第79話 ウンディーネとの海旅
第三回イベントの報酬もミニゲームのボタンだった。
俺には一億ボタンがある。優勝賞品はコレクションの品として倉庫に収めた。
イベントが終わった三日後にクラマギのアップデートが行われた。俺は身支度を整えてダウンロードを待つ。
スマートフォンがアラームを鳴り響かせた。
「お、アプデ終わったか」
俺は胸を高鳴らせてゲームハードをかぶった。ベッドに寝そべってクラマギにログインする。
マイルームのアトリエにきら丸たちの姿はない。
「迷路かな」
俺はマイハウスの外に出る。
つぶやいた直後光が発生した。まばゆい光が丸みのあるボディや鳥を形作る。
祝うようなサウンドが流れた。
【おめでとう! きら丸とラムネがレベル4になりました!】
「お、レベルアップか」
しかも同時。きら丸の方が早くテイムしていたのにラムネもとは、ペットによって成長速度が違うのか。
【きら丸のレベルが4になったのでスキルを以下の中から一つ獲得できます】
『癒しの煌めき』『浄化の輝き』『結晶化』
レベルアップ恒例のスキル選択だ。
まずは癒しの煌めき。周囲の味方のHPを少しずつ回復するスキルだ。
浄化の輝きの方は、仲間が状態異常にかかると自動で状態異常を解除する光を放つ。
「どっちも微妙だな」
HPや状態異常の回復はどちらもアイテムで代用できる。自動は便利だがそれはプレイングでカバーすればいい話だ。
「最後のはどうかな」
結晶化。
攻撃したり逆に攻撃を受けたりするとまれに結晶が落ちる。結晶には種類があってレアな物もあるようだ。
「これ一択だな」
結晶化の文字に人差し指の先端を叩きつけた。
ついでラムネのスキル選択だ。
【ラムネのレベルが4になったのでスキルを以下の中から一つ獲得できます】
『魂喰らい』『蒼天翔破』『凍結の呪歌』
魂喰らいはエネミーを倒した時にMPを回復するスキル。
蒼天翔破は非戦闘時に魔力をチャージし、攻撃する際にチャージした魔力に比例した攻撃を行う。
凍結の呪歌は、歌を聞いたエネミーの動きをわずかな時間止めるスキルだ。
「どれも戦闘向けだな」
この中から選ばなきゃいけないのか。
どれにしよう。やっぱ補助技か?
でも大半のエネミーはミサイルで吹っ飛ぶ。ヴォルテクス・ハチェットのアビリティもある。弱いエネミー相手に使うことはなさそうだし、強いエネミー相手に行動妨害なんて効くんだろうか。
そういえばイベント中にラムネが攻撃した時があった。マゼラさんに奇襲をかけてくれたおかげで助かったっけ。
そう考えると、蒼天翔破は俺たちの戦闘スタイルと相性がいい。普段はスカイビジョンで周囲を把握しつつ、隙が欲しい時に空から攻撃させる。
うん、いい感じだ。これでいこう。
「蒼天翔破っと」
スキル選択完了。日課のクラフトを終えてショップ出品を済ませてきら丸にハイポーションを食わせる。
晴れて妖精界の鍛冶場に転移した。
「おっすカジさん。調子はどうだ?」
「絶好調だぞい。冷却装置の構想もできたしの」
「まじか! 必要な素材は?」
「この紙に書き留めてあるぞい」
俺はカジさんからメモを受け取って内容を改める。
目的地は、ウンディーネの村から南へ進んだ先にある孤島だ。海を少し進んだ先に凍てつく島があるらしい。
俺はウンディーネの長に案内を頼んだ。きら丸たちにゼロツーも加えてシルネ村を出発した。
「フトシ、どうやって海を渡るつもり?」
告げたのはウンディーネの長を務めるナディ。秘境の泉を思わせる静けさが印象的な妖精だ。
「ラムネに全員を乗せてもらうのは厳しいから、きら丸に乗っけてってもらおうと思ってる」
「きら丸に?」
ナディが目をぱちくりさせてでけえ丸を見上げる。
「これ浮くの?」
「浮く、と思う」
「不穏な間があった」
「でっかい状態で試したことないからな。少なくとも小さい時は浮いた」
「それ保証になる?」
「ならない」
でもやるしかないんだ。試す理由にはそれで十分だろう。
俺たちはナディの背中に続いて歩みを進める。
ウンディーネの村に着いた。
中央にある湖には木片がぷかぷかと漂っている。水場をぐるっと囲むように瓦礫が散乱している。
ウンディーネは俺たちが接触する前にサラマンダーからの侵攻を受けた。散らばる瓦礫は戦いの余波で生まれた残骸だろう。
横目を振るとナディが寂しそうに水面を眺めている。
「行こう」
ナディが湖に背を向けて足を前に出す。
俺たちも後に続く。靴裏越しに枝を折る感触を覚えながら黙々と枝葉のトンネルをくぐる。
やがて視界が開けた。
広がるのは海面。日光を反射してきらきらを放っている。
「きら丸、頼む」
「キュ」
きら丸が海水に寄ってぬーっと伸びる。
またたく間にじゅうたんの見た目ができ上がった。
……さて。
「乗る?」
「先どうぞ」
「だよな」
ナディに促されて俺は息をのむ。
沈んだら格好がつかない。どうか沈みませんように。
俺は内心願いつつ踏み出す。
少し揺れたものの、エメラルドグリーンのじゅうたんは俺の体重を受け止めてくれた。
俺は安堵の息をついて向き直る。
「得意げに笑んでるところ悪いけど、乗る前のフトシの顔は忘れない」
「忘れて」
「ううん、ずっと覚えてる」
ナディも伸び丸の上に足裏をつける。
ゼロツーも乗るなり景色が後方へ流れる。
ざざなみの音だけが聴覚を刺激する。そこそこ音が響くのに静けさを感じるなんて不思議だ。
船の旅ってこんなに安らかな心持ちになれるのか。いつかリアルで旅行するのも悪くないな。
「ナディは海上の旅をしたことあるか?」
「海上はないけど海中を泳いだことはある。きれいだった」
「やっぱりウンディーネは海を泳ぐのか。平泳ぎするの?」
「違う。お魚に化けて泳ぐの」
「へえ、そりゃ面白いな。俺たちにも使えるのか?」
「使えると思う。でも教えない」
「何で」
「まだあなたたちを信用してないから」
まあそうだよな。ダークエルフの件で協力は決まったが、ウンディーネからすればサラマンダーには何の落とし前もつけてもらってない。
ダークエルフの対処が第一優先と頭では分かっているだろう。でも気持ちは割り切れないと言ったところか。
「フトシはどうしてスプリガンを仲間に加えたの?」
「突然だな」
「だっておかしい。スプリガンはシルフの村を襲ったって聞いたのにみんな仲良くしてる。不自然」
「言いたいことは分かるよ。俺がいなかったらシルネ村はどうなってたか分からないし、シルフとスプリガンの友好はなかったかもしれない」
「それならどうして赦したの」
「俺が赦したわけじゃないからはっきりとしたことは言えないが、しいて言うならもしを考えたからじゃないか?」
「もしって?」
「例えばダークエルフに目をつけられていたのが自分たちだったら、とかさ。きっとシルフたちもダークエルフの術に対抗できなかった。そう考えるとスプリガンを責めるのは酷だって思ったんじゃないか?」
ナディがひざもとに視線を落とす。
それから沈黙が続いた。波の音に聴覚を委ねて海の旅にあまんじる。
やがて陸地にたどり着いた。俺たちはひんやりした空気を感じつつ目的地を目指す。




