第57話 エターナルボンドの真価
アメリアが俺と肩を並べる。
「私たちはシルフ族の者です。あなたたちはウンディーネですか?」
「しゃべらないで。あなたたちにその権利はない」
告げるのは水色の髪をした妖精。顔立ちにあどけなさこそあれど、その表情は氷のように冷たい。
「どうしてここが分かったの」
「この辺りでウンディーネの方を見つけたんです。滝の裏に隠し通路を見つけたので、無礼を承知でお邪魔させていただきました」
水色の瞳がスライドして俺と視線を交差させる。
「スプリガンだけじゃなく人間や魔物まで連れて、私たちを攻撃しに来たの?」
「違います。私はみなさんと話をしたくてここに来ました」
「話?」
「はい。私たち妖精の今後を左右する大事な話です」
アメリアがスプリガンとダークエルフの間で起こったことを告げる。
「事情は分かったけど私たちも問題に直面してる。すぐに手を貸すというわけにはいかない」
「でしたらその問題について教えてください。何か力になれるかもしれません」
「分かった。話す」
ウンディーネの代表が周りに指示を出して警戒態勢を解いた。
ウンディーネ側の非礼をわびる発言から始まって、現在の状況に関する説明が行われる。
一週間ほど前のことだ。ウンディーネはサラマンダーから襲撃を受けた。
サラマンダーが使うのは火属性の魔法。水の魔法をあつかえるウンディーネは本来有利に立ち回れるはずだった。
しかし長らく戦闘の訓練をしていなかったことが災いして、ウンディーネは村を放棄して逃げることしかできなかった。住み家を追われて、避難場所として選んだのが滝の裏に続く洞穴だったらしい。
「何でサラマンダーがウンディーネを襲うんだ」
「分からない。私たちは仲間と逃げるのに精いっぱいだったから」
「サラマンダーの方に話を聞く必要がありそうですね」
俺たちは目的を新たにして洞穴を後にする。
サラマンダーは好戦的って話だ。俺たちは一度シルネ村に戻った。鍛冶場で倉庫からハイポーションを引き出してきら丸にたくわえさせる。
でけえ丸爆誕。ラムネも連れて広場に集まった。
装備を整えたアメリアたちと再び村を出発する。
おもむく先はウンディーネが住んでいた村だ。
侵攻したからには拠点としてサラマンダーが居ついているはず。ラムネを飛ばせて、でけえ丸を先頭に歩みを進める。
スカイビジョンに反応があった。
「近くに何かいる」
「サラマンダーでしょうか?」
「分からない。とにかく迎撃の準備はしておいてくれ」
「分かりました」
アメリアが小声で他のシルフに指示を出す。
なおも進んだ先で赤い光が灯った。
「きら丸」
「キュ」
大きな丸みがぷるんと揺れて跳躍する。
重力に引かれた巨体が火球を受け止めた。
「何あれ、スライム?」
「あんなでかくてきらきらしたスライムがいるわけないでしょう! いいから撃ちまくりなさい!」
薄暗い景観に十を超える火が灯る。
「撃ちます」
アメリアがエーテライトの儀礼剣をかかげた。青白い光の矢が周囲の輪郭を暴いて射出される。
「わっ!」
薄暗さの向こう側で上がった声に遅れて火が消える。
悲鳴からして直撃したわけではないみたいだ。あのアメリアがいきなり息の根を止めるとも思えないし、ひるませるつもりで放ったに違いない。
「攻撃を止めてください。次は当てますよ!」
張り上げられた声が草木に吸収される。
儀礼剣のアビリティにはリキャストがあるものの、そんなことサラマンダーには分からない。
うろたえる声があっちこっちで上がる。
「何ひるんでいるの! こっちは包囲しているのよ、臆さずたたみかけなさい!」
向こうはやる気満々のようだ。
視界が悪くてもスカイビジョンで敵の位置は分かる。
俺は地面を蹴った。真っ直ぐ疾走した先で赤い妖精が目を見開く。
俺は剣先を向けた。ひっと悲鳴を上げられて罪悪感を覚えるものの、感情に蓋をして口を開く。
「聞こえるか指揮官。仲間をやられたくなかったら降参しろ」
「バカにしないで。犠牲が出るのは覚悟の上よ!」
犠牲を踏まえてもやらなきゃいけないことがあるってことか。サラマンダーの方にも事情がありそうだ。
でもやられてあげるわけにはいかない。次のサラマンダーも見つけて戦意を削ぐ。
視界内で何種類もの魔法が飛び交う。指輪での魔法に混じって、ころころと転がるでけえ丸が見えた。追われるサラマンダーが悲鳴を上げて逃げ惑う。
まさに質量の暴力。お相撲さんがみんなふくよかなわけだ。
「いったん引くわよ!」
どこかで声が張り上げられた。
どの反応が指揮官なのかは分からないが撤退する方向は丸見えだ。
俺はサラマンダーが逃げる方角を人差し指で指し示す。
「アメリア、敵があっちに逃げるぞ」
「了解です」
走っているときら丸が転がってきた。
「転がるのハマったのか?」
「キュ」
でけえ丸形態だと跳ねるたびにズシンと来るし、味方がいる時は転がった方がいいのかもしれない。
木々の間を抜けて視界が開ける。
赤い妖精が二十近い数集まっていた。
「散々こけにしてくれてありがとう。お返ししてあげるから存分に楽しんでちょうだい!」
赤髪の少女が腕をかかげた。調子に乗った振る舞いが高飛車系お嬢様を思わせる。
宙で大きな紅蓮が発現した。揺らめく穂が渦を巻いて大きなトカゲを形作る。
巨体が地面を鳴らした。炎なのに質量まで持ち合わせているようだ。
質量があれば剣で斬れる。
「ゴーレムブレードのデビュー戦だな」
密林で遭遇した蝶は全然強くなかった。手ごたえのありそうな相手と戦うのはこれが初めてだ。
距離を詰めるべく駆け出すと視界の左上に赤いエフェクトがちらつく。
HPゲージが急激に減っていく。これは温度が高すぎて焼かれているってことなんだろうか。
トカゲが大きな口を開いた。
「きら丸、変身!」
「キューッ!」
きら丸がぴょーんと跳んで俺の前に落ちた。きらきらした体表が青緑に染まってひらひらしたフォルムを帯びる。
視界内が赤色を帯びる。
巨体の向こう側で金色の光が発生した。恒例のカウンター攻撃だ。
俺は光が収まるのを待ってから前に出た。
スリップダメージは相変わらずだが一撃入れる余裕はある。
「きら丸、あれ行くぞ」
「キュッ!」
俺は両腕で剣をかかげる。
きら丸の体が伸びた。黒い剣身にくっついてムチのごとくしなる。
「あれ」
HPバーの減少が止まっている。
いやむしろきら丸を振り回すたびにHPバーの緑棒が伸びていく。
回復してる。変身状態でエターナルボンドを発動したからか?
今のきら丸は回復とカウンターで戦う。エターナルボンドは変身形態の力を活用してその性能を変化させるのか。
面白い。色んな変身形態で試したくなる。
まずは目の前の敵だ。
「エターナルボンド! くらえ!」
跳躍してトカゲにきらムチを叩きつける。
トカゲが断末魔を上げて霧散した。
「私の、サラマンドラが」
高飛車系の妖精が地面の上にへたり込む。
他のサラマンダーも見るからにうろたえる。拘束するまでもなく戦意を喪失したようだ。
俺は言葉で投降を呼びかける。
よほどトカゲの術を打ち破られたことがショックだったのか、指揮官らしき妖精はうつむいたまま動かない。
他のサラマンダーが降参の意を示してこの戦いは幕を閉じた。




