第75話 一つのクラン
「久しぶりだなスズさん。その人たちはクラメンか?」
「ええ、同士たちです。全員あなたを倒すために今日まで準備してきました」
「さすがに逆恨みがすぎるだろ」
「どこがですか。あなたにクランを抜けられてからメンバー流出は止まらないし、遺跡での借りを返そうにもマゼラさんから圧力をかけられるし、もう散々ですよ」
「やっぱり逆恨みじゃないか」
「もうそれでいいです。私たちは今日を待ちわびてたんです、もう我慢できないんですよ。フトシさん、そろそろお返しをさせてッ!」
俺たちを囲むプレイヤーがいっせいに武器を構える。
「ゼロツー、ストーンミサイル」
「了解。ストーンミサイル、発射!」
スズさんに向けて岩のかたまりが発射された。
大きな盾が地面に突き立てられた。爆風が視界を濁らせて髪をなびかせる。
盾はなおそこにあった。
「飛び道具の対策はできてますよ。もうあんな無様はさらしません」
さすがにクランを大きくしただけあっていい装備を持っている。遺跡で手の内を見せたのはまずかったか。
でも無傷ってわけにはいかなかったらしい。プレイヤーが顔をしかめている。
削れるうちに可能な限り削っておくか。
「きら丸やってくれ。ゼロツー、俺についてこい!」
「了解であります!」
でけえ丸の体表がぐつぐつと煮えたぎる。
俺は青紫の巨体にダイブした。遅れてゼロツーがとなりに滑り込む。
外でいくつもの盾がかざされる中、バブルが弾けるたびに魔法が散らばる。
魔法を受け損ねたプレイヤーが消し飛ぶ。
でけえ丸が半分ほどの大きさに戻っても十人以上が残っている。
「きら丸しぼんでいきますねぇ! もうすぐ魔法撃てなくなりますねぇ!」
スズさんが口の端をつり上げて叫ぶ。
めっちゃうれしそうだ。
「それじゃおかわりと行こうか」
俺はコンソールを開いて、自分が持ってる分のグレイルブルーをきら丸に譲渡する。
きら丸がまた大きくなった。
「そんなのありィィィィッ⁉」
スズさんが笑みを引っ込めて盾に隠れる。
プレイヤーが一人、また一人と消える。音を聞いて駆けつけた新手も巻き込んで魔法が地形を変えていく。
それでもまだスズさんは存命だ。この日に備えてどれだけの準備を整えてきたのやら。
おそらくでけえ丸の魔法爆撃だけじゃ終わらない。頭の中で次の一手を思い描く。
でけえ丸がきら丸に戻った。俺はゼロツーと外に出る。
「耐えた、耐えた耐えた耐えた耐えた耐えた耐えたああああああああっ!」
スズさんが両腕を振り上げて歓喜のおたけびを上げる。この前はきら丸の魔法でやられただけに喜びもひとしおだろう。
成長の喜び。それは俺もよく知っている。
でもこれは戦いだ。負けてあげるわけにはいかないのよね。
「さあ次だ!」
俺はプラズマのたまった斧を頭上にかかげる。
ほとばしったプラズマがスズさんたちを打った。生き残りが全員麻痺にかかってうつ伏せに倒れる。光は一定距離内にいる相手に伝播するようだ。
スズさんがくやしげに見上げる。
「まだ、そんな手を」
「おしかったな。まさか耐えられるとは思ってなかった」
マゼラさんたちならいざ知らず、スズさんたちにグレイルブルーを使い果たすことになるとは想像もしてなかった。
儀礼剣のアビリティじゃ範囲攻撃はできない。ボルテックス・ハチェットを作ってなかったらどうなっていたか。
「俺がいなくてもちゃんと戦えるじゃないか」
スズさんが目を丸くする。
「戦える? 私が」
「そうだよ。あの形態はボスエネミーを消し飛ばすくらい攻撃力高いんだぞ。遺跡での必死さを見た時はレアアビがないと駄目なクランなんだと思ったが、スズさんはレアアビなんて無くても対策をして魔法攻撃を乗り越えた。何と言うか、初めてスズさんのクランなんだって思ったよ」
「私の、クラン」
スズさんがしみじみとした様子でつぶやく。
稲妻のエフェクトが点滅を始めた。
「そろそろ状態異常切れるからとどめ刺すぞ」
返事は受け付けない。俺は斧を振り下ろしてスズさんをポリゴンの光に変える。
きら丸やゼロツーと手分けして他のプレイヤーにもスズさんの後を追わせた。
◇
「くそっ! あの野郎、やっぱり隠し玉持ってやがったな」
後を追ってきたクラメンが広場でぐちる。
広場では脱落したプレイヤーが集まって感想や愚痴を交わしている。
スズのクランメンバーもその内の一部だった。
「何だよあの斧、攻略ウィキにあんなの載ってなかったぞ」
「まさか複数人に麻痺を付与してくるとはなぁ」
「だから俺は言ったんだ。いくつかのグループに分けて当たるべきだって」
「都合のいいこと言ってんなよ。お前賛成してたじゃねえか」
「お前が複数人でかかれば儀礼剣は怖くないっつったんだろうが」
「俺のせいだっていうのか!」
「ああ!」
プレイヤーたちが責任の押しつけ合いを始める。
広場が悪い意味での騒がしさを帯びる中、スズが声を張り上げる。
「みんなごめん!」
スズが頭を下げた。言い争っていたプレイヤーが口を閉じて振り返る。
「な、何でスズさんが謝るんですか」
「そうですよ。スズさんはフトシなら何か奥の手を用意してくるに違いないって言ってたじゃないですか」
「でも今回の作戦でGOを出したのは私よ。失敗の責任は私にある」
エーテライトの儀礼剣は現状最も強い武器とされてきた。
クラフトに必要な素材は少し値下がったとはいえ七千万マニー以上を誇る。それ以上の素材アイテムなんて確認されてないし、儀礼剣以上の武器を用意されたのは結果論と言えば結果論だ。
でも予想ならできた。
フトシは第一回、第二回と周りの予想を越えてきた。三回目も予想を越えてくることは容易に想像できた。
儀礼剣のケアにまとめてかかったのは軽率だった。冷静になった今ならそう思える。
責任逃れの声が途絶えて沈黙が訪れる。
スズが再び口を開く。
「私たちの第三回イベントは終わっちゃったけど、私さっきの戦闘で手ごたえを感じたの。次はもっとうまくやってフトシを倒す。だからまた私に力を貸してほしい」
スズが真摯なまなざしで仲間を見すえる。
「いいですよ」
クランメンバーの大半が戸惑う仲、男性プレイヤーが頭の後ろをかく。
「何だかんだ言ってフトシ対策突き詰めるの楽しかったですからね」
「日蝕の連中を出し抜いたやつだからな。俺らがいきなり倒そうなんて虫がよすぎたんだ」
「またいつかリベンジしましょうよ。フトシに!」
「みんな……」
クランメンバーの声を耳にしてスズが口角を上げる。
「ありがとう。みんなのためにも、これからも頼りがいのあるリーダーであり続けるよ」
「え、頼りがい?」
「お前スズさんにそれ感じたことある?」
「ないですー。必死でかわいいなって微笑ましく見てました」
「え、え?」
戸惑うスズを前にクランメンバーたちの談笑が始まる。
リーダーの理想とは違う形ながらも、敵の敵は味方でしかなかった集まりは一つのクランとして成った。




