第82話 髪飾りのクラフト
俺たちはダークエルフをふんじばってシルネ村に戻った。
捕らえたダークエルフの身柄は、前もって作っておいた留置場に収めた。
捕縛した人数は十を超えるが収容場所には困らない。サラマンダーやウンディーネにノームも加わってマンパワーが増えたおかげだ。
怪我をした妖精の治療を手伝っていると、ダークエルフが目を覚ましたと報告を受けた。
俺はアメリア、メディス、ナディ、ローラに同行して留置場までおもむいた。
手足を縛られたダークエルフが顔を上げる。
「殺せ」
「開口一番それかよ」
つぶやいた俺のとなりでメディスが口元を引き結ぶ。
ウンディーネやサラマンダーと違って、スプリガンはダークエルフから直接の被害を受けた。悪びれもしない態度を前にして思うところがあるのだろう。
「お前たちの協力次第じゃ生きてここを出られるかもしれないんだぞ」
「ナメるな。我らとて戦士、戦場に出た以上死ぬ覚悟はできている」
「生きて故郷に帰りたいとはおもわないのか」
「ふん、余裕ぶっていられるのも今の内だ。直に我らの同胞が大義をなすためここに駆けつける。その時がお前たちの最期だ」
「どうしてそこまで私たちを敵視するんですか?」
アメリアが会話を試みるが言葉は返ってこない。現時点で情報を引き出すのは無理そうだ。俺たちは事情聴取をあきらめて留置場を後にした。
次に俺とアメリアは鍛冶場に足を運んだ。
カジさんが戦利品の杖や弓を興味深そうに観察している。
ダークエルフたちが用いていた杖や弓には見たことのない鉱石が埋め込まれている。
敵意を持つダークエルフを全て捕らえたとは限らない。戦利品から可能な限り情報を得ておく必要がある。
「どうだカジさん」
「面白いぞい。連中見たこともない鉱石をはめ込んどる。おそらくこれが触媒になっとるんじゃろう」
「妖精界にはない鉱石なのか」
「妖精界を練り歩いたわけじゃないから何とも言えんが、仮にそういう物があったとしても驚かん」
ってことは、まだ俺の知らないクラフト素材がわんさかあるってことか。レア度5を超える激レア素材が入手できる日もそう遠くないかもしれない。
「鉱石外して何か作れそうか?」
「やれんことはないと思うがオススメはせんぞい」
「どうして」
「武器は戦士の誇りじゃ。長年愛用した武器なら家族も同然。それを分解したとあってはまとまる話もまとまらん」
「確かに、今ダークエルフとの交渉材料を失うのは避けたいですね」
アメリアも同じ意見。ダークエルフとの交渉が決裂するまではお預けってことか。
レア素材欲しさについ決裂を期待しちゃうが、決裂したらアメリアたちが困る。当分は様子見だな。
「そうだカジさん、氷結晶は余ってるか?」
「使わなかった分はまだ残っとるぞい。何か作るのか?」
「ああ。氷結晶を使ってアクセサリーを作ってほしいんだ。髪飾りを一つ頼む」
「ほほぅ」
カジさんがニィーッと口の端をつり上げる。
「何だその笑みは」
「いやー? お主にもついに春が来たのかと思ってな」
「春なんかとっくに過ぎてるっつの。ナディに髪飾り贈るんだ」
「え?」
アメリアが振り向いて目をぱちくりさせる。
「フトシさん、ナディさんに髪飾りを送るんですか?」
「ああ。氷結晶を採りに行った時に約束したからな」
思えば俺が女性に物を贈るのは久しぶりな気がする。佐原に誕生日プレゼント贈った時くらいか。
ナディとはあまり親交がない。ちょっと緊張するな。
「あの、フトシさん。私にも作ってくれませんか?」
「作るってアクセサリーをか?」
「はい。その、私も欲しいなーって」
緑の瞳が恥ずかし気に下がる。
そんなにアクセサリー欲しかったのか。まあ村にある技術でおしゃれしようとするなら花で冠作るくらいしかないもんな。
「いいぞ。氷結晶はまだ余ってるから大丈夫だ」
「ありがとうございます!」
整った顔立ちがぱっと華やいだ。
「盛り上がっとるところ悪いが、わしにアクセサリー作りの造詣はないぞ? 不出来な物ができて怒られても困るぞい」
「んーそうかぁ」
アクセサリー作りが難しいならショップで適当なのを買おうか。
でもナディには氷結晶で作るって約束したしなぁ。この分だとアメリアもナディと同じアクセサリーじゃないとがっかりしそうだし。
「レシピ見てみるか」
俺は宙をかいてコンソールを開く。
氷結晶を入手してからクラフトレシピを確認してない。いいアクセサリーが追加されてる可能性はある。
「あった。カジさん、やっぱ俺が作るわ」
「そうしてくれると助かるぞい」
俺はコンソールを開いた。マイルームに転移してアトリエに入る。
大きな壺に氷結晶、そして同じ島で採れた水色の花を放り込む。
展開されたミニゲームの画面に向き直る。
背景は水面。水滴が水面を叩いて波紋が広がる。
その波紋は円を描く球体で構成されている。おそらくはノーツだ。広がり方が斜めだからちゃんと見ないとタイミングを逃しそうだ。
俺はカーソルに重なるノーツを注意深く見定めてボタンを押す。
風のエフェクトが画面内を横断した。水面がパキッと凍りつく。
「凍っちまったぞおい」
波紋もう広がらないじゃん。
そう思っていると氷が砕けた。発生した破片がノーツとなって判定ラインに迫る。
「おっと」
反射的にボタンを押し込んだ。氷の破片が砕けてExcellent!の文字が浮かぶ。
処理しなかった破片が背景の氷面にぶつかって亀裂を入れた。新たな破片が重力に引かれて雨のごとく押し寄せる。
破片が新たな破片を呼ぶせわしなさを耐え忍んでミニゲームをクリアした。
それじゃ成果品の確認だ。
レア度3
『フロストブルーム』
防御力 +3
アビリティ【冷気の冴え】
素晴らしい出来。このレベルの物は中々お目に掛かれない。
「いい感じのができたな」
アビリティは水と氷属性の魔法にダメージボーナスを適用する。ナディのイメージにもピッタリだ。程よく入った青紫がいい味を出している。
「次はアメリアに贈る髪飾りか」
氷結晶を選択しようとして指を止める。
アメリアとナディの雰囲気は正反対だ。対極と言ってもいい。
秘境の湖じみた静謐さのあるナディだから氷が合う。陽光に咲くひまわりのような印象のアメリアに氷は似合わない。
「他に作れる髪飾りあるかな」
レシピの欄を人差し指でタップする。
ない。困ったな。
マイショップで既製品を探すってのもなんか違う気もするし、ひとまずナディに髪飾り渡しに行くか。




