第86話 クランスペースでのひと時
サグミは一人新エリアを歩く。
土肌の地面を歩き切って岩肌の地面を踏みしめた。薄暗い空間を突っ切ってまた次のドアまでたどり着く。
大きな扉を開け放って引き続き捜索にいそしむ。
「いないなぁ」
つぶやきがそよ風に乗って消える。
リリースしたペットに会える。ぷるるにそう言われて数十分歩いてみたものの、遭遇するのはエネミーばかりで実りがない。
「いないのかな」
ぷるるがスライなる元ペットと再会できた。自分も同じくリリースしたペットに会えると思った。
でもいまだ会えていない。全員のプレイヤーが会えるわけじゃないのかもしれない。
「私も配信見ようかな」
公式の配信は大体一時間を超える。配信が続いている可能性は大いにある。
フトシさんとファムさんがクランスペースで公式配信を見ている。儲け時はとっくに終わっただろうけど二人から話を聞ける。ここで散歩を続けるよりはよほど有意義だろう。
クランスペースに行こう。サグミはそう思って人差し指で宙をかく。
コンソールを介して転移しようとした時、近くの茂みがガサッと音を立てた。
サグミが視線を向けた先で一体のエネミーが飛び出す。
「みゃー」
鳴いたのは、猫にしては丸っこいエネミーだ。四本の足があるもののフォルムとしては雲に近い。
サグミは既視感のあるそれを見て目を見張る。
「みゃんこ?」
忘れもしない。クラマギのプレイを休止すると決めて逃がした元ペットだ。
サグミは一歩踏み出して足を止める。
みゃんこをリリースしたのは自身の都合。クラマギがゲームとはいえ、エネミーやペットには感情らしきものが見られる。
みゃんこは怒ってないだろうか。そう思うと足がすくむ。
白い足が前に出た。棒立ちするサグミに歩み寄る。
引っかく、あるいは噛みつく。そんな想像をしつつもサグミは動かない。内心覚悟を決めてみゃんこの動きを見守る。
「みゃー」
みゃんこがもう一鳴きして迫った。ほおをサグミの足にすり寄せる。
亡くなった猫が見せた甘える仕草。ペットだった時のみゃんこもたびたびやっていた。
不意に目頭が熱くなる。
「もう、甘えんぼうなんだから。噛みつかれるくらい覚悟してたのに」
サグミはふわふわした丸みを抱き上げた。
「ごめんね。私の都合でリリースしちゃって」
サグミはみゃんこの体をそっと抱きしめる。
みゃーといった鳴き声に次いで、みゃんこがサグミのほおをなめる。
「というわけで、私の元ペットだったみゃんこです!」
「みゃー」
猫じみた丸っこいものがサグミさんの腕の中で鳴く。
何がというわけなのかは分からないが、とりあえずおめでとうを言っておいた。
「それでどんなアップデートだったんですか?」
「盛りだくさんでしたよ! なんと、レア度6の植物系アイテムが出るんです! あと鉱石とかも」
「楽しみだよな! レア度6のクラフト品が作れるんだ。今から腕が鳴るぜ」
「へ、へえ。他には?」
サグミさんが表情をこわばらせている。やっぱり公式配信を見た人とそうでない人では温度差があるようだ。
しかし他のアップデートか、何があったっけ。
脳裏にふと思い浮かんで俺は口を開いた。
「後はレイドボスだな」
「それが一番大事じゃないですか。何でついでみたいに言うんですか」
「だって一日に一回しか戦えないし、激レア装備以外に目玉はないぞ?」
「いやそれが一番大事でしょ。激レア装備欲しいじゃないですか」
「おいおい、激レア装備ってことはドロップしにくいんだぞ。狙って拾えるようなものじゃない。実質何も実装されてないのと同じじゃないか」
「ねえファムさん、レア装備持ってイベント優勝した人が何か言ってるんだけど」
「ですね」
ファムさんが小さく笑う。
理不尽だ、ファムさんも植物系アイテム以外どうでもよさそうだったのに。
仲良くなったなぁ俺たち。
「まあフトシさんの言いたいことも分かりますよ。レア度5でも大して出ないのにその上が出るんですもんね」
「分かります。私もレア度5の植物系アイテムを自分で採取したことないです」
「そうなのか。言われてみれば俺もレア度5の鉱石を掘り当てたことないな」
エーテライト鉱石はカジさんからもらった。
ヴォルテクス・ハチェットはエネミーからのドロップ素材を使って作った。レア度5の鉱石を自分で掘りだしたことはない。
「ブルジョワ」
「お金持ち」
「何で俺責められてるの?」
「フトシさんっていつもいい装備を身に着けてますよね。クラフトでいくら儲けてるんですか?」
「んー一度の出品で一千万マニーくらいかな」
「いっせんまん!
いっせんまん!」
二人の声が重なる。目をキラキラさせているのはきのせいだろうか。
「フトシさん! また今度クラフトを教えてください!」
「あ、ああ。別に今からでもいいけど」
「ありがとうございます!」
「フトシさん! もっとじゃんじゃん私の温室を利用してくれていいんですからね!」
「ああ、助かるよ」
二人のやる気が高まったらしい。
モチベーションが高いのは何よりだ。




