第53話 栽培依頼
アメリアに剣を渡した後は他の妖精にも武器を配った。
俺は妖精界を出てマイルームに戻った。温室に入って、マクワの実を種に変換して土に植える。
我ながらのんきだとは思うが、シルフとスプリガンの装備を作ったんだ。出費はばかにならないし、有事の際にアイテムが買えませんでしたじゃ話にならない。もしもに備えてマニーは稼いだ方がいい。
種を植え終えてマイショップを開いた。売れた分の代金を回収してからアトリエに踏み入る。
壺に素材アイテムを投げ入れた。
「きら丸、やってみるか?」
「キュッ!」
キラキラした丸みがぴょんと跳ねて壺の前に立った。浮かび上がったウィンドウがミニゲームの画面に転じる。
既視感のあるミニゲーム模様を眺めながら考える。
マニーにはまだ余裕がある。ダークエルフとの戦いに備えて防具も作りたい。
でも数が数だ。質のいい物をそろえるなら相当なマニーと素材が飛ぶ。
いくら貯蓄があるといっても無限じゃない。ふところがすっからかんになるのは嫌だ。
「でもやられたら後悔しそうだしなぁ」
いくら巨大化したところで、アメリアたちが俺より頑丈になるとは思えない。死者が出てクエスト失敗したら大変だし、何より親しくなったNPCが消えるのは胸くそ悪い。
「やっぱ防具作るか」
どうせ作るなら高性能なやつだ。費用はかさむだろうが収入源のあてはある。
問題はどうやって数を用意するかだな。
「専門の人に聞いてみるか」
コンソールを開いて依頼の欄を開く。
「あった」
クラフトの受注でマニーが動くんだ。植物系アイテムの栽培を受け負うプレイヤーがいてもおかしくないと思ったがビンゴだ。
早速栽培の依頼をした。温室で植えなかったマクワの実を三個送る。
通知が入った。
「何だ、もう栽培できたのか?」
いくら何でも早すぎる。どんな温室使ってるんだ。
俺は通知を開いてメッセージを確認する。
「ん」
見覚えのある数字とローマ字。これは招待コードだ。その下には電子的な文字で話をしたいと記されている。
「文章の順番逆じゃね」
あるいは先にコードを送るほど俺をマイルームに呼びたかったのか。
「会うだけ会ってみるか」
無視して拗ねられても困るしな。会うだけならタダだし悪いことにはならないだろう。
クラフトに満足したのか、きら丸がラムネと迷路に入った。
俺は招待コードから他プレイヤーのマイルームに飛んだ。
辺り一帯植物が生えている。色んな植物が分けられて茂るさまは畑みたいだ。
正面に見える玄関のドアがバンッと開かれた。
玄関前に現れたのはほわほわした雰囲気の女性。おさげにされた金髪がやわらかそうな雰囲気を醸し出す。
あどけなさの残った顔は真に迫っている。
「こ、これどどどどこで入手したんですかっ⁉」
声を張り上げながら駆け寄ってきた。あまりの迫力に変な声が出そうになる。
「これって?」
「これですよこれ!」
女性が小さな手をかざす。
彼女の指にはマクワの実が握られている。
「ああ、マクワの実か。それは――」
告げようとして口をつぐんだ。
マクワの実はアメリアたちの主食だ。プレイヤーが殺到して採り尽くされたら大変なことになる。
「内緒だ」
「教えられませんか。そうですよね、こんな希少な実の入手方法、タダで教えてくれるわけないですよね」
少女がしゅんとする。
「悪いな、こればっかりは俺の一存じゃ決められないんだ。ところで君はファムさんか?」
少女がハッとして一歩下がった。
「申し遅れました、わたしファムです。植物系アイテムの栽培を請け負ってます」
「俺はフトシだ」
「知ってます、クラフトがすごい人ですよね。あときら丸さんがかわいい」
ファムがあっちこっちを見渡す。
「きら丸は連れてこなかったんだ。悪いな」
「い、いえ、連れてきてくださいと書かなかったのはわたしですし」
言葉とは裏腹にファムがうつむく。
今からでも連れてきた方がいいだろうか。
「むんっ!」
ぱちんっ! とほっぺが鳴る。
小さな両手が彼女自身のほおを打った音だった。
「マクワです」
「お、おう?」
「マクワの実です! わたしに依頼してくれるってことでいいんですよね?」
「おう」
「やったぜ!」
少女が体の前で両手をグッと握りしめる。
何だこの子、面白い子だなぁ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
もし面白いと思いましたら、★評価とフォローをしてくれると作者のモチベーションがとても上がります!
感想やレビューなどもしてくれると嬉しいです。




