第58話 共同戦線
「話を聞かせてくれ。どうしてウンディーネを襲った?」
肩を落としている指揮官に問いかけたところ、おずおずとした口調が返ってきた。
サラマンダーの村もダークエルフが来たらしい。元々戦いの備えをしていたサラマンダーは撃退に成功したが、一人相手に苦戦した現実は十分にサラマンダーたちの危機感をあおった。
サラマンダーは考えた末に一つの答えを出した。
村の近くにある山に謎の機械があるらしい。起動には大量の魔力が必要になると分かった。
しかしサラマンダー全員の魔力を注いでも起動にはこぎつけない。それどころか魔力を注いだらその妖精は丸一日動けなくなる。機械の力でダークエルフを撤退まで追い込めなければ詰みだ。
そこで妖精狩りが提案された。他種族を捕らえて魔力タンクとして運用し、来たるべき決戦の日に備える。そのためにウンディーネの村を襲ったらしい。
「何でウンディーネに相談しなかったんだ」
「したらうなずいたとでも言うの? ダークエルフを倒したいから魔力タンクになってくださいって? 冗談でしょ」
赤髪の妖精が自嘲気味に笑う。
勝ったのは俺たちだ。侵攻した手前、自分たちが何をされても仕方ないことは自覚しているのだろう。
「それで、私たちをどうするつもり?」
「どうするってなぁ」
サラマンダーのやったことは自分勝手だが、ダークエルフの脅威は俺たちも目の当たりにして久しい。眼前の妖精が焦ったのも分かる。
「好きにしなさいよ。私たちは生き残るために戦った。そこに後悔はないわ」
すごい肝の座り具合だ。微かに手を震わせながらも毅然とした表情をくずさない。
やり方が過激なだけで、これも一つのリーダーの形ってことか。後ろのサラマンダーたちは今にも泣きそうな声を上げているから余計立派に映る。
アメリアが前に出た。
「それは私たちが決めることじゃありません。一緒に来てください。ウンディーネも交えて話し合いましょう」
「そんなことをして何になるの?」
「何にもならないかもしれません。それでもやるんです。ウンディーネの方はあなたたちをよく思わないでしょうが、手を取り合える可能性はまだ残っていますから」
赤髪の妖精が目を丸くした。
「本当に、そんな可能性あるとでも?」
「それを確かめに行くんですよ。あなたたちだってウンディーネ憎しで攻めたわけじゃない。だったらみんな幸せになれる未来を模索した方が有意義じゃないですか」
アメリアがにっこりと笑む。
サラマンダーが目をぱちくりさせて、苦々しく笑う。
「あなた、とんだプラス思考の持ち主ね」
「そう在るように心がけていますから。私はアメリアです。シルフ族の村長を務めています」
「ローラよ。サラマンダーの長を務めているわ」
ローラが地面から腰を浮かせる。
方針がまとまって、俺たちは元来た道をたどる。
◇
サラマンダーを滝のそばで待機させて、アメリアが滝の向こう側に消える。
「ねえそこの人間。どうしてあなたは妖精界にいるの?」
「成り行きだ」
「成り行きで妖精界に踏み入ったあげくシルフたちの手伝いをしているって言うの? 一体何を見返りに受け取っているのよ」
「そうだな……」
見返りか。そんなこと考えたことなかったな。
でも欲しい物はない。シルフの村は発展途上だし、現時点だと俺に支払える報酬なんか用意できない。
俺にとっちゃ未知のクラフト体験につながる物なら何でもいいが、それじゃローラは納得しないだろうな。
「しいて言うならマクワの実かな。シュワッとしておいしいんだ」
「木の実って、動物じゃないんだから」
「本当においしいんだって。機会があったら食べてみろよ」
「いずれね。食べ物か……」
桃色のくちびるが弧を描く。
小さな体がそっと俺の腕に寄り添った。小さな人差し指が俺の胸元を蠱惑的になぞる。
「ねえフトシ、今からでも私たちにつかない? 村の近くにおいしい木の実があるの。味方になってくれたら一生食べられるように取り計らうわ」
「遠慮しとく」
「何でよっ!」
「そういう色仕掛け興味ないんだって。てかお前自分の立場分かってるのか?」
大体子供未満の背丈で色仕掛けも何もないだろ。巨大化の魔法で人並みになってたら危なかったかもしれないが。
ローラがむっとして離れる。
「私の色気が効かないなんて、あなた本当にオスなの?」
「オス言うな」
滝にきら門が開いた。アメリアを先頭にウンディーネたちが門をくぐる。
ウンディーネの長ことナディが視線を険しくする。
ちょっとした自己紹介を経て村長三匹での話し合いが始まった。警戒態勢はそのままに、アメリアが仲介をこなしつつナディとローラの間で言葉が交わされる。
ウンディーネへの謝罪に次いで語られたのは、先日の侵攻に至った経緯だ。
俺たちが一度聞かされた話を経て、アメリアがこれからのことを提議する。
提案されたのはシルフ、スプリガン、ウンディーネ、サラマンダー四種族の共同戦線。禍根は一旦置いておいて、ダークエルフを迎え撃つ態勢を整えるべきだとうったえた。
ナディが思考をめぐらせるように目を閉じる。
やがてまぶたが開かれた。
「事情は分かった。協力しても構わない」
「いいんですか?」
「ええ。正直サラマンダーの所業に思うところはあるけど、ダークエルフなる存在も気になる。協力することには賛成」
アメリアがローラに視線を向ける。
「私も賛成。この状況じゃ他に選択肢もないしね」
「ありがとうございます。詳細は場所を変えてから決めましょう」
アメリアが振り向いて満面の笑顔を浮かべる。
俺はサムズアップでシルフの長を労った。




