第73話 三人目のクランメンバー
俺は鍛冶場に転移してログアウトした。
後日オオガワから第三回イベントについて聞かされた。
ジャングルを舞台にした対人戦。オオガワは樹木を盾にした魔法の撃ち合いになると予想しているらしい。
俺が使える魔法と言えばストーンミサイルくらいのものだ。撃ち合いになって俺に勝てるだろうか。
こうしちゃいられない。俺は第三回イベントに向けて準備を始めた。ルーティンのクラフトと出品を終えてコンソールを開く。
ファムさんのマイルームに転移した。栽培してもらったマクワの実を受け取るべく温室へと歩みを進める。
男性の声が聞こえてきた。
「ねえいいじゃん。オレらのクランに入ってよ」
「こ、困ります」
何やら取り組んでいるようだ。
ファムさんが迷惑しているとふんで踏み込む。
「ファムさん。依頼してたアイテム受け取りに来たぞ」
思った通りファムさんの近くに男性プレイヤーの姿があった。男性が横目を振るなり迷惑そうに舌打ちする。
露骨だなぁ。これが出会いちゅうってやつか。
俺に気づいたファムさんが小走りで駆け寄ってきた。小柄が俺の背中に隠れて男性プレイヤーをそっとのぞき込む。
小動物みたいでかわいいな。
「おっさん、オレら立て込み中なんだけど」
「俺もファムさんに用があるんだ。ファムさんはどっちを優先したい?」
「フトシさんです!」
即答だった。
男性プレイヤーが目を丸くする。
「フトシ? お前フトシか」
「ああ。てか呼び捨てやめい」
「まじか! こんなところでフトシ会えるとは思わなかったぜ! きら丸どこだよ」
「連れてきてない」
「まじかよつかえねー」
何だこいつ、失礼なやつだなぁ。
説教してやろうかと悩んでいたら男性プレイヤーの姿が消えた。
「あれ、あいつどこいった」
「ブロックしました。
声が上がったのは背後。俺はファムさんに向き直る。
「ブロックって?」
「特定のプレイヤーをマイルームに入れないようにするんです。他にもマイショップでの購入を不可にしたりできます」
「そんな機能あるんだな。知らなかったよ」
つまりあのナンパ野郎は二度とここに入れないわけだ。
気の毒とは思えないな。
「すみません変なことに巻き込んでしまって」
「大したことはしてないさ。ファムさんはよくああいうやつに絡まれるのか?」
「はい。頻度は高くありませんけど、依頼にかこつけてたまにあります。私は植物を愛でていたいだけなんですけど」
視線を落とすファムさんの姿が以前の俺とかぶる。
俺はクラフトがしたいだけだった。だからスズさんのクランを脱退して新しいクランを設立した。
クラフトと栽培の違いはあれどファムさんも同じなんだ。
「俺のクランに入るか?」
「え?」
ファムさんがきょとんとして見上げる。
あ、やべ。これじゃ俺までナンパと勘違いされるじゃないか。
「違うんだ! 今のはナンパじゃなくて、俺も似たような経験をしたからクランに所属すれば勧誘されなくなると思って」
「大丈夫です、ナンパだとは思ってませんよ」
ファムさんが微笑を浮かべる。
含みのない笑みを前にしてほっとした。
「そうですね、クランに入っちゃえばいいんだ。気づきませんでした」
「分かる。俺も気づくまでには時間かかったからな」
「フトシさんのクランにはどんな方がいるんですか?」
「実は俺も含めてまだ二人だけなんだ。新規加入者を募る予定はないから当分小さいクランだな」
「それは静かでいいですね。決めました、私フトシさんのクランに入ります」
「分かった。じゃ招待送るよ」
「お願いします」
俺はコンソールを操作してファムさんをクランメンバーに招待する。
ファムさんの細い人差し指が宙をタップする。
視界の隅に『ファムがクラフト愛好会に加入しました』と表示された。
「これからはクランメンバーとしてもよろしくお願いします」
「ああ。よろしくなファムさん」
「はい、よろしくされました。あ、マクワの実の受け取りでしたね」
ファムさんが小走りで歩行スペースを踏み鳴らす。
華奢な体が行って戻ってきた。
「依頼されていたマクワの実です。どうぞ」
「ありがとう」
俺はマクワの実を受け取ってマイルームに戻った。
スライムピラーがいやにキラキラしている。
よく見るときら丸が巻きついていた。
「なんだきら丸、じゃんけんで負けたのか?」
「キュ~~」
弱々しい鳴き声が空気を震わせる。
ラムネときら丸はたびたびミニゲームをかけてじゃんけんをする。ラムネは脚で、きら丸は触手で。何とも器用なことだ。
俺はでけえ丸を連れてアトリエに入る。
ちょうどラムネがクラフトを終えたところだった。きら丸がうっきうきでミニゲームに励む。
第三回イベントでもアイテムの持ち込みはありだ。どれだけ作っても作りすぎることはない。
「そうだ、サグミさんにもファムさんのことを伝えておかないと」
顔合わせは予定があった時にするとして、とりあえずメッセージだけは送っておいた。




