第59話 人型ロボット
ウンディーネとサラマンダーを連れてシルネ村におもむいた。
スマートフォンがない現状だと別々に暮らしたら襲撃に気づけない。集まるなら消去法的にシルネ村しかなかった。
幸いシルネ村の面積は広がっている。果物の量産効率も上がっているから大勢を集めるのに都合がいい。
さすがにウンディーネとサラマンダー間に生まれたみぞはそう簡単に埋まらない。ひとまずは離れたスペースに配置して、村の拡張に手を貸してもらった。
新たにサラマンダーとウンディーネが仲間に加わった。すぐにでも彼らの装備を作りたいところだが、その前に確かめなきゃいけないことがある。
俺はローラの案内を受けて山を登った。洞穴をラムネの明るさを頼りに洞穴に入る。
反響する靴音を耳にしながら進むと想像に違わぬメカメカしさがあった。
「おおロボットじゃん!」
それも人型だ人型! 期待に胸がふくらむぜ!
「ねえ本当にやるの? 気を失うわよ?」
「策があるんだ。このきら丸に魔力を注いでもらう」
「魔物を捧げる気? 鬼畜なのね」
「まあ見とけって。きら丸、頼む」
「キュッ」
でけえ丸が転がって魔法陣の上に乗る。
巨体の色は青紫。グレイルブルーをたっぷりたくわえた状態だ。
以前敵味方問わず魔法をばらまいたデンジャラスな形態。でも魔力がみなぎっている状態なのは確かだ。
俺はローラとラムネを連れてきら丸から離れる。
「きら丸、いいぞー!」
「キューッ!」
きら丸の体表がぼこっと泡立つ。
小規模な宇宙が展開されたかと思いきや、星雲じみたエフェクトがスンッと消える。
数秒してまた星雲が出ては、きらきらした光景が空気に溶ける。
成功だ。魔力が発生しては魔法陣に吸われる。これなら無差別攻撃が発生しない。安心安全に機械へ魔力を送れる。
機械が青い光を帯びてブゥンと起動音を発した。
「起動したぞ!」
俺は魔法陣に駆け寄る。
でけえ丸は青紫を失ってきらきらした色合いを帯びている。グレイルブルーを使い切ったようだ。
「よくやったなきら丸! 偉いぞー」
「キュッキュッ!」
よーしよしよしとつるつるした丸みを撫でまわす。
自慢のペットを褒め称えてから機械に歩み寄るとウィンドウが浮き上がった。
並ぶのはSFチックな照準サークルを思わせる円。宇宙を映す背景もあいまって宇宙船に乗った気分だ。
そして真ん中にはどでかくSTARTの文字。間違いなくミニゲームだ。
「さあ、ミニゲームの始まりだぜ」
STARTの文字に手の平を叩きつける。
手元にボタンが発現した。画面の上辺から隕石らしきノーツが下りてくる。
隕石モチーフだけあって速度は中々。せわしなくボタンを押してガチガチした感触を楽しむ。
画面の下辺から発射される光弾が、エクセレント判定のたびに隕石を撃ち落とす。
「何その腕の動き。きもっ」
「きも言うな」
バシバシボタン押すのかっこいいだろうが。
おっといけない。ミニゲームに集中集中。
画面の八割を占める隕石が降ってきた。全てのボタンを連打して巨大隕石を集中攻撃する。
中々壊れない。隕石の上端が照準サークルを通り過ぎそうだ。
「もっと早くボタン押しなさいよ!」
「分かってるっつーの!」
いつの間にかローラも熱が入っている。音ゲーは親しさの壁を超えるってことか。
負けじと連打する内に巨大隕石が砕け散った。
「あれ」
何か出てきた。宇宙人らしき人型が巨大隕石の破片を握って投げつける。
「させるか」
ボタンを押し込んで瓦礫を撃ち落とす。
投げる瓦礫がなくなると、今度は宇宙人自身が突撃してきた。
真ん中、左、右。光弾による迎撃を受けては違うレーンを目指す。
さながら宇宙人から人類を守るべく戦う防衛軍だ。燃えるシチュエーションに心が踊る。
宇宙人が光をまとって突撃する。
一回のプッシュじゃ押し返せない。俺は両手をせわしなく動かしてボタンを連打する。
宇宙人がのけぞって画面の中央に後退した。爆発が連続して画面内が真っ白に染め上げられる。
宇宙が元の色を取り戻すと、がらんとした画面内にCongratulations!の文字が浮かび上がった。
「よっしゃああああっ!」
「キュッ!」
「ピィッ!」
「やったわね!」
その場にいる全員でミニゲームのクリアを祝い合う。
プレイして楽しい、見てて楽しい。
やっぱ音ゲーは最高だぜ。
「プレイヤーフトシをマスター登録完了。起動します」
人工音声に次いでロボットの目が光を発した。人型機械が地面を踏み鳴らして足音を響かせる。
「きゃあああああっ!」
ローラが俺の背中に隠れた。
「たぶん大丈夫だ。俺をマスターと認識したみたいだし」
そう言いつつも気は抜かない。いつでも抜剣できるように備える。
ロボットが足を止めた。見すえる俺たちの前でビシッと敬礼を取る。
「初めまして! おいらゼロツーであります! あなたがマスターフトシでありますか?」
「お、おう。俺がフトシだ」
おいらって、こりゃまたずいぶんとノリが軽いな。もっと堅苦しい感じを予想してたのに。
「いくつか聞きたいであります。ここはどこでしょうか」
「マンダ山にある洞穴の中だ」
「おおマンダ山! どこ?」
「ここ」
「それは分かるのでありますが、おいらが機能停止する前はマンダ山なんてなかったのであります」
「へえ」
ってことはゼロツーはかなり前に作られたんだな。
妖精界にはメカを作る技術がなさそうだし、考えてみれば当たり前か。
「むっ、同胞の反応を感じるであります」
「同胞?」
「ゼロワン。おいらよりも先に生まれ出た仲間であります。遠くに反応を感じるのですが、マスターフトシは心当たりないでありますか?」
「心当たりならあるぞ」
「本当でありますか⁉」
ゼロツーが身を乗り出す。
「ああ。しゃべるメカが村にいるんだ」
「それはぜひ紹介してほしいであります!」
「いいぞ。ついてきてくれ」
目を物理的に輝かせるゼロツーを連れて下山した。
元来た道をたどってシルネ村にたどり着いた。アメリアとカジさんに一言入れて鍛冶場へと歩みを進める。カジさんは興味津々といった様子でついてきた。
ゼロツーを見ても他の妖精は悲鳴を上げない。ちらちらと視線を向けるにとどめている。俺やきら丸を見て奇天烈な存在に慣れたのかもしれない。
鍛冶場のドアを開けてご対面だ。
「おかえりなさいマスター。おや、そこにいるのはゼロツーじゃないか」
「ゼロワァァァン!」
ガシャンガシャンとゼロツーが駆け出した。ゼロワンなる装置の前で立ち止まる。
ゼロツーのとなりに並ぶと目元から涙が流れている。
どんな仕組みなんだこれ。ショートしてぶっ壊れるのだけはやめてくれよ?
「先に目覚めてたんだねゼロワン!」
「ああ。マスターに起こしてもらった」
「作ったのはワシじゃがな」
カジさんが得意げに胸を張る。
画面に映る顔文字が俺を見た。
「マスター。ゼロツーは村に置いていただけるのでしょうか?」
「ああ、そのつもりで連れてきたからな。アメリアにも許可は取ってある」
「感謝しますマスター」
「ありがとうございますマスターフトシィィィィッ!」
「おわっ⁉」
急にハグされた。
ゴツい! そして硬い!
嬉しくない!
「ではゼロツー。マスターのために馬車馬のごとく働きなさい」
「かしこまりー。じゃ何すればいいのおいら」
「マスター、見ての通りゼロツーはポンコツです。何か仕事をお与えください」
感動の再会したわりに結構辛辣。あるいはこれも一つの絆、なのか?
「ゼロツーは機動性高そうだし、資材の運搬を手伝ってもらおうか。今村の拡張をしてるんだ」
「拡張! とてもいい響きでありますね!」
ゼロツーが物理的に目を輝かせる。
少し騒がしいが悪い奴じゃなさそうでよかった。




