第84話 部隊の総指揮官
俺はミャンセを連れて鍛冶場に戻った。ミャンセがカジさんの作業を見学しに別部屋へ消える。
俺はゼロワンでクラフトに臨んだ。開いたウィンドウ内で花びらが風にさらわれる。
花びらにノーツが混じっている。俺はボタンを押し込んで鮮やかな色合いのノーツを処理する。
春を思わせるすがすがしさ。心が洗われるみたいだ。
ミニゲームの内容はでき上がる品に直結する。これだけさわやかな内容ならさぞアメリアの雰囲気に合致することだろう。
心地いいゲーム体験を経てミニゲームをクリアした。
「よっしゃクリアだ」
どんなのができたかなっと。
レア度4
『陽光のティアラ』
防御力 +5
アビリティ【花開く刻】
素晴らしい出来。このレベルの物は中々お目に掛かれない。
俺は人差し指の先端でアビリティの名前をタップした。
表示された詳細文を視線でなぞる。
「武器のアクティブアビリティを発動した時、装備者の周囲に武器のレア度に応じたバフをかける、か」
ちょうどいいアビリティだ。『エーテルの矢』はアクティブアビリティだし、儀礼剣のレア度は俺が持ち得る中で最高のレア度5。相応の戦力アップが期待できる。
「あら、フトシ来てたのね」
高飛車系な声色に違わずサラマンダーの長がいた。
「久しぶりだなローラ」
「ちょうどいいタイミングね。これから集会を開くからあなたも来なさいよ」
「今からか?」
「ええ。シルフの長から今後について大事な話があるんですって」
「分かった。行くよ」
俺はローラと一緒に建物を出た。
足を運んだ先は大きめな木造の建物。会議の場として設けられた場所らしい。
ローラがドアを開けた。室内から漂うフローラルな香りに鼻腔をくすぐられる。
中央に花が置かれたテーブル。それらを囲むように妖精たちが椅子に座っている。
アメリア、メディス、ナディ、ローラ。各種族の妖精を束ねる長たちだ。
「フトシさん、来てくれてありがとうございます。どうぞその椅子に座ってください」
「ああ」
俺はアメリアに促された椅子に歩み寄る。
そでに感触を得て振り向くと、細い指が俺のそでをつまんでいた。
「フトシ、ここ空いてる」
「え、ああ」
座れる椅子はいくつかある。増員した時のため余裕をもって数をそろえたのだろう。
でも先にアメリアに促された。ナディに勧められた椅子に座っていいものか。
「やめなさいよ、一度に席を指定されて困ってるじゃない。フトシ、私のとなりに来るといいわ」
「あなただって指定してる」
「二つ候補があるから混乱するのよ。私が答えを指定してあげたの」
「先に椅子を勧めたの私なんですけどっ⁉」
めずらしくアメリアが大きな声でつっこんだ。できたばかりの集まりをまとめるのは大変だ。
俺は一番ということでアメリアのとなりに腰かけた。
ナディとローラの不満げな表情を前に、アメリアがこほんと咳払いする。
「ではあらためまして、私の呼びかけに応じてくれてありがとうございます。今回集まってもらったのは他でもありません、ダークエルフの証言をもとにこれからのことを決めましょう」
「これからのことって?」
「私たちがこれからどう戦っていくかということです」
「連中、まだ仲間がいるみたいなこと言ってたわね。別のダークエルフが仲間を取り返しに攻めてくるかもしれないわ」
「ダークエルフと決めつけるのは危険だ。他の種族が絡んでいる可能性も考慮すべきだろう」
「そうですね。彼らに仲間がいるなら、次はより多くの戦力を引き連れて押し寄せるでしょう。私たちも戦力増強を図らなければなりません」
「具体的な案はあるのか?」
「はい。今まで私たちは種族ごとにまとまっていました。でも私たちには長所と短所があります。これまでのやり方では汎用性に欠けていたと言わざるを得ません。そこで私は、種族混合での部隊編成を提案します」
息をのむ音が聞こえた。
音の源は二匹の妖精だ。
「どうせ一緒に戦うのに、種族を混ぜる必要はあるのかしら」
「ローラさんの言いたいことも分かります。でも一つの種族がまとまっていては小規模の連携ができません」
「小規模と言うと?」
「例えばウンディーネの水魔法です。ダークエルフとの戦闘ではナディさんの魔法が獣の足止めに役立ちました。ウンディーネの方をひとまとまりにしたら、あれを複数箇所に使う時に混乱すると思うんです」
「そうね。半分に分けるだけでも混乱すると思う」
「待って。それは種族を分けても同じじゃない?」
「同じではありません。まとまりに名前をつければ、後は場所を指定するだけで地面をぬかるませることができます。同じ魔法で同じ人数なら同一の効果が望める。複雑な状況にも対応できる。私はそんな部隊を作りたいんです」
まとまりとは班か、小隊か。
いずれにせよ割り振られるウンディーネの数は均一のはずだ。どのまとまりに命令しても同じ効果が得られる。
面白いな。クラマギの世界はファンタジーなのに、どんどん構成が現実の部隊に近づいていく。
「フトシさんはどう思いますか?」
「いいと思うぞ。少なくとも対応力は格段に上がると思う」
小さな顔がぱっと明るくなる。
そんなに喜ばれても困る。俺は軍人じゃないんだ、考えがあってるかどうか太鼓判は押してやれない。
「メディスはどう思う?」
話を振ることによる責任の分散。
アメリア、不甲斐ない俺を許してくれ。
「私もアメリアの提案は理に適っていると思う。種族を散らすことには賛成だ」
「みんながいいなら私はそれでもいいけれど」
ローラがしぶしぶと言った様子で了承した。
メディスが体の前で腕を組む。
「しかし懸念点もある。まとまりを複雑化させると指揮官の負担も大きくなる。戦いの最中に冷静な命令ができるのか?」
「それなら指揮官を複数配置してはどうでしょう。まとまりごとに指揮役がいればより柔軟に行動できます」
「その指揮官が暴走しないかしら」
「リスクの面で言えば今までのやり方と変わりません」
「そうね。血の気の多いのが一人いるし」
一瞬場の空気が固まった。
「それ私のことかしら」
「他に誰がいるの?」
「ちょっとねちっこくないかしら。事情のことは話したわよね?」
「それとこれとは話が別」
氷結晶を採りに行った時に確認した。ウンディーネとサラマンダーの間にはまだ壁がある。
ナディは事情をのみ込もうとしていたが、他のウンディーネもそうとは限らない。先程ローラが表情をこわばらせていたのもそれが理由に違いない。
「ナディさん、ローラさん。両種族間の問題は私にあずからせてくれませんか」
「あずかるって具体的にはどうするつもり?」
「ダークエルフの件が本当の意味で終わったら、サラマンダーのみなさんにはしかるべき償いをしてもらいます。ですがサラマンダーの行いは決して利己的とは言い切れません。妥協点を探しましょう。お互いが納得できるまで私たちもつき合いますから」
「そう簡単に妥協点なんて見つからないと思う」
「それでもつき合います。あなた方の関係は難しいとは思いますが、私はこのシルネ村で見たんです。いがみあっていたサラマンダーとウンディーネが言葉を交わし、笑い合う光景を。あのいさかいは本来必要なかった衝突なんです。もう一度やり直しませんか? 私は、争いが収まった後もみなさんとこうして集まりたいんです」
柔和な笑みがテーブルの上を華やがせる。
どこまでも純粋に、両者と仲良くしたいから。あどけなさの残る微笑からはそんな好意がうかがえる。
ローラが肩をすくめる。
ナディが小さく嘆息した。
「分かった。任せる」
「同じく」
「ありがとうございますナディさん、ローラさん」
話が一段落して、一つのまとまりに班という名称がついた。
次の議題は各種族の数を定めること。
ただ数を増やしても班の質は確保できない。ひとまずは大まかに構成人数を決めて、全体の名称を防衛隊と改名するにとどめた。
「構成はこんなところでしょうか」
「だな。これ以上は訓練を積んで微調整するしかあるまい」
アメリアとメディスが話を結論づけた。
客観的に見ていると話を動かす中心人物がよく分かる。ローラとナディも愉快な意見は出すものの、それらをみがいて現実的なラインまで引き上げるのはアメリアとメディスだ。
「各班の班長は各種族五名ずつ選ぶとして、最後は総指揮官ですね」
他の指揮官と違って総指揮官は一名。
この場にいる妖精の代表は四人。大して信頼関係を築けていないメンバーで決めるのは骨が折れそうだ。
「私はフトシさんを推薦します」
「俺ぇっ⁉」
思わず声が裏返った。
視界内の細い首が続々とうなずく。
「いいんじゃない?」
「フトシなら賛成」
「ちょっと待て! 俺は反対だ」
アメリアが目をぱちくりさせる。
「どうしてですか? 私としてはこれ以上ない配役だと思ったのですが」
「まず俺は妖精じゃない」
「ささいなことですよ。シルネ村がここまで大きくなったのもフトシさんのおかげです。誰も意を唱えないと思います」
「ダークエルフを無力化できたのもフトシたちの力があったからこそだしな」
「そうね。唯一の人間だし」
「ジュースおいしかった」
ナディのはなんか違う気もするがとにかく駄目だ。
「指揮官ってのは力がありゃいいってものじゃないんだ。部下との信頼関係だって必要になる。俺は頻繁に妖精界に来れるわけじゃない。知ってるだろ」
「それはそうですけど」
「理由は他にもあるぞ。俺は妖精界に常駐できない。たまにしか来ない。有事の際にすぐ駆けつけられるとも限らない。そんな指揮官に誰が信頼を寄せられるって言うんだ」
妖精たちがうつむく。みんな薄々感じていたような反応だ。
今回のダークエルフとの戦いだってそうだった。ダークエルフの集団が村に近づいていると知って、彼らは俺がいるかどうか村を探し回ったはずだ。
今回は氷結晶を採りに行っていた。それでさえ駆けつけるのがギリギリだった。
もし全部終わった後で村に駆けつけていたら、大半の妖精は俺に不満を抱いたに違いない。
「分かりました。総指揮官は私たちの中から選びます」
「そうしてくれ」
「ちなみにフトシさんはどなたが総指揮官に適していると思いますか?」
「それは俺に聞いちゃ駄目だ。ちゃんと妖精の間で決めなきゃな」
「フトシさん意外と厳しいです」
「そうだよ、俺は厳しいんだ。だから適当な決め方じゃ納得しないぞ」
「はい、ちゃんと話し合って決めます」
アメリアがテーブルに視線を戻す。
一本の腕が上がった。
「私はアメリアを推薦する」
腕の主に視線が殺到する。
発言者はメディスだった。
「私ですか?」
アメリアが目をしばたたかせる。
開口一番に俺を推薦したくらいだ。自身が選ばれるなんて想像もしてなかったに違いない。
「メディスはどうしてアメリアがいいと思ったの?」
「実績だ」
「それを言われたら返す言葉もないわね」
ローラが肩をすくめる。
ナディも目を閉じてうなずいた。
「私で本当にいいんですか? 総指揮官ですよ。もっと考えて決めた方が」
「ちゃんと考えたさ。アメリアはシルフを襲った私たちを助けてくれた。命をあずけるには十分だ」
「私たちのことも助けてくれた。住み家も用意してくれたし言うことない」
「しっかりやりなさいよ。でないと私が乗っ取っちゃうから」
賛成に次ぐ賛成。アメリアを不適格と告げる妖精はこの場にいない。
慕う眼差しを受けてアメリアが表情を引きしめた。
「分かりました。防衛隊の総指揮官は私が担わせていただきます」
就任を祝う拍手が室内を満たした。




