第61話 プレイヤーキルと取引
俺はゼロツーに村を案内して資材の運搬を任せた。
漂うポンコツ感とは裏腹にゼロツーは多機能だ。状況に応じて履帯や車輪を生やすさまはまさにロマンのかたまり。拡張パーツを搭載できるならガ〇ダムも夢じゃない。
俺は拡張されていく村を背景にクラフトレシピを開いた。
今からウンディーネとサラマンダーの装備を整えるのは一苦労だ。いつダークエルフ関連のイベントが始まるか分からない現状、一からエネミーの素材を集めるのは不安が残る。
俺はクラフトレシピを開いてスクロールする。
「持ってる素材ですぐ作れそうな防具は……」
見つけた。性能が高いとは言えないが、何も身にまとわないよりはいいだろう。
妖精界から直接外界に転移した。きら丸とラムネを連れて遺跡に踏み入る。
エネミーを狩っていると靴音が聞こえた。
他のプレイヤーかと思って振り返った先には見知った顔が並んでいる。
「久しぶりですねフトシさん」
「そうだな、俺がクランを脱退して以来か。どうしてスズさんたちが遺跡に? てっきりもっと歯ごたえのあるエリアで活動していると思ってたんだが」
スズさんはクランを大きくしたがっていた。強くなるには性能のいい装備が必要だ。そのためには強いエネミーを倒すのが手っ取り早い。
でも俺たちが今いる遺跡は多くのプレイヤーにとっての通過点。最前線に通用する装備は手に入らない。スズさんたちがここにいるのは不自然だ。
「そうですね。本当はジャングル辺りでレア素材を掘りたいんですが、今はいいんです。目的はフトシさんですから」
「俺?」
なーんか嫌な予感がするな。一度抜けたクランだから警戒しすぎなんだろうか。
一応相手から見えない設定でコンソールを開いておく。
「俺に何の用だ?」
「最近どうですか? やりがいを失っているんじゃありません?」
「そんなことないぞ。毎日クラフトできて楽しいからな」
「でも自己満足のクラフトで得られる物なんて知れてますよ。クランに戻ってきませんか? クランを大きくするためのクラフトは今より充実感にあふれてるはずです」
思わず口をつきかけたため息をこらえる。
またそれか。スズさんは本当に変わらない。
「せっかくの誘いだけどやめておくよ」
スズさんが息をのんだ。
「どうしてですか! こっちからわざわざ勧誘してあげたのに!」
「俺、自分のクランを作ったんだ」
「自分のクランって、新設したってことですか?」
「ああ。こっちはこっちのペースでがんばっていくからさ、お互い頑張ろうぜ」
「どうして分かってくれないんですか! 親切なんて非効率です。クラフトなんて私のクランでもできるでしょう! わざわざ新しくクラン作ることに、一体どれほどの意味があるって言うんですか!」
「じゃあ逆に聞くけど、クランの大きさにこだわることに意味はあるのか?」
「嫌な質問ですね。そんなの、チャンスがあったら誰だって大きくしたいに決まってますよ。 誰だって一度は大企業に応募するでしょ。しますよね? フトシさんは働いたことないから分からないでしょうけど」
「バリバリの現役だっつの」
スズさんは何かの大小でコンプレックスを持ってそうだな。クランの大きさにこだわるのもうなずける。
その価値観を周りに押しつけるのはうなずけないが。
「お願いしますよ。フトシさんが抜けてから人員の流出が止まらないんです。今なら待遇良くしてあげますから戻ってきてください」
「それ俺ありきのクランってことじゃないか。実質俺のクランになってスズさんは満足なのか?」
「私のクランを乗っ取る気ですか!」
「ああもう面倒くさいな! いいよそれでもう!」
スズさんは自分がトップじゃないと気がすまないみたいだ。こうでも言えば俺の勧誘を考え直すに違いない。
「そうですか分かりました。どうしても私のクランには戻らないって言うんですね」
「ああ」
「だったらこっちにも考えがあります」
後ろに控えていたメンバーが武器を構える。
「知ってますか? プレイヤーって他のプレイヤーをキルできるんですよ。アイテムとか大切な装備を奪われちゃうんです」
「へーそりゃ怖いなぁ」
知っとるわそんなこと。こちとらイカれた五人組に襲われたこともあるんだから。
「それで、俺にその話をしてどうするんだ?」
「嫌がらせします。これから先色んな場所にメンバーを置いて、フトシさんの素材集めを妨害します。集めてもキルしてアイテム奪います。喪失感パないですよー」
くそ、やっぱりこうなったか。
相手の人数は十人。思ったよりは少ないけど、他のエリアにも人員を配置しているのは容易に想像できる。最悪他エリアから増援を呼ばれるかもしれない。
マイルームでの売買があるから素材集めはいいとして、この分だとイベントのたびに妨害されそうだ。
幸い後ろ盾になってくれそうな人に心当たりはある。まずはここを切り抜けて連絡を取るとしよう。
「逃げるぞきら丸」
「キュ」
俺はスズさんたちに背中を向けて走る。コンソールからアイテム欄を開いてきら丸からハイポーションを回収し、代わりにグレイルブルー99個を譲渡する。
「フトシが逃げた! 追え!」
いくたもの靴音が追ってくる。向こうもやる気満々だ。
ちょうどいい。スキルの実験台になってもらおう。
広い場所に出た。
俺は身をひるがえして鞘からゴーレムブレードを引き抜く。
「行くぞきら丸!」
「キュッ!」
スズさんと鉢合わせる前にエネミーを狩ったおかげでゲージは満タンだ。
俺はラムネを肩にとまらせて剣をかかげる。
「エターナルボンドォォォッ!」
きら丸がブレードの件身にくっついた。遺跡内が星雲を模したエフェクトで装飾される。
今回のエターナルボンドはどうなるんだろ。期待に胸をふくらませながら腕をぐるぐるさせる。
ドバッと魔法が発生した。
その数は十。紅蓮の球体が宙を突き進んでスズさんたちに降りかかる。
「のわっ!?」
「ぎゃあっ⁉」
意外と野太い悲鳴。宝塚風にイメチェンしてもとっさの反応は変わらないらしい。
伸びたきら丸が一周するごとに魔法が続く。
今度は青緑に発光する玉。スズさんたちが回復して戸惑いの表情を浮かべる。
「回復の魔法も飛ぶのかこれ」
もしや回復するだけで終わらないよな?
懸念した直後に氷の刃が一人をポリゴンに変えた。
突風が吹き荒れてスズさんたちを転倒させる。バフが利敵を働いたかと思えば岩の砲弾が敵の数を減らす。
俺に向かって飛ぶ魔法は一つもない。敵の分だけ魔法が発動しては飛んでいく。
「何よこれ、何なのよこれェッ!」
矢をつがえるスズさんに後続の魔法が降りかかる。
最後の一人がきらめきと化して空気に溶けた。
「終わったか」
ウィンドウが開いた。スズさんたちの装備やアイテムがポーチになだれ込む。
勝利の余韻によってはいられない。増援が駆けつけるかもしれないし急いでここを離れないと。
幸い必要な素材は集まりつつある。後はオンラインショップで購入すれば事足りる。
俺はきら丸ラムネを連れてマイルームに戻った。フレンドの欄を開いてコールをかける。
ウィンドウに長髪の女性の顔が浮かび上がった。
「久しぶりだなフトシさん。そちらから連絡をもらえるとは思わなかったよ」
日蝕の騎士団団長のマゼラさん。スズさんの企画で顔を合わせた時以来だ。
「それでどうしたんだ? まさか世間話ってわけでもあるまい」
「はい。実は相談したいことがありまして」
俺はスズさんとの間にあったことをマゼラさんに告げた。
「なるほど。ストーカー宣言されて困っているわけだな」
「端的に言えばそうですね」
「分かった。では取引といこうか」
来ると思った。
まあ俺たちの間に親しさなんて無いようなものだ。下手に助けられるよりは負い目を感じなくて済むか。
「条件を聞かせてください」
「私は君から要請があるたびに戦力を提供する。念のためスズには牽制のメッセージを送ろう。その代わりフトシさんには、我々からのクラフト依頼を他プレイヤーより優先して受けてほしい。どうだ?」
思わず目をしばたたかせた。
「そんなことでいいいんですか?」
「ああ。多額のマニーを要求されるとでも思ったのか?」
「まあ、護衛料としてあり得るかなと」
ははっと小さな笑いが空気を震わせる。
「さすがにそんなことしないよ。この前言ったろう? 私は君のクラフトの腕を高く評価している。目先の欲を優先して関係をこじらせたくはない」
嬉しいこと言ってくれるなぁ。
「分かりました、その条件でお願いします。ところでクラフト依頼ってどうやって受けるんですか?」
「どうやってって、まさか一度も依頼を受けたことないのか?」
「元クラメン以外はそうですね。基本クラフトしたらショップに出品するだけです」
「どうりで君の名前で検索してもヒットしなかったわけだな。クラフト依頼についてはオンラインを通して行うから、その辺りのことは調べておいてくれると助かる」
「了解です。この通話が終わったら調べておきます」
「頼んだよ」
ではいずれまた。それを言い残してマゼラさんとの通話が切れた。




