第98話 新エリアのレア素材
「この辺りだな」
俺たちは遺跡じみた場所に足を運んだ。
あちこちに石造りの建物だったモノが散らばっている。コケもびっしり繁殖して終わった雰囲気のある場所だ。
ダークエルフから聞き出した情報によると、この辺りに転移装置が隠れている。
特別障害物はないがパッと見して目につく物もない。手当たり次第にやるしかないな。
「グループごとに散開して装置を探してください」
アメリアの号令で妖精たちが散開した。
俺はアメリアのグループに混じってきら丸たちと装置を探す。
探すこと数分。ラムネが上空から降りてきてピィピィ鳴いた。くちばしがカカカッと柱をつつく。
「そこに何かあるのかラムネ」
俺は石の柱に歩み寄って右手で触れる。
何も反応がない。
どうすりゃいいんだ。分かりやすい装置だと思い込んでいたから詳しく聞いて来なかったぞ。
仕方ない、またあいつらの前でニュールネトリオングのふたを開くか。
「フトシさん!」
アメリアの呼びかけを受けて視線を振ると、水色の光が柱の表面を駆けめぐっている。
光の発生箇所にはアメリアの右手がある。スイッチのような物が見られない辺りNPCあるいは妖精の接触が起動のトリガーなのかもしれない。
ズズゥンと微かに地面が揺れる。
離れた位置で石の地面が暗がりをのぞかせた。
「隠し通路か」
「みんな考えることは同じなんですね」
俺たちは階段を下って地下空間に足を踏み入れる。
歩いた末に小部屋にたどり着いた。
薄く水色を帯びた空間に石造りの門がぽつんと立っている。
「ダークエルフたちが言ってたのはこれだな」
俺は右側にある台座に触れる。
門の中で闇が渦巻いた。
「この先にダークエルフたちの故郷があるんですね」
「そのはずだ。じゃ俺たちで偵察してくるよ。いくぞきら丸、ラムネ」
「キュ」
「ピィ」
ラムネが俺の肩にとまった。
きら丸は回復アイテムを詰め込んでないが今回は偵察。激しくやり合うつもりはないから問題ないだろう。
採取ポイントがあったら限界まで採集するつもりだし。
「そんな、フトシさんたちだけじゃ危ないですよ」
「大丈夫だって。敵に見つかったらすぐに逃げるからさ」
「……分かりました。すぐに戻ってきてくださいね」
俺は門の闇へと一歩踏み出す。きら丸もすぐ後ろに続く。
視界内が一瞬真っ白に染まる。
一拍おいていくたもの樹木が映った。赤紫の葉をつけた樹木が空間を禍々しく飾っている。
「嫌な感じのするところだな」
俺は土の地面に靴裏をつける。
ここはダークエルフたちが来た世界。どこから敵が襲ってくるか分からない。
慎重に足を進めていると前方に採取ポイントを見つけた。
「やっぱりこの世界にもあるのか」
危険を頭の片隅に追いやって地面を蹴った。かがんで植物系アイテムを採取する。
レア度3
『オーバーズフ』
後味の悪い薬草。しかしこれを素材にしたポーションは高性能。
「早速初見のアイテムが来たな」
高性能のポーションか。レア度からしてハイポーションよりも多く回復できるんだろうな。
きら丸とともに採取を終えて次の採取ポイントを探す。
今度は鉱脈を見つけた。ピッケルを打ちつけるなりカンッと甲高い音が鳴り響く。
暗褐色の鉱石が地面の上を転がる。
レア度4
『オブソディア鉱石』
魔力を秘めた黒い鉱石。芸術品の素材としても用いられる。
こっちも妖精界じゃ得られなかったアイテムだ。真っ黒だけど品があって眺めるだけでも面白い。
俺は引き続きピッケルを振るって鉱石を発掘する。
「キュッキュッ」
となりで発掘を進めるきら丸がどんどんでかくなっていく。
でけえ丸形態を見るのもずいぶん久しぶりな気がするな。
「ん」
地面が微かに揺れる。
気のせいか?
そう思ったが今度は明らかに地面が揺れた。しかも音がどんどん迫ってくる。
「何だ」
俺は作業の手を止めて目を凝らす。
遠くで何かが動いている。
ゾウだ。山のような巨体が地面をドシドシ言わせて迫る。
体表は岩を思わせる茶色。明らかに俺が知ってる動物じゃない。
「さすがにピッケルの音がうるさかったか」
後悔はしていない。新しいアイテムがたくさん手に入ったし満足だ。
でもまだ満足できない。目の前にある鉱脈から採れるだけ採り尽くしたい。
「きら丸、時間稼ぎを頼めるか」
「キュッ」
でけえ丸が体をぷよぷよさせて前に出る。
俺はピッケルの柄を握って鉱脈に振り下ろす。
後方で鈍い激突音がした。俺は視線を左上に振ってきら丸のHPを視認する。
二割も減ってない。これなら手持ちのハイポーションで足りそうだ。
「パオオオオオオオッ!」
ドシドシとせわしない足音が近づく。
振り向くとゾウがでけえ丸を迂回しようと動いている。エネミーの狙いは俺のようだ。
「もしかして鉱脈を守ろうとしてるのか?」
アフリカゾウなどは洞窟の中まで入って岩壁を食べることがあると聞く。この鉱脈はゾウもどきのお気に入りなのかもしれない。
動きはゾウもどきの方が速い。いずれ回り込まれそうだ。
「キュッ」
視界の隅に半透明なものが映る。
でけえ丸だった。俺と鉱脈を包むように覆いかぶさっている。
後方でエネミーが長い鼻を振るう。
全てでけえ丸が受け止めてくれる。これならゾウもどきは発掘の邪魔ができない。
「いいぞきら丸。助かるぜ」
俺はハイポーションのふたを開けて半透明な壁にかけた。
あらためて鉱脈に向き直る。
「くらえ、渾身の一振り!」
今回は手ごたえが違った。
シャランとしたサウンドに遅れて、オブソディア鉱石よりも真っ黒な鉱石が転がる。
レア度6
「ブラックホールオニキス」
光を吸い込むほどに黒い宝石。触れると指が吸いつく感覚がある。
「レア度6じゃん! よっしゃあッ!」
思わずガッツポーズ。
自力で掘った初めてのレア鉱石。全てが報われた気分になる。
後方でぽよんと衝撃を弾く音が鳴る。
おっとこうしちゃいられない。新手のエネミーが駆けつける前にとんずらしないと。
「お前にもこれをプレゼントしてやろう」
俺はポーチから缶詰を取り出す。
エネミーにも鼻がある。これで逃げてくれると助かるが。
「キュッ!?」
でけえ丸がバッと離れた。慌ただしく巨体を揺らして遠ざかる。
「え、おいきら丸どこ行くんだ! おわっと!?」
とっさに右へ跳んだ。ゾウもどきの鼻が地面を激しく打ち鳴らす。
「ラムネ! きら丸を追ってくれ!」
「ピィッ」
水色の小鳥がでけえ丸の背中を追う。
まずはゾウもどきを追い払うのが先だ。俺はニュールネトリオングのふたを開け放つ。
「パオオオオオン!?」
ゾウもどきがのけぞった。パニックを起こしたようにスッ転ぶ。
そのまま慌てふためいた様子で走り去っていった。
「どうしたんだきら丸のやつ」
俺は鼻をつまみながら缶詰を地面の上に置く。
もしや体内で缶詰のふたを開けられると勘違いしたのか? あんな劇物を密閉空間で開け放つわけないだろうに。
俺はラムネの光る体を頼りにでけえ丸を追いかける。




