第65話 バタくさいおっさんリターンズ
アメリアによってミャンセの紹介が行われた。
ノームたちは地や岩の中に隠れていたらしい。昔の大戦で妖精界に逃げ込んでからずっと潜んでいたらしいが、何を恐れて隠れていたかまでは伝わっていないようだ。
俺はミャンセを連れて鍛冶場に入った。
カジさんがハンマーを握る手を止めて顔を上げる。
「何じゃフトシ、また新しい女連れてきたのか」
「おっさんかよ」
「じじいじゃわい」
「この子ノームなんだ。岩を飛ばす魔法を使えるらしいんだが、ミサイルに使えないかな」
「ミサイル? なるほど、面白いことを考えるのう。確かに術式を抽出できれば岩をミサイルに模せるかもしれん」
「術式?」
「魔法の発動に必要な物じゃよ。わしは抽出するすべを持ち合わせていないが、ゼロワンはできるか?」
カジさんが後方の装置に視線を振る。
「はい、可能です」
逡巡をはさむことなく返答があった。
「まじか! すばらしいぞゼロワン!」
「お褒めにあずかり光栄ですマスター」
これで準備は整った。俺はゼロワンとカジさんに作業を任せてクラフトレシピを開く。
新しい防具のレシピが解放されている。遺跡の隠しエリアを周回したおかげで数も用意できそうだ。
俺はマイルームに転移してアトリエに入った。隠しエリアで得た素材を壺に放り込んでボタンを押す。
「あ」
ミニゲーム画面にいつぞやのバタくさい男性が映った。
「久しぶりだなこのおっさん」
おっさんの冒険はまだ続いていたってことか。何だかうれしくなるな。
おっさんの体重を支える石だたみが沈んだ。通路を転がる岩がおっさんを押し潰さんと迫る。
逃げるおっさんの前方には隆起した地面。おっさんを転ばせようとあちこちで待ち構えている。
ボタンを押して突起を避けているとくぼみを見つけた。
「そこだおっさん!」
ボタンを押してくぼみに入らせる。
巨大な岩がすれ違って遠ざかった。バタくさいおっさんが安堵のため息をつく。
直後背後の壁がくるりと一回転した。壁の動きに巻き込まれておっさんが自由落下する。
「おっさああああああああああああん!?」
バタくさいおっさんことバタっさんが「おうっ!」とうめいて跳ねた。地面への激突はまぬがれたようだ。
代償として目覚めたのは太ったトロール。安眠を妨げられたことへの怒りが牙をむく。
「逃げろおっさん!」
ボタンを押して逃げる方法を指示した。おっさんがトロールの腹から下りて走る。
でっかいこん棒による振り下ろしが地面を打ち鳴らした。一撃でぺしゃんこになりそうなそれが何度も繰り返される。
きら丸とラムネが後ろで騒ぐ。
ボタンを押してバタっさんを逃がしていると開けた場所に出た。
広場の中心に剣が刺さっている。金色に輝いていていかにもすごそうだ。
情けない表情がキッと反撃の意思を宿した。バタっさんがこん棒を避けるなり剣へと一直線に駆ける。
バタっさんが剣の柄を握るなり連打しろ! の文字が迫真のフォントで表示された。
「うおおおおおおおおおおっ!」
連打! ひたすら連打!
おっさんも歯を食いしばって剣を抜こうと頑張っている。俺も負けていられない。
抜けた!
「よっしゃ!」
おっさんが頭上に剣をかかげた。広場が黄金の光に埋め尽くされて、トロールが腕で目をかばう。
広場が元の色を取り戻すと、おっさんの身なりが金色の鎧におおわれていた。
「おおっ、変身した」
バタっさんがキリッとして地面を蹴った。トロールのふところに潜り込んで丸太のような足を斬りつける。
トロールが地面に膝をつく。
すかさずバタっさんがトロールの背中を駆け上がった。剣を逆手に持ち変えて後頭部目がけて振り下ろす。
フィニッシュ。くずれ落ちたトロールの背中でおっさんがおたけびを上げる。
パーフェクト。評価Sだ。
「よっし!」
グッとガッツポーズ。きら丸とラムネもわいわいはしゃぐ。
クリアを祝った次はクラフト品の確認だ。
『ストーンメイル』
防御力 +18
アビリティ【岩霊の加護】
素晴らしい出来。このレベルの物は中々お目に掛かれない。
アビリティは攻撃を受けた時一定確率でダメージを下げる。確率だから過信はできないが、防御面を補強できると考えれば悪くない。
引き続きクラフトにいそしむ。
驚きと愛嬌あふれる冒険も二度三度繰り返せば茶番だ。俺はきら丸に交代して休憩する。
きら丸がミニゲームをクリアするとラムネがボタンの近くにとまった。くちばしでボタンをガチガチいわせる。
「ラムネもミニゲームやりたいのか?」
「ピィ」
やる気満々と言った様子だがどうやってボタンを押すんだ? くちばしだけでノーツの処理が間に合うとは思えない。
一度やらせてみるか。
「よし、交代だきら丸」
「キュ」
きらきらした丸みがぴょんと下がる。
ラムネが台の上に乗った。俺は壺の中に素材の鉱石を落とす。
ミニゲームが始まった。バタっさんがドタバタと地面を踏み鳴らす。そろそろ過労死しそうだ。
ガチガチガチと作業音が鳴る。
ラムネが足とくちばしを使って器用にボタンを押し込んでいる。
good判定が続くものの筋は悪くない。回数を積めばラムネもきら丸のように腕を上げるだろう。
ゲームが終了した。
評価はC。伸び代は十分だ。
「すごいじゃないかラムネ! 初めてでここまでできれば上出来だ」
「ピィ」
ラムネが翼をぱたぱたさせる。
心なしかうれしそうだ。きら丸もぴょんぴょんと跳ねてラムネを労う。
「よーしじゃあもう一度やってみるかラムネ。今度は評価Bを目指そうぜ」
「ピィ!」
ラムネが画面に意識を戻す。
ラムネは鳥。さすがに鳥にミニゲームのアドバイスをするのは初めてだ。はてさてどう助言したものか。
ゲーム画面を眺めて思ったことをメモする。それを鳥の体でどうするか考える。
十回おっさんのおたけびを聞いた頃には頭が糖分を欲していた。
「一度ログアウトするか」
俺はきら丸とラムネに装備作りを任せてログアウトする。




