第66話 佐原との夕食
俺は数時間ぶりに外気を吸った。
外はすっかり日が落ちかけだ。コンクリートの地面を歩いてコンビニに入る。
甘いものといっても色々ある。
カフェオレやケーキは定番として、和菓子や抹茶という手もある。エナジードリンクなんてのも面白そうだ。
細長いリユース缶が目についた。
ローマ字で描かれたオフィザーズスラップ・シゲキマックス。何かよく分からないがすごそうな名前だ。強炭酸にしてカフェイン配合。起きろと怒鳴ってビンタしてくる上官を思わせる味! と書いてある。
「どんな味だよ」
逆に気になる。
説明文に想像力向上がうたわれている。ビンタされた衝撃で新しい発想が浮かぶんだろうか。
ミサイルを追い求める俺にピッタリじゃないか。
「よし、これにするか」
エナジードリンクなんて飲むの始めてだ。色んな意味でわくわくする。
後はスイーツだ。何にしようかなぁ。
「あれ、先輩じゃないですか」
棚から視線を上げると整った顔立ちが映った。
「佐原じゃないか。お前もコンビニ来てたんだな」
「はい。夕食後のデザートが欲しいなと思って」
「分かるぞ。俺も糖分ほしくなったから」
「奇遇ですね。先輩は何を選ぶんですか?」
「それが迷ってるんだよな。ジュースは決めたんだがスイーツどうしようか」
「飲み物と合わせればいいじゃないですか。飲み物は何にしたんですか?」
佐原が俺の手元に顔を近づける。
「オフィザーズスラップ・シゲキマックス……って、これエナジードリンクじゃないですか」
「ああ。試しにのんでみようと思って」
「体に悪いですよ? 砂糖たっぷりですし」
「炭酸ってあんまり甘くなくね」
「炭酸が甘さをごまかしてるからですよ。逆に炭酸が入ってて甘いのは相当な量の砂糖が入ってる証拠です」
「へえ、佐原詳しいんだな」
「食事には気を使ってますから。というか夕食にエナドリに飲むって何考えてるんですか」
「いや、夕食のことすっかり忘れてたからさ、エナドリとスイーツでいいかなって」
「はぁ⁉ スイーツとエナドリが夕食って正気ですか」
「正気だって。夕飯の準備してないし、お腹を満たすだけならスイーツで十分だろ」
「それじゃ栄養摂れませんよ」
んーとうなって、佐原が思いついたように顔を上げる。
「先輩ってここから自宅近いですよね。この前も徒歩で来てましたし」
「ああ。歩いて数分だな」
「分かりました。じゃあ私がさっと夕食作ってあげます」
「え」
夕食を作る? できるのかそんなこと、あの佐原に。
「あ、今料理できるのか疑いましたね?」
「んーん」
かぶりを振って否定した。
「嘘です絶対疑いました。名誉を守るために夕食作ります」
「無理しなくていいぞ?」
「絶対作る」
強い口調で押し切られてしまった。エナドリを棚に戻されて、佐原が夕食の食材を購入する。
俺と佐原が食べるんだ。金額の半分は俺が支払って荷物を持つ。
帰途をたどってマンションに入った。指紋認証で電子ロックを解除して自宅の玄関に踏み入る。
佐原とともに手洗いうがいをすませた。
「エプロン借りますね」
「おう」
佐原がエプロンを身に着けてキッチンに立った。髪を頭の後ろで結う立ち姿から言いようのない色気が漂う。
佐原が鍋に張った水を沸騰させてパスタを入れる。
こうして見ると佐原は美人だ。会社内でもよく男性社員に声かけられるみたいだし、この感想は間違っていないのだろう。
そんな女性が俺の自宅で夕食を作っている。何だかしちゃいけないことをしている気分だ。
俺は天板の上にある物をどかして台拭きで拭いた。二人分の食器を用意してお盆を置く。
佐原がお盆を持ってリビングに現れた。
「お待たせしましたー。ツナと野菜のパスタです」
繊細な手がテーブルの上を皿で飾りつける。
トマトの赤とブロッコリーの緑が鮮やかで見映えする。
「すごくおいしそうだな。佐原って本当に料理得意だったんだ」
「だから言ったじゃないですか。こう見えていつもお弁当作って出社してるんですから」
佐原が得意げに胸を張った。
「疑って悪かった」
「分かればいいんです。さ、冷めないうちに食べましょう」
佐原がエプロンを外して俺と同じテーブルをはさむ。
俺たちはいただきますを告げてフォークの柄を握った。フォークで麺をくるくると巻いて、トマトとツナを刺してから口に運ぶ。
程よい麺の固さ。トマトとツナの旨味成分が相乗効果を発揮して旨味のビッグバンだ。口角が浮き上がるのを止められない。
「うまい! うまいぞ佐原!」
「当然です。私も食べよーっと」
佐原がうきうきしてフォークの先端で麺を巻いた。ブロッコリーやトマトを巻き込んで口に含む。
「ん~~おいしい!」
佐原が表情をほころばせる。
相変わらずいい顔して食べるなぁ。こっちまでもう一口食べたくなる。
会社の食堂で言ったら嫌がったから指摘はしないが。
「先輩の部屋ってこんな感じなんですね」
佐原が興味深そうに室内を見渡す。
少し気恥ずかしいな。話題逸らすか。
「佐原は部屋に何を置いてるんだ?」
「内緒です」
「いいじゃん。教えてくれよ」
佐原がむっとする。
「女性の部屋は秘密の花園なんです。知りたかったらもっと仲良くなってからにしてください」
「もっと仲良くって何だ。俺たちもう親友みたいなもんだろ」
「それは……その、内緒です」
佐原が目を逸らす。
それも秘密の花園ってやつか。女性は秘密が多いな。
「先輩はあれからマギクラやってますか?」
「ああ。はまってるぞ」
「想像つきます。どうせクラフトのミニゲームばかりやってるんでしょ」
「そんなところだな。佐原はどうだ?」
「ぼちぼちやってますよ。クラフトの腕もかなり上達しました」
「へえ。佐原もクラフトやってるんだな」
「はい。すごい人に弟子入りしてるんです。じきに先輩追い抜いちゃいますよ」
「すごい自信だな。誰だよ佐原の師匠って」
「ふふん、内緒です」
「またかよ。秘密主義はんたーい」
ブーイングを交えて抗議する。
佐原がまんざらでもなさそうに口角を上げた。
「そこまで言うなら仕方ないですね。じゃあ特別にヒントあげます。クラマギやってる人の大半が知ってそうなプレイヤーですよ」
ってことは大きなクランに属してるクラフターか。
その手の情報は仕入れてないから分からないな。
「その人が所属してるクランの名前は?」
「内緒です。それ言ったらばれちゃいますよ」
「だよな」
佐原は条件を緩めないだろうし、これ以上情報を仕入れるのは難しいな。
仕方ない。ここは遠回りだが、確実に距離を詰めるアプローチを取るか。
「話は変わるが、クラマギで有名な配信者っているのか?」
「本当にえらく変わりましたね。いますよ配信者。トレンドのやアップデートについて広めたり、中にはストリーマーとして活躍している人もいます」
「へえ。じゃ中にはクラフトの動画を上げてる人もいるんだな」
「そうですね。ミニゲームが上手な人はそれ一本に絞ってる人もいます」
じゃ動画をあされば該当する人物が浮上するかもしれないな。
よし、この路線で探してみよう。




