第90話 みんなズビズビー!
俺は会社を出た。自宅へ戻る間に次投稿する動画について考えた。
帰途で一つ案を思いついた。帰宅するなり夕食や風呂をすませてゲームハードをかぶった。
俺は日課のクラフトをすませてクッキングルームに入った。先日作った激辛料理をダミアンナッツの殻でおおい隠す。
俺はラムネと会ったジャングルに足を運んだ。
きら丸とラムネはマイルームに置いてきた。俺がこれからやるのは動画撮影だ。ペットがいたらかぶり物をしても俺がフトシだとばれる。
装備も変えた。これでもう俺をフトシと断定できる物はない。
満を持してニワトリのかぶり物をかぶった。
「これでよし」
一人土の地面を踏みしめる。
ジャングルにはダミアンナッツを好物とするでかいサルがいる。
名はアクジキー。文字通り悪食で何でも食うと有名なエネミーだ。この前は武器すら平らげてみせたという。
今回の企画はずばり、その悪食エネミーに超辛料理を食わせるとどうなるかの検証だ。
ダミアンナッツの殻で包めば料理の臭いを隠せる。遠慮なくバクバク食べてくれることだろう。
「みんなズビズビー! 今日も元気に配信していくよー!」
緑豊かな空間に高い声が響き渡る。
「誰かいるのか」
配信って言ってたな。ここで何かするつもりなんだろうか。
まあ俺には関係ない。なすべきことをなすべく調べたポイントへとおもむく。
たどり着いた先には大きな樹木。太い枝の上に大きなサルがいた。立派な牙がバナナをむさぼってたちまち皮だけと化す。
俺はコンソールから録画の文字をタップした。赤いアイコンを確認して広場に踏み出す。
俺は動画内ではしゃべらない。全部文字を後付けする。
言葉を発さなくていいのは楽だ。俺は作ってきた料理を地面に置く。
アクジキーが気づいて枝から下りた。俺のことなんて見えてないかのように料理を丸飲みにする。
アクジキーがプレイヤーそっちのけで食べ物をむさぼるという話は本当だったようだ。
さあ、どうなる。
「ウキッ!?」
アクジキーの体が硬直した。
かと思ったらウギャアアアアアアアアと絶叫した。子分のサルが戸惑う中、アクジキーが真っ赤になって暴れまわる。
同士討ちが始まった。アクジキーが跳ね回って小さなサルを蹴散らす。
「何これ! 何がどうなってるの!」
聞き覚えのある声。
振り向くとさっき配信していた少女がいた。大きな目を見開いてアクジキーの暴れっぷりに呆然としている。
少女と目が合った。
「だ、誰!? すごい格好してるんだけど!」
俺は反射的にこんにちはと言いかけた。
危ない危ない、もう少しで怪人コケッコーの雰囲気を壊すところだった。
でも言葉なしでどうやってコミュニケーションを取ればいいんだ。手話なんて修得してないぞ。
「もしかして新種のエネミーかな? やっつけてみようか」
少女が物騒なことを言い出した。
俺はあわてて両腕を前に出した。敵じゃない、襲う気もない。それが伝わるように全力でジェスチャーする。
少女が目を丸くする。
「あれ、何かジェスチャーしてる。もしかして敵じゃないの?」
俺はブンブンと首を縦に振る。
少女の表情に笑みが浮かんだ。
「なーんだ。奇抜なかぶり物してるから、てっきりエネミーかと思っちゃいましたよー」
分かる。俺も初めてスライム頭のぷるるを目の当たりにした時は全力で逃げた。
全力で逃げない分、この子は俺より胆力あるんじゃないだろうか。
「ところでさっきからアクジキーが暴れてますけど、原因に心当たりはありませんか?」
俺は拳を作ってかぶり物のくちばしに入れる。ジャンプして腕と足をバタバタさせる。
料理を食べてバタバタしている図。伝われ、この思い。
「何かを食べて、それが原因で暴れまわってるってこと?」
うんうん、まさにそれ。
「一体何を食べさせたらあんなに……ん」
少女が宙の一点を見すえる。配信中って話だし流れるコメントを見ているのだろう。
「ああ、動画投稿してるんだこの人。コケッコー? 検索してみるね」
少女が人差し指の先端で宙を突く。
「これね、怪人コケッコーさんか。すごく辛い料理を食べる動画を上げてるんだね。もしかしてこの料理をアクジキーに食べさせたの?」
俺がうなずくと、少女がアクジキーに視線を向ける。
微笑が戻ってきた。
「申し遅れました、私配信をやっているズビズビです。コケッコーさんは言葉をしゃべれないってことでいいんですか?」
うんうん。
「分かりました。これは提案なんですけど、コケッコーさんで動画を作ってみたくなりました。コラボしてもらえませんか?」
動画? 俺で動画を作るってどういうことだ。
「あ、分かりにくかったですね。コケッコーさんと暴れまわるアクジキーを見てアイデアを思いついたんです。でも無許可でコケッコーさんをネタにするのは悪いかと思いまして」
そういうことか。
だったら俺に断る理由はない。個人的に見てみたい気持ちもある。
俺はサムズアップでこたえた。
「ありがとうございます! 動画についての要望がありましたらこの連絡先にメッセージをください」
それじゃ。少女が言い残してこの場から立ち去った。
「あ」
そういや今録画中だった。さっきのズビズビって子映ってるじゃん。
俺は動画を撮り直すべく一度マイルームに戻った。




