第70話 秘密の洞窟
俺は妖精界を出て山を登る。
おもむく先はゼロツーが眠っていた洞窟のある山。標高が高くて肌寒いその場所には魔力の結晶ができるらしい。
俺はそれを採取しに来た。
術式改造に必要な素材。採集してミサイルの性能を上げるんだ。
「ここか」
あちこちにきらきらした結晶ができている。
魔力のかたまり、魔晶石。これこそ今の俺達に必要なアイテムだ。
「さあ採取するぞきら丸、ラムネ」
「キュ」
「ピィ」
俺たちは散開して土の地面の上を駆ける。
ラムネが樹木の幹にある結晶をわしづかみにする。
ラムネにアイテムを保有できるスペースはない。とがった足が結晶を削り取ってきら丸に渡す。
俺は魔晶石をポーチに入れつつ作業に励む。
どこからともなく威嚇するような鳴き声が上がった。
「何だ?」
鳴き声が聞こえた方角へ走る。
大きな牙獣が土の地面を踏みしめていた。獣が俺をにらみながらガリガリと音を立てる。
上下するあごがチラチラと光をのぞかせる。
飛び散る破片から察するに魔晶石だろう。魔晶石を食料としているから、縄張りを荒らす俺たちを排除しに来たってところか。
きら丸とラムネも駆けつけた。
「せっかくだし倒していくか」
地面を蹴って駆け出すべく足に力を込める。
ポンっと体から力が抜ける。
俺のとなりに銀色の人型が着地した。
「……何でアーマー形態解いたの?」
「解きたくて解いたわけじゃないであります。あの形態を維持していると、何か力が抜けていく感覚があるといいますか」
ゼロツーの装着形態には制限時間があるってことか。あるいは特殊なゲージを消費しているのか。
左上を注意して見ると見慣れない棒があった。
「これか」
意識して見てなかった。これからはこのゲージも気にして戦わないといけないのか。
俺はゴーレムブレードを鞘から引き抜く。
意識を正面に戻すと、牙獣の巨体がすぐ近くに迫っていた。
「ぐあっ!?」
衝撃に遅れて浮遊感に包まれた。視界の左上にある緑の棒が六割ほど削れる。
ダメージがかなり大きい。そろそろ防具を更新しないと厳しいか。
それにしても浮遊感長いな。
そう思っていると視界の明度が急激に落ちた。
「へ?」
視線を振るとあちこち地面の壁。ただ吹っ飛ばされただけじゃ見えない物だ。
落ちてる。
俺、落ちてる!?
「えええええええええええっ⁉」
たまたま吹っ飛ばされた先に穴があったってことか⁉ そんな偶然、あるゥ!?
これどうなるんだ。落下ダメージとかあるのか?
もしここでHPが0になったらどうなるんだ。
「キューッ!」
上の方できらきらしたものが映る。
きら丸だ。ラムネにわしづかみにされた状態で追る。
「きら丸にラムネ、助けに来てくれたのか!」
きらきらした触手が迫る。俺も腕を伸ばして触手を握りしめる。
後ろを見ると地面との距離も近づいている。
駄目か!?
そう思った瞬間クンッ! と浮き上がる感覚があった。
その感覚は長続きしなかった。再び重力に誘われて体が自由落下する。
ぽんっと背中に軽い衝撃があった。
横目を振るとそこには硬質の地面。ラムネが激突の寸前に強く羽ばたいて慣性を減らしたようだ。
俺は着地に成功したことを悟って安堵のため息をついた。
「ありがとなきら丸、ラムネ」
俺は両手でペット二匹の頭をなでる。
マイルームに戻ったらおいしいお菓子を作ってあげよう。
「マスターフトシーッ! 大丈夫でありますかーっ!」
空をのぞかせる穴から声が響き渡る。
俺を吹っ飛ばした牙獣はまだ穴の近くにいるはず。 ゼロツーは牙獣に追われているのかもしれない。
「大丈夫だ! ゼロツー、ここまで降りてこれるか?」
「さすがに高すぎるであります! 怖いでありますよ!」
だよな。
俺はきら丸たちに視線を向ける。
「きら丸、ラムネ。悪いがゼロツーを迎えに行ってくれないか?」
「キュ」
「ピィ」
ラムネがきら丸をつかんで飛翔した。穴の向こう側に消えて俺の周りが静寂に包まれる。
穴の向こう側に消えて数十秒。きら丸たちがゼロツーとともに降りてきた。
「お待たせであります」
メカメカしい足が硬質な地面を踏み鳴らした。
俺はハイポーションを飲み終えてHPを満タンにする。
「これからどうするでありますか?」
「そりゃ探索だろ。こんな見るからに怪しい場所、何かあるに違いない」
「おっかないのいたら嫌でありますが」
「レア素材がある可能性と比べればささいなもんだよ」
俺は行くぞと促して足を前に出した。背後で硬質な足音が続く。
明暗がはっきりしている空間だ。天井や壁際で微かなスパークが散っている。
未知なる素材が待ち受ける予感。自然と口角が浮き上がる。
期待に胸を高鳴らせていると鉱脈を見つけた。
「採取ポイント発見!」
俺は我先にと駆け出してピッケルを取り出した。鉱脈の前で足を止めて腕を振り上げる。
ピッケルをぶつけた箇所に小さなスパークが散った。入手したアイテムの詳細がウィンドウに表示される。
レア度3
『プラズマオア』
電気をまとったように見える鉱石。プラズマに見えるそれはもれ出したエネルギー。
「早速新しい素材が落ちたな」
妖精界でこういう場所を見つけたのは初めてだ。当然ちゃ当然ではあるが。
「きら丸もどんどん食え」
「キュッ!」
きら丸が触手を伸ばして鉱石を取り込む。
発掘を終えて次の採取ポイントを探しているとエネミーと遭遇した。
俺はゴーレムブレードを鞘から抜き放つ。
「ストーンミサイル!」
ゼロツーが右腕を伸ばす。
ミサイルを飛ばす合図だ。俺たちは瓦礫を受けないように距離を取る。
岩のミサイルが岩のトカゲに直撃した。
ポリゴンと化すトカゲの両側から別の個体が殺到する。
「うわ! おいらの元に来たでありますゥッ!?」
ゼロツーが回れ右してドタドタと逃げる。
「その金属の拳は飾りなのか?」
「飾りであります!」
飾りなら仕方ないか。
まあロボットってよくよく考えなくても精密機械だし、下手になぐらせて壊れられても困るか。
俺はトカゲを追いかけて後ろから斬りつける。
きら丸やラムネと連携してゼロツー狙いのトカゲを一掃した。
「ふう、助かったであります」
ゼロツーがガシャンガシャンと戻ってきた。
クールタイムのあるミサイルで範囲攻撃できないのは不便だ。術式を開発する時は一考するか。
「次からは撃つタイミングを考えた方がいいかもな。初手からぶっ放したらヘイト買って逃げ回る羽目になるぞ」
「そうでありますね。初手はきら丸に任せるであります」
「キュッ」
パーティの方針を定めてさらに前へ。鉱脈を見つけてピッケルと発掘衝動に身を委ねる。
パリパリと光を散らすでけえ丸が完成した。
「プラズマオアをためると電気をまとうんだな」
そーっと手を近づけるとバヂッと痛い。しっかりとHPゲージもわずかに削れた。
「きら丸、そのプラズマって放出できるか?」
「キュ」
でけえ丸が身を震わせる。
「キュ~~」
悲し気な鳴き声。
どうやら放出はできないようだ。エターナルボンドを使ったら電撃のビームでも撃てるんだろうか。奥に潜むであろうボス戦のお楽しみだ。
念のためポーションを飲んでから洞窟の奥を目指す。
やがて大きな扉の前にたどり着いた。




