第87話 ひらめき
俺たちは公式配信の感想会を終えて解散した。
次いでサグミさんのマイルームにお邪魔した。いつものアトリエでクラフトの指導を行う。
ミニゲームはメインとなる素材のレア度が高いほどその難易度を増す傾向にある。
俺はレア度4の素材を使ってサグミさんにミニゲームをさせた。
クラフトは評価Aで安定している。初期と比べると目覚ましい成長だ。
「目に見えて上達したじゃないか。もう俺が教えられることはないな」
「そんなことありませんよ。まだレア度4以上の素材を使ったミニゲームで評価Sを取れてないですし。せめてアプデ前には一回取っておきたいです」
「評価SSが来るって話もあるしな」
「それもさっきの配信で発表されたんですか?」
「ああ。運営の人がそう言ってた」
評価Sでさえ完璧な処理が必要とされる。評価SSは何を要求されるんだろ。
わくわくするなぁ。
「評価SSの品ってどんな物ができるんでしょうね」
「さあ。何にしても今よりすごい物ができるに違いないぜ」
「フトシさんの斧よりすごいのってどんなのでしょうね」
「攻撃当てたら一撃で倒せちゃう武器とか」
「あははっ、さすがにないでしょそんなのー」
サグミさんに軽く肩を叩かれた。
小さな顔がハッとする。
「す、すみませんつい」
「いいよ。こういうノリ慣れてるから」
「お付き合いしている女性でもいるんですか?」
「いや、ただの後輩」
「そうなんですね。その子フトシさんに好意を抱いてたりして」
「親しくはあるが、恋愛的な意味で好かれてはないと思うぞ。敬いの念なんて感じたことないし、よく悪戯されるからな」
「でも嫌いな人にちょっかいなんてかけませんよ。思い切って踏み込んでみたらどうですか」
「踏み込むったってなぁ」
佐原とそういう関係になる未来図なんて考えたこともない。第一踏み込んだ末に失敗したら今までの友人関係じゃいられなくなる。
さすがにリスクが高い。
「よし、じゃあ練習再開するぞー」
「あ、ごまかした」
「俺も評価SSの練習しないといけないし、今日はこの辺りにしておくか」
「わーごめんなさいがんばります!」
サグミさんがクラフトに戻る。
今日はやたらと距離が近く感じる。元ペットと再会できて浮ついているんだろうか。
俺としては今のサグミさんの方がつき合いやすい。どことなく佐原と似ているおかげか気を使わなくて済む。
「みゃー」
みゃんこが俺の足元で仰ぐ。
見下ろすと綿あめにしか見えない。本当に猫なんだろうか。
「どうした、何か欲しいのかー」
俺は腰を下ろしてみゃんこの頭をなでる。
白いもわもわが気持ちよさそうに目を閉じる。
人なつっこい。よほどサグミさんに可愛がられていたと見える。
首元をくすぐる。背中をなでた次はお腹をわしゃわしゃする。
たまにはもふもふもいいものだ。
「愛いやつだなーほれほれ」
「フトシさんも猫好きなんですか?」
意図せず体が硬直する。
顔を上げると、サグミさんがひざに手を置いて微笑を向けていた。
「ごめん、つい調子に乗っちゃった」
「構いませんよ、みゃんこも喜んでますから。綿あめみたいでかわいいですよね」
「そうだな。触り心地も最高だし」
俺はみゃんこを解放した。
みゃんこがとてとて歩いてサグミさんの腕の中に収まる。
「ペットっていいもんだな。癒されるわ」
「ですね。帰宅時に玄関まで迎えに来てくれると嬉しくてわーってなります」
「うらやましいなそれ」
きら丸とラムネはクラフトや遊具で遊ぶのにいそがしい。出迎えになぞ来ないだろう。
でもいいんだ、あいつらが楽しんでくれれば俺はそれで。断じて寂しくなんかない。
俺たちはクラフト練習を終えて客室に入った。
木製のチェアに腰かけてサグミさんと同じテーブルをはさむ。
「フトシさん、今日もありがとうございました」
「ああ。あらためてみゃんこと再会できてよかったな」
「はい。もう会えないとあきらめていたので本当によかったです」
サグミさんがにこっと笑む。
みゃんこが気持ちよさそうにまぶたを閉じている。今日再会したばかりだというのに恨みとか怒りはないんだろうか。感動の映画とかにしたら盛り上がりそうだなぁ。
そうだ、映画と言えば。
「サグミさんは推しの配信者とかいる?」
「いますよ。最近はズビズビとか」
「何か面白いと思ったネタはあるか?」
「ありますよ。ズビズビとは違うんですが、すごく辛いって有名な料理を食べた配信者が騒ぐんです。大げさでやらせなんだろうなーとか思うんですけど、リアクションが面白くてつい笑っちゃうんですよね」
「へえ、食べるだけでも色々あるんだな」
俺が確認した料理の動画は、料理を上手に作る方法を教える内容だった。辛さで騒ぐのをエンタメとする手法もあるのか。
ひらめいた!
俺は衝動に身を任せてチェアから腰を浮かせた。
「俺用事ができたからマイルームに戻るよ。またな」
「はい。機会があったらまた指導お願いしてもいいですか?」
「もちろんだ。一緒に評価SS目指そうぜ」
「はい!」
サグミさんが嬉しそうに笑う。
俺は笑みを交わして客室を後にした。




