第74話 第三回イベント
イベント当日をむかえた。俺はきら丸、ラムネ、ゼロツーとともに広場へおもむく。
サグミさんとファムさんは参加しない。今回のイベントはクランごとじゃなく個人だ。
これが初めてのソロイベント。きら丸たちがいても緊張するぜ。
「お待たせしましたー! これより第三回イベント『サーチアンドショット』を開催しまーす!」
声を張り上げたのは毎度恒例の雲アバター。広場にひしめくプレイヤーたちがおたけびを上げる。
ざっと見てもローブや杖が目立つ。オオガワが言っていたように魔法で戦う意図が見て取れる。
雲のアバターが事前情報通りのルール説明を行う。
「今回イベントの舞台となるジャングルにはエネミーが配置されます。ラストヒットを取ったプレイヤーには強力なバフが掛かりますが、エネミーを攻撃する際は横から取られないように注意してくださいね」
「バフか」
攻撃力や防御力を上げたりするあれのことか。一生懸命エネミーを攻撃した後で横から取られたらくやしいだろうな。
でも勝負の世界は非情だ。
俺だってきら丸たちと勝利をつかみたい。イベント中は横取りを意識しないと。
「それではカウントダウンを始めます! 転移五秒前。5、4、3、2、1」
ゼロ! 一斉に声が張り挙げられると同時に広場が光に包まれる。
世界が白以外の色を取り戻すと、視界内が樹木の緑に埋め尽くされた。
土と樹木の濃厚なにおい。森林浴に来たみたいで癒される。
おっといけない、ここはもう戦場だ。気を引きしめていかないと。
「キュ」
でけえ丸が跳ねて俺の右方に着地する。
巨体の向こう側で紅蓮が弾けた。
「くそ、でけえ!」
「ぷるぷるしてやがる!」
男性の声。
他のプレイヤーだ!
「樹木だらけなのに何で俺たちの居場所が分かったんだ!」
「アホか! そんなでっけえきらきら連れてりゃ誰だって気づくっての!」
確かに。
不覚にも納得してしまった。ここは反論しなきゃいけない場面だろ。こんなだからフトシって呼び捨てにされるんだ。
俺は顔に不敵な笑みを貼りつける。
「分かってないな。あえてだ、あえてきら丸をでかくしたんだ。全ては君たちをおびき寄せるためにな」
「何言ってんだお前、さっき居場所がばれたっつって動揺してただろうが」
「そんなだからフトシって言われんだよ」
くそ、言われてしまった。せっかく威厳のあるファーコートを着ているのに台無しだ。
この失態を広められちゃ困る。あの二人には早々に退場してもらわないと。
「行くぞみんな。俺の威厳を守ってくれ!」
「キュ」
「ピィ」
「了解であります。ストーンミサイル!」
威力重視の魔法一発でケリがついた。 並みのプレイヤー相手ならミサイル一発で事が済むみたいだ。
ひとまず危機は乗り越えたが、問題はまだ残っている。
「どうするかな」
目の前にはでんっ! と存在するでけえ丸。体表がきらきらしていやに目立つ。
小さくしたいところだが、それを実行するにはでけえ丸に預けているアイテムを全部捨てさせる必要がある。
アイテムがもったいない。
何よりでけえ丸の戦闘能力を活かせない。
イベントはまだ続くんだ。でけえ丸の戦闘能力を活かせないのは後々に響く。
でけえ丸にアイテムを捨てさせてきら丸に戻すか。
はたまたでけえ丸のまま戦うか。
俺は悩んだ末に後者を選んだ。
イベントにはマゼラさんたちも参加しているはずだ。でけえ丸なしで戦うのは不安が残る。
「ここを移動するぞ」
ミサイルの爆発音は周囲一帯に広まったはずだ。すぐに他のプレイヤーが寄ってくる。
イベント中はプレイヤーをキルするとランダムでステータスが加算される。アドバンテージを取るために強者が集まって来るだろう。
その前にここを離脱する。いくらフィジカルに優れるでけえ丸でも複数のプレイヤーに囲まれたら厳しい。ここは真っ直ぐ走って一点突破だ。
走る内にミサイルのクールタイムが明けた。
「いたぞ! きら丸とフトシだ!」
「ゼロツー、ストーンミサイルだ」
「了解、ストーンミサイル!」
新手の二人が爆散した。HPとMPの最大値が1増える。
後方でも爆発音が鳴り響く。プレイヤー同士の交戦が始まったようだ。
足を止めるひまはない。俺は振り返らず直進する。
今は爆発地点に人が集まっている。まずは集まりを避けたプレイヤーを見つけて確実に数を減らす。見つかりやすいでけえ丸を連れて戦うにはそれしかない。
「ラムネ、空から捜してくれ」
「ピィ」
ラムネが羽ばたいて枝葉の向こう側に消える。
目の前にウィンドウが開く。
前方に三つの点を見つけた。俺たちは点に向けて走る。
でけえ丸はでかい。ぴょんぴょん跳ねれば地面が揺れるし、ころころと転がれば落ちている枝をへし折ってパキッと鳴らす。先に姿を見つけるのは相手の方だ。
相手が気づいた。前方で光が発せられる。
でけえ丸が前に出て魔法を受け止めた。
「よおフトシ。こうして戦うのは初めてだな」
前方にいるオオガワが挑発的に笑む。
同僚をはさむのはクラン筋肉最高のメンバー。以前俺とパーティを組んだ二人だ。
「やる気満々だな」
オオガワたちとはパーティを組んだ仲だ。動ける連中だってことは身をもって知っている。
知り合いだからといって手加減はいらないだろう。
「行くぞオオガワ!」
俺はヴォルテクス・ハチェットを引き抜いてかかげる。
「儀礼剣じゃない?」
オオガワが目をぱちくりさせた刹那、俺の視界の上隅でプラズマが弾けた。
三本の輝線が枝分かれして宙を駆ける。
プラズマに打ちすえられた三人がひざを折って地に伏した。
「な、にぃっ……!」
稲妻のエフェクトが三人の体を飾る。状態異常の麻痺にかかったようだ。
「きら丸!」
「キューッ!」
でけえ丸がぴょ~~んと高く飛び跳ねる。
うつ伏せているオオガワたちに大きな影が下りた。
「おわああああああああああっ⁉」
ズゥ……ンと地面が揺れる。
でけえ丸が転がると三つの人影が消えていた。
「こりゃいいな。確殺コンボの完成だ」
武器のプラズマチャージを待つ必要はあるが、次のプレイヤーを見つけるまでには時間がかかる。防具のアビリティもあるしチャージ時間はそれほど気にならない。
また爆発音がした。
「すぐにここから離れないと」
スカイビジョンを視認するに、この場には十を超える人数が集まりつつある。
点のまとまりはそれほど離れていないのに戦闘が始まる様子はない。最初のミサイルの爆発でも集まらなかった辺り、彼らは集団行動を心がけているようだ。
「同じクランに属してんのかな」
後ろに下がればより多くのプレイヤーを相手することになる。どちらにせよ遭遇は避けられない。
俺はコンソールを開いてでけえ丸の腹袋にある物を入れ替える。
丸みのある巨体が青紫を帯びた。
「見つけた! 見つけた見つけた見つけましたよフトシィィィィッ!」
聞き覚えのある声がして顔をしかめる。
会いたくないなぁ。でも戦いは避けられないしなぁ。
「ゼロツー。俺が合図したらきら丸の体に飛び込め」
「どういう命令でありますかそれは。よく分からないであります」
「じゃあ俺の真似をしろ。それで全部解決する」
「了解であります」
俺は開けた場所に出る。
思った通りスズさんたちが待ち構えていた。




