第63話 挑戦者
遺跡前に転移すると三つの人影があった。
三人の足元には脚長の犬や馬にオオカミ。おそらくはテイムエネミーだ。どれもシュッと引きしまっていてスタイリッシュに見える。
俺はあいさつしてマゼラさんのパーティに加わった。遺跡に入って質素な通路を進む。
正規ルートを突き進むと赤いサソリのボスが待ち構えていた。
以前倒した時は黒だったのに。
そう思いながら秒殺すると、HPが尽きたサソリが岩の壁にぶつかって爆弾のように弾けた。
岩壁がボロボロと崩れて隠し通路が闇をのぞかせる。
「こんなことあるんだな」
「私も初めて見つけた時は驚いたよ。赤いレアエネミーは絶命時に爆発するんだが、隅で倒すと壁を破壊できることが分かったんだ」
俺たちは隠し通路に踏み入る。
階段は下に続いている。微かに温度が上がったように感じられる。
「フトシさん、新設したクランはどうだ?」
「まだ何とも。設立したばかりでそれらしい活動してないので」
「人を増やすつもりはないのか?」
「今のところはないですね。増やしたところで何をすればいいのか分からないんですよ」
「クラフト専門のクランって話だからな。無暗に人を増やしてもうまみがないか」
階段を下り切って広い空間に出る。
視界内が暖色に満たされた。視界の隅でマグマがぐつぐつ煮えている。
もはや遺跡とは別エリアだ。
「遺跡の地下にこんな所があったんですね」
「ああ。ここでは他の場所で得られないアイテムが手に入るんだ。銘板もその一つだよ」
四人で足を進める。
大きな岩人と遭遇した。パーティメンバーがすぐに散開して持ち場に着く。
ロールを意識した立ち回り。
されど元クランメンバーとは雲泥の差だ。移動、攻撃、スキルの仕様といった動作一つ一つが速い。まるでエネミーのひるむタイミングを熟知しているかのように淀みがない。
またたく間にフィールドボスがポリゴンと化して砕け散った。
「すごいですね。まるで赤子の手をひねるみたいだ」
「慣れればフトシさんもできるようになるさ」
「できますかね」
「もちろん。私たちのクランは動きの基本を手取り足取り教えているからな。ここにいるバッツも少し前までタンクのタの字も知らなかった。タンクを水槽と勘違いしたあげくクラフトして持参するありさまでな」
「ちょっ、言わないでくださいよリーダー」
はははと陽気な笑い声が上がる。
雰囲気のいいクランだ。スズさんのクランとは全然違う。
ガチ勢の集まりと聞いていたから鋼のような印象があった。それが大きな間違いだったと気づかされる。
「お、採取ポイント!」
鉱脈が顔を出しているポイントに駆け寄ってピッケルを振るう。
焼けるように熱のあるかたまりや真っ赤な鉱石。見たことのないアイテムがザックザクだ。
「戦っている時よりも楽しそうだな」
「楽しいですからね。新しい素材見るとわくわくしません?」
「するな。特に希少なアイテムがドロップした時は跳ね回りたくなる」
へえ、意外だ。こんな仕事できそうな上司感あふれる女性でも跳ね回るのか。
リアルでは意外とかわいい人なのかもしれない。
「きら丸が大きくなってるな」
告げたマゼラさんの見る先には大きくなったきら丸。一メートル近い体がほのかに赤みを帯びている。
「気づきました? きら丸はたくわえたアイテムによって姿形を変えるんです」
「その性質について耳にしたことはあるが、なるほど。こんな感じになるんだな」
採取を終えて奥のエリアを目指す。
目についた採取ポイントで鉱石を得るにつれて、きら丸が見る見る内に肥え太る。
やがて大きな扉が見えた。
「これから戦うボスが銘板をドロップするんだが、そのためには火属性の攻撃を当てる必要がある。フトシさんは火属性の魔法を使えるか?」
「俺は使えませんが、たぶんきら丸なら使えます」
でけえ丸の体は燃え上がる炎を想起させるくらい真っ赤だ。これなら変身すれば火属性の攻撃を繰り出せるはず。
「そうか。ならエネミーの黒い箇所を集中的に攻撃してくれ。エネミーの体表を破壊すると銘板のドロップ抽選が行われる」
「分かりました」
マゼラさんが扉を開ける。
待ち潜んでいたのは黒い大トカゲ。人を丸飲みできそうなその体表はゴツゴツして真っ黒だ、
うろこにしてはいびつ。箇所によっては胸当てやヘルムじみた形状も見られる。ここで戦死した人の鎧が溶けてくっついてるってことか? 悪趣味だなぁ。
盾持ちが前に出た。爪の一振りを交わし、赤い光をまとって盾でなぐりつける。
前に出るように告げられて他二人がエネミーとの距離を詰める。
「きら丸、変身だ」
「キューッ!」
でけえ丸の体が発光して形を変える。溶けるように地面の上で広がってぶわっと髪が伸びる。
髪に見えたそれは炎だった。目玉焼きの白身じみた体表はマグマのようにグツグツと煮えている。隆起した頭部には目と口らしき黒い点がある。これはあれだ、キモかわいいってやつだ。たぶん。
白身箇所から伸びた触手が黒い箇所を叩く。
触手のムチを受けた箇所がオレンジ色を発した。
効いてる。
直感を信じて触手攻撃を続けるように指示した。火属性の攻撃を持たない俺はヘイトを引きつける係を買って出る。
ボスエネミーがダウンした。
「よし、エターナルボンドだきら丸」
「キュッ」
ボコッときら丸の頭部が盛り上がる。
風船のようにふくらんだと思えば黒い点だった口が大きく開いた。ボス部屋内の全てをのみ込まんと空気を吸い込む。
視界の左上で何かが動いた。
「何だ?」
「MPが!」
パーティメンバーが動揺している。マグ丸形態のエターナルボンドは周りのMPを吸い取るようだ。
「キューッ!」
戸惑う俺たちをよそに熱線が横切った。
俺は腕を上げて、膨張した大気から目元をかばう。
腕を下げるとリザルトウィンドウが開いていた。 経験値やエネミー関連の素材に加えて『忘却された銘板』の文字もある。熱で貼りついてたってことか。
次いで新たなウィンドウが浮かび上がる。
【おめでとう! 『ブリーダー』のジョブレベルが3になりました!】
【ジョブレベルが3になったことで、ペットの同行上限が2から3になりました】
「何だ今の。すごいな」
俺はウィンドウから視線を外す。
マゼラさんたちが歩み寄る。
「すみません、MP奪っちゃったみたいで」
「エネミーを討伐できたから問題ないさ。驚きはしたがね」
「今の状態でエターナルボンドを使ったことなかったので」
「ブリーダーのスキルだな。クリスタルスライムだとああなるのか」
「はい。たくわえたアイテムによって性能が変化するので、片手で数えられる程度しか把握してないんです」
「それは面白いな。だが初見だとこちらも合わせづらい。これからパーティを組むこともあるだろうし、分かったことは適宜教えてほしい」
「さっき下手すりゃ巻き込まれてましたからね。あらかじめ知っておけばこっちも合わせやすいっす」
「そうですね。分かりました、後で知ってる形態についての情報を送ります」
「頼む。それじゃもう一回回るか。フトシさんは予定大丈夫か?」
「はい。銘板欲しいです!」
「素直でよろしい」
一度遺跡を出てまた入り直す。
一回と言わず何度も回ってから解散した。
◇
「よかったんすかリーダー」
フトシが転移した後でバッツが問いかけた。
「何がだ?」
「銘板や隠しエリアのことっすよ。掲示板や攻略サイト見れば分かることとはいえ、簡単に教えすぎな気がします」
「いいじゃないか。情報がたくさん手に入ったのだから」
「それはそっすね。掲示板の連中はクリスタルスライムクソ雑魚って結論出してましたけど、全然そんなことなかったっす。いやーあれはすごかった」
「怪獣のブレスみたいだったな」
「え?」
バッツがきょとんとする。
もう一人も交えてあははははっと笑った。
「笑いすぎだバッツ、ワンダ」
「だって怪獣って、リーダーからそんなワードが出るとは思いませんよー」
「そこ、うなずくなワンダ」
「申しわけない」
「何にせよ変身は脅威だ。これからもフトシは我らの壁として立ちふさがるだろう。その時に備えて策を講じる必要がある」
「持ち物を奪うスキル使うとかっすかね」
「きら丸の保有上限が分からない。数十個まとめて奪えるならともかく、そんなスキルないだろう」
「いっそクランに引き入れたらどうっすか? 昨日の敵は明日の友ってやつ」
「それはすでに試した」
「駄目だったんすね」
「ああ。クラフトにしか興味ないんだとさ。次のイベントでは何を作ってくるやら」
マゼラが微かに口角を上げる。
「楽しそうっすね」
「ゲームの醍醐味だからな。情報を活かすのは難しいが、だからこそ腕が鳴る。三度目のイベント優勝は渡さん」
「トップクランのリーダーなのに挑戦者っすね。だからクランを大きくできたのかもしれないっすけど」
「気になるのはフトシが儀礼剣を使わなかったことだな。何故わざわざ性能の劣るゴーレムブレードを使っていたんだ」
「俺ら警戒されてたんすかね。気のいいおっちゃんって感じでしたけど、実は結構頭の回るタイプだったり」
「あり得るな。現状『エーテルの矢』つきの儀礼剣を持ってるのはフトシだけだ。この間アビリティの仕様が変更されたし、今の性能を隠すための一計は十分考えられる」
思考があっちこっちへ。的外れから考えすぎまで論議が重ねられる。
やがて三人も遺跡の前を後にした。




