第71話 新しい武器
「きら丸、ラムネ、ゼロツー。準備はいいか」
三者三様の返事を耳にして扉を押した。
露わになった広場の奧には大きなワニ。大きなあごをバクバクさせて歯を食いしばる。
エネミーの口からバヂッと光がもれる。
「散らばれ!」
俺は嫌な予感がして地面を蹴る。
大きな口が開かれた。喉奥から飛び出した青白い球体が俺の背中近くを通り過ぎる。
球体が入り口近くで弾けた。
「痛って!」
飛び散ったプラズマが当たって顔をしかめる。
プラズマだけに拡散するらしい。壁から離れて立ち回らないとダメージを受けるようだ。
ワニが口をバクバクさせて迫る。
穴の近くにいた個体も似た攻撃を繰り出していたが、ボスエネミーのそれは歯をガンガンぶつかり鳴らすたびにプラズマが散る。
おまけにエネミーの突進は追尾してくる。全力で横に走れば噛みつかれはしない一方でプラズマにHPを削られる。こまめに回復しないとうっかりミスで緑の棒が噛み砕かれそうだ。
長期戦は不利。
だったら短期決戦を挑むだけだ。
「きら丸、エターナルボンドいくぞ!」
「キュッ!」
視界の左上にあるゲージが急激に減少する。
俺の体が動いた。剣をかかげて毎度のごとく振り回す。
でけえ丸が剣身にくっついて地面を離れる。
さあ今回はどうなる。ビームか、あるいは叩きつけか。
見守る俺の前で、でけえ丸が遠心力に乗って飛んでいった。
「ん?」
あれ、今回はそういう方向性?
細長いでけえ丸を目で追った先にはUターンしたエネミー。バクバクする口が巻かれて開閉不可になった。
「おお!」
予想しなかった戦果に意図せず足を止める。
ワニ型エネミーがでけえ丸を振り払おうと暴れる。何度も壁にぶつかる様子は実に痛そうだ。きら丸自体が帯電しているからなおさらに。
「これじゃ近づけないでありますね」
「だったら近づかずに攻撃すりゃいい」
「ミサイルでありますね」
「そういうことだ」
いかにゲージ技とはいえボスエネミーをずっと拘束できるはずもない。
俺はすーっと空気を吸い込む。
「きら丸ーっ! ミサイル撃つぞー!」
「キューッ!」
返事が来た。
了承と信じてゼロツーに視線を振る。
「ゼロツー、ミサイル発射!」
「了解! ストーンミサイル、発射するであります!」
おお! 何かこの流れかっこいい!
岩のミサイルが発射された。でけえ丸が拘束を解いて離脱する。
口が開いた拍子にミサイルがエネミーの口内に消える。
小さな破裂音に遅れてエネミーが煙を吹いた。巨体が力なく傾いて地面を揺らす。
これはあれか、特殊ダウンってやつか。
それなら!
「総攻撃だあああっ!」
ゴーレムブレードの柄を握りしめて突撃する。
ものの十秒ほどで方がついた。祝うような効果音に続いてリザルトウィンドウが視界内を飾りつける。
レア度5
『ヴォルテクス腺体』
プラズマ・ガルグのプラズマを発する器官。持ち主が息絶えてもなおプラズマを生成している。
「これレアドロップか」
しかもレア度5。エーテライト鉱石と同じだ。これは強力な武具が作れる予感。
他にも鱗や牙がザックザク。巨体だけに得られる素材も大量だ。
「じゃ帰るか」
俺たちは鍛冶場に転移した。
早速クラフトレシピを確認っと。
「あった!」
感嘆符のある武器。
ヴォルテクス・ハチェット。素材のレア度からして儀礼剣に匹敵する武器のはず。妖精界という特殊なフィールドで得たことを踏まえると、性能は儀礼剣を超える可能性もある。
ゼロワンはカジさんと話し込んでいる。
俺は迷わずマイルームに飛んだ。アトリエに踏み入って壺に素材を投入する。
久々なレア素材のクラフト。心が踊って仕方ないぜ。
「さあ俺に高級ミニゲームを見せてくれ!」
銀枠の高級感あふれるウィンドウが展開された。プラズマを思わせるエフェクトが散って線をたどる。
チュートリアルが始まった。光が瞬間移動と見まがうばかりのスピードで線の上を移動する。
よく見ると線は細い縦線で区切られている。プラズマはリズムに沿って枠から枠へと移動しているようだ。
「雷みたいだな」
コツと仕様をつかんでいざ本番。チュートリアルでも聞いた曲が、プラズマがリズムに沿って枠から枠へと移動を始める。
最初のリズムはスローペース。これは緩急をつけてくるタイプと見た。
予想通りサビから急激なスピードアップが行われた。俺がボタンを押すたびに雷が宙を進むようにほとばしる。
まるで自分が稲妻と化して宙を駆けているような感覚。時間を忘れてボタンを連打する。
光の行く先で道が途切れている。
上の方に新たなレーンを見つけた。少し距離はあるものの、光が伝播することを読んでボタンを押す。
思い通り!
さながら避雷針に引き寄せられる電気のようだ。新たなレーンに移動した光が今まで通りの直進を続ける。
レーンは棒じゃない。上や下、斜めに曲がって振り払おうとしてくる。
振り払われてやるものか。消費したのはレア度5の素材なんだ。失敗したら次手に入るのはいつになることか。
このミニゲームで決める。次なんて考えない。
目の前にアルファベットが表示される。
それは終わりを示すfinishだった。
「終わったか……」
口から安堵のため息がこぼれる。背後に気配を感じて、きら丸とラムネがいたことを思い出す。
プラズマだけに激しく息つく暇もないゲームだった。
やっと終わった。そんな感想の方が最初に来る。
素材が希少なのも大きいんだろうな。妖精界のアイテムだから出品も望めないしすごいプレッシャーだった。
でもクラフトの評価はS。俺はやりきったんだ。
「どれどれ、性能を拝見だ」
ウィンドウを開く。
レア度5
ヴォルテクス・ハチェット
攻撃力 +25
アビリティ【第4の撃】
素晴らしい出来。このレベルの物は中々お目にかかれない。
「攻撃力なら儀礼剣を超えてるな」
儀礼剣の攻撃力は23だ。日蝕の騎士団に属するプレイヤーたちは攻撃力1にもこだわっていたし無視できる数値じゃない。
「アビリティの方はどうかな」
俺はアビリティの文字をタップする。
『第4の撃』
柄を握っていない間プラズマがチャージされる。マックスチャージ後に頭上にかかげると敵を打ちすえる。
「条件はあるがエーテルの矢みたいなものか」
パワードアーマーを着用している間は使えないが、素材集めの時にも自動でチャージされるのはありがたい。
「次は防具だな」
ワニ型エネミーから得た素材を壺に放り込んで次のミニゲームを始める。
安心感のある上から下へ流れる音ゲー。
その一方でルールが違う。今回のミニゲームはパーフェクトではなく、より高い得点を目指す内容だと説明文で記された。
十秒ほどミニゲームをプレイして、そのルール変更がもたらす影響を理解した。
高得点を取るには、一つでも多くのノーツを処理する必要がある。
でもこのミニゲームには、得点源となるノーツを消すギミックがある。プラズマを思わせるノーツを処理すると光が弾けて、近くにある他のノーツを焼き消してしまう。
処理する際のデメリットが目立って見逃したくなるが、プラズマノーツは得点が少し高めだ。
見逃すなんてもったいない。ノーツを処理する合間に全体を一瞥して、プラズマノーツを処理すべきか判断する。
一瞬の判断ミスが失点を招く。その緊張感を味わう内にゲームが終わった。
「面白かったぁーっ」
高級感はなかったが、プレッシャーのないミニゲームはこれはこれでいいものだ。
「さーて俺の新しい防具はーっと」




