第81話 vsダークエルフ
魔法が飛び交う。
矢が行き来する。
前を張るのは獣。その奥にはフードをかぶったダークエルフが並んでいる。
魔法は例の障壁に無力化される。
矢は障壁に防がれない一方で弓の熟練度に差がある。こちらの矢は狙った場所に飛ばなのに、ダークエルフの矢は的確に仲間を負傷させる。
また一人仲間が矢を受けて地面に倒れた。
「おのれ、よくも仲間を!」
スプリガンが後方で巨大化した。大きな弓を持って矢をつがえる。
「不用意に巨大化しては駄目です!」
声を張り上げたけど遅かった。ダークエルフたちが一足早く矢を射出する。
放たれた全ての矢を受けて巨体が仰向けに倒れた。地揺れに遅れて巨体が見る見るうちに小さくなる。
「このっ!」
私はきれいな剣を頭上に掲げる。
「フトシさん、私に力を貸してください」
幻想的な剣が光を発した。十本の矢が視界内を飾りつけて宙を突き進む。
「ぐあっ!?」
エーテルの矢が障壁を貫通してダークエルフの肩に刺さった。フードをかぶった人型が地面に倒れて肩を押さえる。
「何だ今のは、魔法じゃないのか」
一斉に矢を向けられる。
私は樹木の幹に隠れた。幹の向こう側で矢の突き刺さる音が連続する。
「きゃっ!」
足元で爆発が起きた。爆風に吹っ飛ばされて地面の上を転がる。
剣はまだ手の中にある。
安堵したのもつかの間。顔を上げた先で鏃がギラリと光った。
「貴様が指揮官だろう。仲間に降伏をうながせ」
「降伏したら、今度は私を操り人形にするつもりですか? メディスさんのように」
「メディス?」
「あなたたちが操っていたスプリガンですよ」
私はフードの下にある瞳をにらみつける。
細い首がかしげられた。
「知らんな、弱者の名前など覚える価値もない。それで答えは?」
「断ります」
「そうか。ならば別の個体を探そう」
ダークエルフが矢を握る。
くやしい。私じゃみんなを勝利に導けなかった。
でも心配はしてない。私がここで果てても、あの人がいればみんなを守ってくれるはずだから。
「さらばだ」
私はぎゅっとまぶたを閉じた。
「アメリア!」
ハッとして目を開ける。
射出された矢がきらきらしたものに止められた。
「何だこれは、おわああああっ⁉」
きらきらした細長いものがフードの人型に巻きついてうねる。
樹木の幹に叩きつけられてダークエルフが気を失った。
「アメリア、大丈夫か?」
私は期待に胸を高鳴らせながら振り向く。
「フトシさん!」
振り向いた先にあの人を見て、沈んでいた気持ちがふわっと浮き上がる。
◇
間に合った。
ダークエルフが矢をつがえた時は間に合わないと思ったが、でけえ丸の触手のおかげで助かったぜ。やっぱでかいってのは正義だな。
大丈夫ですと告げたアメリアに手を貸して立たせる。
「状況はよくなさそうだな」
「はい。すみません、私が不甲斐ないばかりに」
「アメリアのせいじゃない。不用意に村を空けた俺も悪いし、そもそも部隊が急ごしらえなんだ。これだけ戦えれば十分さ」
俺は金色の髪をそっとなでる。アメリアがくすぐったそうに目を閉じる。
さて、アメリアの生存を喜ぶのはここまでだ。
「貴様、よくも我が同胞を!」
ダークエルフたちが怒声を張り上げて矢をつがえた。黒い炎がボッと立ち上る。
「きら丸、変身」
「キュッ」
青緑のひらひらが視界をうめつくす。
矢の空気を切る音に遅れて黄金の光が発せられた。
「何だ、あの珍妙な生き物は」
「報告にあったスライムだ」
「あれがスライムだと? 冗談だろう」
ダークエルフの間に戸惑いの空気が流れる。
攻撃チャンス到来だ。
「ゼロツー、ストーンミサイルだ。連中の足元を狙え」
「了解、足元にストーンミサイル発射であります!」
ゼロツーの砲口から岩のミサイルが飛び出した。
ダークエルフが例の障壁を展開する。
「ぐわっ!?」
爆風に叩かれてフードの人型が吹っ飛ぶ。
あの障壁、魔法を消せても爆風は防げないのか。殺さないように足元を狙わせたが意外な成果だ。
「おのれ、面妖な術を」
「行け獣ども!」
クマやオオカミを思わせる獣が牙をむく。
メディスのように操られているのだろう。ダークエルフの命令に従って距離を詰める。
俺はヴォルテクス・ハチェットを掲げて迎撃した。麻痺した獣にでけえ丸がのしかかって無力化する。
迎撃に移る前に黒いもやが獣の形を作る。
「あれは魔法か?」
見たことない術だ。
様子見していると獣が動き出した。俺は武器を振るって迎撃する。
ダークエルフの方は完全に戦術を獣召喚に切り替えたようだ。せっせと魔法の発動に熱を入れている。
でけえ丸は獣の迎撃に手いっぱいだ。ナディも地面をぬかるませて獣の足を止めているが、他の妖精ともども攻勢に転じる機会をつかみ損ねている。
ストーンミサイルを発射して一掃はできるが、それからしばらくは冷却に時間を取られる。術者を攻撃する手段がない。
空に隠れているラムネなら奇襲をかけられるものの、あのスキルがどれだけの威力を秘めているか分からない。下手に攻撃させて矢で撃ち落とされたら大変だ。
まだか、カジさん!
「フトシー」
バッと振り向く。
ハンマーを持ったドワーフが走っている。左腕には何らかの装置を抱えている。
「来いゼロツー!」
俺は直感を信じて走る。
「冷却装置できたぞい」
「待ってたぞカジさん。それどうやって使うんだ?」
「焦るな、まずは装着じゃ。背中を向けろゼロツー」
ゼロツーがカジさんに背中を向けた。カジさんがせっせとゼロツーに装置を取りつける。
「できたぞい。冷却装置はパワードアーマー形態じゃないと使えんからな」
「分かった。行くぞゼロツー」
「了解であります」
着装、パワードアーマー!
ゼロツーがパーツと化して宙を舞う。
数秒とせず装着が完了した。バイザーで飾られた視界に冷却装置の使い方が図とともに記される。
「ありがたいな」
俺は獣に向けて右腕を伸ばす。
「ストーンミサイル発射!」
砲口から威力重視の岩ミサイルが発射された。
爆風で獣が転がるのをしり目に腕を曲げてWを描く。
バヂバヂッ! とプラズマが弾ける音に遅れてミサイルのカスタム画面が開いた。俺はフレシェットのカスタムに視点を合わせてまばたきする。
右の前腕が少しひんやりした。冷却期間を表すゲージが0を出力する。
説明文いわく、カジさんが作った冷却装置はカスタムを切り替えた時に生じるエネルギーで起動する。
俺はフレシェットミサイルを撃った。散らばる矢がダークエルフと獣に降りかかる。
結果を見届けずに今度はスプレッドのカスタム。
狙いはダークエルフの隊列だ。
「ストーンミサイル!」
「発射であります!」
大きな岩のかたまりが宙でばらけて爆風をまき散らす。
ダークエルフの集団が宙に投げ出される。続々と受け身を取る辺りまだ余裕がありそうだ。
でも確実にダメージは入っている。そろそろ頃合いだろう。
「ラムネえええっ!」
応答するようにピヨォォォォォッと鳴き声が響き渡る。
蒼天翔破は滞空する時間が長いほど威力を増すスキルだ。ミサイルで削った状態なら戦闘不能まで追い込めるはず。
視界の上方が明るい青を帯びる。
「ん?」
何かと思ってあおぐと巨鳥が落ちてきた。
巨長を形作るのは炎を思わせる青白いゆらめき。立派な翼を広げたそれがダークエルフ目がけて滑空する。
「おわああああああああああ――⁉」
複数の絶叫が爆風にかき消された。まばゆい光がほとばしって、俺は顔の前で両腕を交差させる。
圧力が消失して腕を下げると、ダークエルフたちが地面の上であお向けになっていた。どの人影もぐったりとして動かない。
「想像以上だな」
そういやラムネって氷結晶を採りに行く前から空飛んでたっけ。敵ながらダークエルフに同情する。
「ピィッ」
ちょっとしたクレーターの中心では、元のサイズに戻ったラムネが成果を誇示するように翼をぱたぱたさせていた。




