第52話 渡すべきは
俺たちはプリガ村で一夜を過ごした。
後日メディスによって他のスプリガンに説明が行われた。
コンセンサスは意外とあっさり取られた。ダークエルフという脅威と対面して危機感を覚えたのだろう。
プリガ村の場所は相手にばれている。訓練するにも安全の確保は第一だ。動けない負傷者をでけえ丸に乗せて、俺たちはプリガ村を後にした。
シルネ村に着いてからは、アメリアによるシルフへの事情説明が行われた。
一部は難色こそ示したものの、数分とせず首を縦に振った。シンディがシルネ村の発展に貢献したことも、シルフたちのスプリガンへの警戒をやわらげたに違いない。
巨大化魔法の修得訓練が始まった。
俺も巨大化してみたいと思いはしたが、次の襲撃までにアメリアたちの武器を作らなきゃいけない。
俺は鍛冶場に足を踏み入れて装置と向き合った。
アメリアたちが使う武器の候補は剣、弓、こん棒の三種類だ。クラフトレシピをスクロールして該当する武器を探す。
素材は今までため込んだ分がある。武器のサイズも指輪と同じで自動調整されるだろう。
早速クラフトのミニゲームにいそしんだ。
矢を模した弾速の早いノーツ、ガラスを割ったようなクモの巣型の亀裂を突破してアイテムを量産する。
そして剣。
他の武器よりあつかいが難しいと説明したものの、アメリアにこれがいいと頼まれた武器種。
ダークエルフの襲来までに剣術が身につくとは限らない。カジさんに剣を使った経験があるとはいえ、修得が間に合うかどうかは正直怪しい。
「サブウェポンを用意した方がいいよな」
つぶやいて腰元に視線を下ろす。
エーテライトの儀礼剣。強いサブウェポンといえば真っ先に思い浮かぶのはエーテルの矢だ。むしろメインウェポンまである。
エーテライト鉱石の値段は低下傾向にあるがまだ高い。
次に強い剣は……。
「これか」
武器を選択してミニゲームに挑む。
評価はS。儀礼剣のミニゲームと比べれば簡単だった。
早速作り上げたアイテムの性能を確認する。
レア度4
『ゴーレムブレード』
攻撃力 +21
アビリティ【剛健】
素晴らしい出来。このレベルの物は中々お目にかかれない。
黒い岩の剣。洞窟で戦ったゴーレムの素材で作った代物だ。やっぱりエーテライトの儀礼剣と比べると性能は少し劣る。
それに【剛健】は使用者のステータスを高めるアビリティ。元々のステータスが低いアメリアだと恩恵は少ない。
違う武器を握るように説得すべきか、それとも。
「うーん」
悩んだ末に鍛冶場を出た。アメリアのいる訓練場に足を運ぶ。
何人か人間がいた。
いや違う、スプリガンだ。巨大化してシルフたちに魔法を教えている。多くのシルフたちが顔をしかめている辺り、修得は簡単ではないようだ。
悩むシルフたちの中で巨大化に成功した人影があった。
「アメリア」
金髪の少女が振り向く。
人サイズになっても小さかった時の面影はある。小さな顔に微笑が浮かぶ。
「フトシさん! 見てください、魔法の発動に成功しました!」
「おめでとう。アメリアは筋がいいんだな」
アメリアが照れくさそうに笑う。
子供みたいな純粋な笑みを前にほっこりする。
「ところでどうしてここに。あ、フトシさんも巨大化したくなったんですね」
「違うよ。アメリアにこれを渡そうと思って」
俺はコンソールを開いて剣を現出させる。
アメリアが目を見開いた。
「これ、フトシさんの愛剣じゃないですか」
神秘的に青白い光を放つ剣。エーテライトの儀礼剣だ。
「今作れる剣はアメリアと相性が悪くてさ。これなら頭上にかかげるだけで矢を飛ばせるから左右されない。エーテルの矢って言うんだが、これがまた強いんだ。散々見せてきたから知ってるか」
「いいんですか? こんな大事な物をいただいちゃって」
「ああ。いつ相手が攻めてくるか分からないからな。それにアメリアには岩のごつい剣よりこっちの方が似合うだろ」
俺はうながすように腕を伸ばす。
アメリアが両腕で剣を受け取った。柄を握って太陽にかざす。
「きれい……」
端正な顔立ちがうっとりする。
次いでひまわりのような笑顔を向けられた。
「ありがとうございますフトシさん。これをあなただと思って大事にしますね」
告げるアメリアの表情は小さな花のように可憐だった。




