第5話 テイムモンスター
【クラマギ】クラフトマギア part1530【アイディアルセルフオンライン】
3名前:クラフト最高!
最強のテント道具を手に入れたぞ
4名前:クラフト最高!
何言ってんだこいつ
5名前:クラフト最高!
放置してるとHPとMPが回復する
6名前:クラフト最高!
それHP自動回復とMP自動回復だろ。金出せば誰でも買えるやん
7名前:クラフト最高!
買えねえだろ高いテント道具にしかつかないレアアビリティなんだから
8名前:クラフト最高!
それがそうでもないんだなーこれが。二十万マニーで買えちまった
9名前:クラフト最高!
やっす! どんだけ値切ったんだよお前
10名前:クラフト最高!
素材自体は安いと思うぞ。ウータ材とハイゾン皮がアイテム名に入ってるし
11名前:クラフト最高!
それどっちもウーガの森で入手できるやつじゃん
12名前:クラフト最高!
さすがにレアアビつかないだろそんな素材じゃ
13名前:クラフト最高!
画像これな
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14名前:クラフト最高!
まじだ、すげえ
15名前:クラフト最高!
そんな安物にレアアビ二つ揃うとかどんだけ低い確率なんだよ
16名前:クラフト最高!
誰から買ったんだそのアイテム
17名前:クラフト最高!
>>16
キャンプしてたおっさんから。誰のショップで買ったかは教えてくれなかった
18名前:クラフト最高!
はーつっかえ
19名前:クラフト最高!
しかしそんな安物テントにレアアビが付くのは衝撃の真実だな。クラフトに夢が出てきた
20名前:クラフト最高!
マニ―儲けのチャンスがこんなところに転がってるとは。テント作ってくれた天才クラフターには感謝だな
21名前:クラフト最高!
今週から一部エネミーをテイムできるようになるし、育成のためにもマニーはいくらあってもいいからな
「よし、今回もいい出来だ」
ショップに並べた商品は完売。その上予想外の収入まで入った。
心置きなくショップでクラフトの素材を購入できる。買って作って売って、無限ループの完成だ。
売ったテントと同じ物も手に入った。
さすがに何度かクラフトしてアビリティを厳選したものの、それでも収支は莫大なプラスだ。
「よし、できたやつを全部出品と」
クラフト品で出品枠を埋めた。また完売するといいなぁ。
俺は街に出た。
買って作って売るの無限ループは完成したものの、まだ解放されてないクラフトレシピはたくさんある。
レシピ解放には未知の素材を入手する必要がある。レシピをコンプリートしなきゃクラフターの名がすたる。
俺は戦闘エリアに出た。
ウーガの森で得られる素材はあらかた取り尽くした。今度は別方向に進んで坂を上る。
山道を登ること数十分。足元の草木も変わってきた。
ウーガの森とは明らかに違う生態系だ。見たことのない植物がちらほら見える。
「おっ、これは」
岩陰に生えている青みがかった苔を発見した。アイテム名を確認すると『高山苔』。初めて見る素材だ。
採取してポーチに収納した。クラフトレシピを開いて新しいレシピを探す。
『高山テント』『高山チェア』『高山ランタン』。
どれも未知のレシピだ。必要素材を確認すると『氷晶石』や『雲羊毛』といった素材が必要らしい。
「まだまだ探索が必要だな」
さらに山を登る。標高が上がるにつれて肌寒くなる。
前方に大きなリュックを背負う人影が見えた。
「こんにちは」
「お、こんにちは。めずらしいねこんな山奥まで来る人」
気さくにあいさつを返してくれた。
非戦闘職のプレイヤーだ。装備を確認すると発掘関連のアビリティがついている。
「素材集めに来たんです。この辺りで変わった物とか見かけませんでした?」
「ああ、クラフターさんか。それなら向こうの洞窟をのぞいてみるといいよ。光る石がいっぱいあるから」
「ありがとうございます!」
教えてもらった方向に進む。
確かに洞窟があった。中に入って歩みを進めると奥がほのかに光っている。
光の源は青白く光る鉱石だった。
「これが氷晶石か」
ピッケルで採掘してみると予想通り『氷晶石』が手に入った。
十個ほど採取したところで洞窟の奥から悲鳴が聞こえた。
「エネミーか?」
ピッケルをしまって鞘から剣を引き抜く。
そーっと進むと広々としたスペースでエネミー同士が戦っていた。
でっかいネズミがいる。体長は一メートルありそうだ。
相対するのは丸っこいエネミー。ぷるぷるしている形状がスライムを思わせるものの体はにぶく光っている。さっき発掘した氷晶を固めて作ったみたいだ。
戦いは一方的。スライムの鳴き声が悲痛に響く。
放っておけば順当にネズミが勝つだろう。
エネミーが消滅したところでどうこうなるわけじゃないけど、声がかわいいから子供を見捨てるみたいで寝覚めが悪い。
「待ってろ!」
俺は物陰から飛び出した。
巨大ネズミが俺に気づいて向き直った。俺を見つけるなり身をひるがえして迫る。
避けられずに突進を受けたもののネズミもひるんだ。おそらくは『装甲虫の鎧』のアビリティ【反撃のトゲ】のおかげだ。ダメージを受けるとひるむ性質があるらしい。
装備のおかげで難なく勝利した。
「大丈夫か?」
俺はスライムに歩み寄る。
警戒されるかと思ったけど、むしろスライムの方から寄ってきた。ぷるんとした体がキューと鳴きながら地面の上を跳ねる。
助けたことでなつかれたらしい。
「回復アイテム買ってないんだよな。そうだ」
俺は洞窟の隅にテントを設置した。手招きでスライムを誘う。
ぴょんぴょんと寄るエネミーの体が薄い緑色の光に包まれた。【HP自動回復】の効力はエネミーにも効果があるようだ。
「お前は友好的だなぁ。草原にいたスライムなんて目があっただけで飛びかかってくるのに」
眼前のきらきらしたスライムに敵意は感じられない。そこらのエネミーとは明らかに違う。
何というか、仲良くなれそうな気がする。
「俺はフトシ。お前に名前はあるか?」
スライムがキュと鳴いて体を微かに曲げる。
これは首をかしげてるんだろうか。
「よし。お前外見クリスタルみたいにきらきらしてるし、今日からお前の名前はきら丸だ」
「キュ!」
スライムが元気よく鳴いた。
気に入ってくれたのならうれしい。
そう思った瞬間、目の前にウィンドウが展開された。
「おわっ! なに、なに?」
びっくりして変な声を上げてしまった。周りに人がいなくてよかった。
小さくため息をついて文字を視線でなぞる。
【クリスタルスライムをテイムしますか?】
『はい』『いいえ』
「テイム?」
確か飼育って意味の英語だよな。
飼えるのか? エネミーを。
俺はきらきらするスライムに向き直る。
「お前、俺のペットになりたいのか?」
「キュ」
「分かった。今日からよろしくなきら丸」
俺は『はい』の文字を押した。
スライムの体が金色の光を帯びる。
祝福するような演出に遅れてきら丸がぴょーんと飛び跳ねた。
「何だ、きら丸もうれしいのか?」
「キュッ、キュッ」
俺の笑い声と鳴き声が洞窟内に響き渡る。
和やかな時間をすごしてテントとチェアを片づけた。新たな鉱脈を探して奧へと進む。
少し歩くだけで採取ポイントが目につく。洞窟内は鉱石の採取ポイントがたくさん設置されているようだ。
「ポーチが埋まりそうだな」
課金しないとアイテムを全部持ち帰れない。
困った。課金なんて考えてなかったから電子マネーないぞ。
亀裂からこぼれ落ちた鉄鉱石が地面の上を転がる。
消えないところを見るに、もうポーチの枠が埋まったようだ。
「キュ」
きら丸が鉱石に寄った。触手のようなものが伸びて鉄鉱石に触れる。
鉄鉱石がきら丸の中に消えた。
「え、食べたのか?」
鉄鉱石なんて食べて体のきらめきが曇ったら困る。
そんな物食べちゃいけません!
そう叱るより早くウィンドウが開いた。
「きら丸の腹袋?」
その文字の下には鉄鉱石の文字がある。もしや俺の代わりに持っててくれるってことか?
「えらいなきら丸! えらいぞー」
なでなでする。ひんやりとしていて気持ちいい。
「よし、この調子でどんどん発掘するぞー!」
「キューッ!」
俺がピッケルを振って、きら丸がそれを体の中にたくわえる。
きら丸の腹袋もいっぱいになって引き返した。数十分ぶりに外の空気を吸って日光のまぶしさに目を細める。
「いやー掘ったな。色んなアイテムをゲットできたし採集最高だぜ」
な。同意を求めて振り返る。
キュと同意の声があった、けど。
「……でけえな」
きら丸の体がぼ~~んと大きくなっている。横幅はもちろん、高さも俺の背丈を越えそうな勢いだ。
名前、もうでけえ丸でいいんじゃないだろうか。