでけえ丸に前を張らせても一分ともたない。
駄目だこりゃ、勝てんわ。
ここは逃げるに限る!




