第54話 愛の力ってすげー!
「外で話すのも何ですから中に入ってください」
「ああ。お邪魔します」
ファムさんに促されて玄関に踏み入る。
花の匂いに鼻腔をくすぐられる。歩みを進める内に野菜や果物の芳香が漂う。
温室に踏み入って目を見張った。
「すごいな」
一目で分かる設備の豪華さ。よく分からない機械が物々しい。加湿器が蒸気を噴く中でロボットが歩行スペースをウィィィンと進む。
あおげば照明器具すら違う。野菜や果物、雑草すらも活き活きしているように映る。
「あ、雑草」
ファムさんがほいっと雑草を根元から引き抜いた。
……豪快なお嬢さんだ。
「雑草抜くといいことあるのか?」
「はい。リアルでも雑草を放っておくと土の栄養吸われますよね。クラマギでも定期的に抜かないとアイテムの性能下がっちゃうんです」
植物系アイテムにも性能があるのか。
なるほど。俺がクラフトに情熱を注いでいるように、ファムさんは栽培に熱を入れているってことか。
この人なら安心して任せられそうだ。
「君に頼んだマクワの実なんだが、できるだけ早く増やしたいんだ。できるか?」
「できますよ。任せてください」
俺は作業風景を見学させてもらうことにした。
俺は温室の隅っこでチェアに腰かけた。視線の先でファムさんがしゃがみ込む。
慣れた手つきで種を植える作業が行われる。
時間を経て鼻歌が聞こえてきた。楽しそうに作業する背中を見ているとほっこりする。
ファムさんがすっくと腰を上げた。
「植え終わりました。成長までにもうしばらくかかるので少し待っていてください」
「少しでいいのか?」
「はい。すぐに成長しますから」
それから一分とせずに芽吹いた。土から顔を出した緑がにょきにょきと伸びて葉を広げる。
芽から苗へと成長したマクワはたちまち立派に成長した。
「何と言うか……すごくね?」
「この土課金アイテムなんですよ。植物系アイテムの成長を速める効果があるんです」
「なるほど、金の力か」
「愛の力です」
「ん?」
「愛の力です」
「……そうか」
固まりつつある思考の中、それだけを告げることに成功した。
「ファムさんはいつから栽培に興味を持ったんだ?」
「農業高校に通っているのでその成り行きです」
「高校生だったのか」
「はい。クラマギの植物系アイテムって、種類によってはリアルの植物を模しているんです。 わたし座学苦手なので、楽しみながら学ぶのに都合がいいんですよ」
ファムさんがにこっと笑む。
楽しみながらの学習か。VRを使った医療が成果を出したって聞いたことあるが、いつの間にかゲームで学ぶ時代になったんだなぁ。
そりゃそうか。実際に動いて経験するわけだし、座って教科書を眺めるより効率よく知識を吸収できるだろう。
新しい価値感との接触。若い子と話すのって刺激になるな。
談笑に励んでいるとピーッと電子音が駆けめぐった。ファムさんが小走りで駆け寄ってマクワの実に腕を伸ばす。
植物が淡い光を帯びて消え去った。
ファムさんが笑顔で実を差し出す。
「できました。どうぞ」
「ありがとう」
俺は手の平の上にあるマクワの実を手に取る。
眼前にウィンドウが浮き上がった。
【『マクワの実』を三十個入手しました!】
たった三個がもう三十個に。
課金アイテム、じゃなかった。愛の力ってすげー!
「ありがとうファムさん。できればもう一度依頼したいんだが構わないか?」
「構いませんよ。一日の使用制限があるので何度でもってわけにはいきませんけど、上限まではお受けします」
「助かるよ。じゃまたマクワの実で頼む」
「任されました!」
ファムさんが眉に手刀を添える。
意外とノリのいい子のようだ。




