第67話 パワードアーマー
俺は佐原を送ってから自宅に戻った。シャワーを浴びて寝巻に身をくるみ、リビングでスマートフォンを握る。
動画サイトでクラマギ実況者と検索をかけると、すぐにサムネイルの画像が並んだ。
とりあえず画面をタップ。クラフト関連の動画を片っ端から視聴する。
ゲーム内からでも動画を配信できるらしい。ミニゲームをプレイする動画や上達するコツの説明など内容は人それぞれだ。
再生数を稼いだ動画は難しいミニゲームをクリアする内容が多い。自身ができないことを容易くこなす姿にカリスマが備わるのか。
「色んなことやってるんだなぁ」
動画内でしゃべる人はみんな楽しそうだ。
動画を見る内に興味惹かれて配信について調べる。
クラマギには配信に必要なアプリが搭載されているようだ。俺もできるってことか。
おまけに視聴者数を稼げばお金ももらえるみたいだ。夢が広がるなぁ。
「俺も配信してみようかな」
具体的な案はない。何を配信するか考えておくか。
俺は身支度をすませてゲームハードをかぶった。ベッドの上に寝転がってクラマギにログインする。
「えっと、確かコンソールを開いてと」
あったあった。アプリを一通り触ってボタンの配置を確かめる。
配信する際の流れを把握してコンソールを閉じた。マイハウスに入ってアトリエの内装を視界に入れる。
きら丸が触手を動かしてボタンを押している。
ラムネの姿が見えない。
アトリエ内を見渡す前に、きら丸の上で微かに沈む水色を見た。
ラムネが目を閉じている。鳥と言えば立ったまま寝るイメージがあるものの、水色の体は無防備に真っ直ぐ伸びている。ミニゲームに疲れて眠ったんだろうか。
ミニゲームが終わった。
評価はS。きら丸もすっかり慣れたものだ。
「調子はどうだきら丸」
俺はコンソールを開く。
ノーム用の防具は作り終わっていた。
「えらいぞきら丸ー!」
「キュッ!」
ラムネがきら丸の上に乗っかっている。俺は左右からきらきらした丸みをはさんでわちゃわちゃする。
きら丸を労っているとラムネが目を開けた。
「すまん、起こしちゃったな」
「ピィ」
機嫌を損ねた様子はない。ラムネがしゃきっとした動きで体を起こす。
俺はペットを連れて妖精界に飛んだ。転移先の鍛冶場で作業音を耳にする。
「こっちか」
俺は音につられて足を前に出す。
「できたぞい!」
「やったでありますね!」
「わーいわーい!」
鍛冶炉の前で大きな声が張り上げられた。
「何だなんだ、何の騒ぎだ」
「おうフトシ。例のブツ、完成したぞ」
「例のブツ?」
「まあ見ておれ」
カジさんが向き直る。
「ゼロツー、装着じゃ!」
「了解であります!」
そーちゃく! ゼロツーが告げながら珍妙なポーズを取った。
銀色の指が握るのは筒状の代物。それをもったいぶったあげく右前腕に挿しこんだ。
「どうでありますか?」
ゼロツーがポージングを取る。メカの顔でもドヤァァァとしているのがよく分かる。
「何と言うか、いいな!」
俺はサムズアップをかざす。
色々言いたいことはあるが、まずはミサイルの完成を祝おうじゃないか。
「そんでミサイルは? できたってことは発射できるんだろ?」
「無論じゃ。ここは危ないから一度村の外に出よう」
そういやミサイルってことは爆発するよな。他の妖精が驚くだろうし、一応アメリアに話を通しておくか。
俺はゼロワンを介してアメリアに爆発音が響くことを伝えた。ついでにノームにクラフトした防具を配布した。
晴れて出発だ。シルネ村を出て雑草を踏みしめる。
いい天気だ。降り注ぐ日光や髪をなでるそよ風が気持ちいい。
絶好のピクニック日和。こんなことならきら丸たちにお菓子でも作って来ればよかったな。
ミャンセの案内を受けて足を進める。
開けた場所に出た。
草原が広がるばかりで何もない空間。ここでなら生物に当たるってことはなさそうだ。
「じゃゼロツー、頼む」
「了解であります」
そーちゃく!
ゼロツーが例のごとく謎のポーズを取って拡張パーツを取りつけた。
がらんと開けた空間に向けて銀色の右腕が伸ばされる。
「……撃てよ」
「ただ撃つだけじゃ味気ないであります」
「どうしろと。発射フォルムでも実装してほしいのか?」
「さすがにそこまで大規模改造する自信ないぞわし」
ミサイル発射時に光るようにして!
魔力の無駄。
とがったフォルムになりたい!
変形パーツが無駄で邪魔。
あれこれ論じて、俺たちは一つの結論を導き出した。
「ストーンミサーイルッ!」
ゼルツーの宣言に遅れて拡張パーツの先端が開く。
闇をのぞかせるそこから岩のミサイルが射出された。予想したよりも速いスピードで遠方の岩に迫る。
爆発音に次いで砂ぼこりが噴き上がった。散った瓦礫がパラパラと宙を舞って草原に散らばる。
成功だ。俺も含めておおおおおっ! と歓声が上がる。
「ゼロツー、体に異常はないか?」
「何ともないであります。魔力消費量も想定の範囲でありますよ」
「ってことは連射もできるのか」
「当たり前じゃわい、誰が作ったと思うとる。まあさすがに岩を構成する時間はかかるがの」
「冷却の時間も必要でありますね」
「そうじゃな。オーバーヒートして機構に支障が出ても困る。最悪内蔵している術式が焼き切れるかもしれん」
「となると冷却機関を内蔵できれば連射できるってことか」
俺は電子メモ帳を開いて、拡張パーツ改良のアイデアを書きまとめる。
「みんな言ってること難しくて分かんなーい」
ミャンセがあどけない顔立ちをむっとさせる。
俺は思わず苦笑した。
「悪い悪い。ダークエルフ迎撃に備えて心強い武器ができたよ。ミャンセのおかげだ」
「わたし? わたしのおかげ?」
「そ。ミャンセのおかげ」
「やったぁーっ!」
ミャンセが元気よく羽をぱたぱたさせる。
ゼロツーが二発目を発射する。
次は飛距離関連のテストだ。宙を突き進む岩のかたまりが重力に引かれて落ちていく。
爆発が砂ぼこりを噴き上げた。
「有効射程は百メートルってところか」
弓や魔法の射程距離を測ったことはないが、百メートルもあれば十分だろう。
しかしその、あれだ。
「なあカジさん、拡張パーツって俺も使えたりするのか?」
「急に何を言い出すんじゃ」
「いやー俺もミサイル撃ってみたいなーなんて」
「魔力を注いで内臓術式を起動させれば可能じゃが、現状拡張パーツは人があつかう想定をしとらん。魔力を流せても発射の反動で肩がイカれるわい」
「そりゃそうか」
ゼロツーはロボットだ。重さや硬さは人間の比じゃない。
プレイヤーといえど頑丈さでロボに勝つのは無理か。
「マスターフトシもミサイル撃ちたいでありますか?」
「ああ」
かっこいいからな。
なーんてもちろん口には出さない。子供っぽいし。
「了解したであります。へーんけいっ!」
「へんけい?」
俺が問いかけた時だった。ゼロツーの体が外れて人型を失う。
「おおい!?」
何してんの! せっかく俺が起こしてやったのに!
俺が抗議する前にゼロツーだった物が動いた。何かに引き寄せられるように宙を動く。
それらは俺に向かって殺到した。
「おわああああああああああああっ⁉」
俺はとっさに体の前で腕を交差させる。
右腕にゼロツーだった物がくっついた。戸惑う間にメカが次々と俺の体に密着する。
やがて宙を飛び交う銀色がなくなった。
「装着完了であります」
「え?」
装着? てか今の声ゼロツーか。
腕を下ろして自分の体を見下ろしてみる。
銀色のメカが俺の体にくっついている。胸当てや籠手など防具としても機能しそうだ。
「なあ二人とも、今の俺どんな感じ?」
「すごくおっきい」
「うむ。一回り大きくなったように見えるな」
あらためて自分の姿に視線を落とす。
腰元にあったゴーレムブレードの鞘が消失している。防具やプライマルファーコートもない。
「これ装備はどういうあつかいなんだ?」
俺は宙を人差し指でかいた。コンソールを展開して装備の欄を確認する。
武器と防具が『パワードアーマー・ゼロツー』の文字に占められていた。
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