第56話 青い妖精
大きな蝶は大きいだけで全然強くなかった。
ドロップはナハトバタフライが落とす者ばかり。その一方でたくさんアイテムを落としてくれた。
予想より早く素材集めを終えてマイルームに戻った。
まずはマイショップを確認。
「お、売れてる売れてる」
マクワジュース完売だ。ちょっとボッタクリな値段を吹っかけてみたが売れるもんだな。
まずはアトリエに入ってマクワジュースを量産。再び出品してから壺にナハトバタフライの羽を放り込む。
成長してクラフトに興味が出たのか、ラムネがゲーム画面の近くにとまって眺めるようになった。
俺は夜の森を背景にしたミニゲームにいそしむ。
『ナハトバタフライドレス』が完成した。
バタフライドレスと性能が似ている一方で属性耐性やアビリティに差異がある。『蝶の舞』と違って、効果範囲内のプレイヤーは物理に対する耐性が上がる。
二個目以降のクラフトに臨む。
さすがに数十回もやっていると飽きる。後半はきら丸に代わってもらった。
必要な数のクラフトを終えて一息つく。
「これで揃ったか。ありがとなきら丸」
「キュ」
俺はコンソールを開いてマップの地図を展開する。
密林の転移ポイントを探す内に、妖精界に直接転移できることに気づいた。
場所は鍛冶場。装置にマスターとして登録されたことがトリガーになったんだろうか。
何にしても好都合だ。俺はきら丸とラムネを連れて妖精界に転移した。
広場に出るとアメリアやスプリガンが集まっていた。
「おーい」
妖精たちが振り向く。
アメリアが笑みを見せた。きれいな羽をひらひらさせて迫る。
「いらっしゃいフトシさん」
「どうしたんだこんなところに集まって」
「これから村を出るので班を編成していたんです。青い妖精を見たと報告を受けたので確かめに行こうかと」
俺が村内部から現れたのに驚かない。俺が鍛冶場に転移できるようになったことは周知の事実なのか。
「深刻そうには見えないが、その青い妖精に心当たりでもあるのか?」
「はい。特徴から察するにウンディーネだと思います。水魔法のあつかいに長けた妖精なのですが、ダークエルフの迎撃に協力してもらえないかと」
「いいんじゃないか? ダークエルフがウンディーネを攻めないともかぎらないし両方に利がある」
事が起こればウンディーネだって他人事じゃない、どのみち警告はしておく必要がある。
「よかったらフトシさんも来てくれませんか?」
「いいぞ。装備はどうする?」
「できれば軽装でお願いします。戦いに行くわけじゃありませんから」
「了解だ」
俺はファーコートを外した。きら丸に預けるハイポーションも最小限にして出発する。
村から出て右方に進むと水のせせらぎが聞こえてきた。
「ウンディーネは水の魔法に長けてるって話だが、シルフは風の魔法が得意だったりしないのか?」
「どうなんでしょう。少なくとも私は魔法の使い方が分かりませんし、妖精界に逃げ込む過程で教えが途絶えたんだと思います」
「なるほどな」
要は技術が失われたってことか。
銃の引き金を引くだけなら誰でもできる。でも素人の発砲は十メートル先の相手にもろくに当たらない。魔法の場合は発射すらろくにできないってことなのだろう。
川を下った先に滝が見えた。アメリアたちが周りを見渡す。
滝壺の周りで緑が生い茂っているだけ。村らしきものはどこにもない。
「この辺りで見たらしいんですけど何もありませんね」
「たまたまウンディーネがこの辺りを通り過ぎたとか?」
「そう、なんでしょうか」
アメリアが形のいい眉でハの字を描く。
種族は違えど同じ妖精、何か引っかかるものがあるのかもしれない。
それならやってみるか。
「ラムネ、空から確認してくれ。『スカイビジョン』だ」
「ピィ」
水色の体が飛翔する。
目の前でウィンドウが展開された。映るのは緑に囲まれた俺たちと滝壺。『スカイビジョン』の効果だ。
滝の向こう側で細長い水色が光っている。
「隠し通路か」
「そんな物があるんですか?」
「ああ。滝の向こう側に道がある」
「それは盲点でした。でもこの滝、かなり勢いがありますね」
アメリアが滝をあおぐ。
水の勢いは結構強い。まともに受ければ人間の俺でもダメージを受けそうだ。だからこそ侵入者をブロックできるのかもしれないが。
「きら丸、でかくなってくれ」
「キュッ」
俺はきら丸にハイポーションをたくわえさせる。
数秒とせずでけえ丸が爆誕した。巨大な丸みがぴょんぴょんと跳ねて滝に打たれる。
きらきらした体の下方が開ける。
まるで門だ。滝の向こう側にある地面が顔を出してシルフたちが歓声を上げる。
俺は一足先にきら門をくぐる。
自分の身で安全性を証明してみせた。
「きら丸が水を防いでくれる。安心して通ってくれ」
「ありがとうございますフトシさん、きら丸さん」
アメリアたちもきら門をくぐる。
全員通ってから門が閉ざされた。でけえ丸が身を震わせて水しぶきを飛ばす。
あらためて通路を進む内に広い空間が見えた。
空間の奥には木の実が積まれている。誰かが潜んでいるのは確定だ。
「止まって」
静かながらも確かな意志のこもった声。俺は足を止めて周囲を見渡す。
十を超える数の水色が俺たちに手をかざしていた。




