第45話 プール作り
「あの魚のことはしばらく任せる!」
俺は告げて地面を蹴った。
「ヘイトを持つのはいいですけど、一体どこへ」
「試したいことがあるんだ」
エーテルの矢をぶつけたせいか、次のブレスは俺に向けて放たれた。
その時に側面から当てた魔法が関心を引いたのか、以降のブレスはサグミさんたちの方に向いた。
俺はその隙に器具前に到着した。
「よし、チェアはあるな」
座る場所があるってことは、そこにプレイヤーが座る前提があるってことだ。
だったら座る。四の五の言わずに座す。
思った通り変化があった。眼前の器具にいくたもの青白い光が走る。
半透明なウィンドウが電子の文字を浮き上がらせた。
「ビンゴだぜ」
おそらくはエネミーの討伐を手助けするギミックだ。器具の使い方を記した文字を視線でなぞる。
当然音ゲー。発砲音に遅れて、ウィンドウの上辺から雨のごとくノーツが降る。
「大砲をイメージしてるのか」
しかも判定サークルでボタンを押すと爆発する。修復が終わるまでは別の判定サークルで対処しなきゃいけない。
幸い指でスライドすれば別のレーンからサークルを調達できる。
しかし弾速が速い。使えるサークルと復帰の時間を頭に入れておかないとミスしそうだ。
ゲームを進める内に何かの起動音が大きくなる。
余裕がある内にあおぐと岩の砲弾があった。回転するそれがボコッと膨らんでその大きさを増す。これを撃ち出して攻撃するんだろうか。
ミニゲームが終わった。中央にある大きなボタンに発射の文字が浮き上がる。
巨大魚が顔を出した。
「発射!」
ボタンを押す。
弾が宙を突き進んで魚の頭部に命中した。
巨体が大きく打ち上がる。
ブリーチングじゃない。黒い体が水中に戻ることなく地面にたたきつけられた。
サグミさんたちが総攻撃をかける。俺もエーテライトの儀礼剣をかかげて矢を飛ばす。
エネミーが体をくねらせてピョーンと飛んだ。巨体が放物線を描いて水面を目指す。
それが最後の力を振り絞ったジャンプだったのだろう。巨大魚がぷかーっと浮いてだらしなくお腹をさらす。
リザルトウィンドウが戦いの終わりを教えてくれた。
「ふーっ、何とかなったな」
サグミさんやスズさんたちが駆け寄る。
「何ですかさっきの砲弾!」
「この器具で撃ったんだ。以前似た器具を見たことがあってな、今回も何かあると思ったんだよ」
「すごい観察眼ですね、さすがフトシさん」
褒めるスズさんの後方には、ペットをよーしよしよしする漫才五人衆の姿。ギミックを活かした俺のことは見向きもしない。
……俺を褒めろ。
「エネミーのお腹を橋にすれば向こう岸まで行けそうですね」
「そうだな。行くか」
サグミさんの号令を機に移動を再開する。
お腹を踏むと少し沈み込むが、足場としてはそこまで悪くない。
問題なく向こう岸まで渡り終えた。
「あっちに道があるな」
「行ってみますか」
奥へと足を進める。
弱いエネミーを散らしながら進むと小部屋に行きついた。
正面には大きな宝箱が鎮座している。
他に進めそうな道はない。完全な行き止まりだ。
「あれ、もう終わり?」
「ずいぶんあっけなかったな」
「そんなことより写真撮りましょう! 私たちが一番ですよきっと!」
スズさんの勢いに流されて全員が宝箱の前に集まる。
スズさんがスクリーンショットを撮った。指が押し引きされてゲーム内掲示板へのアップが行われる。
「お待たせしました。さあ宝箱を開けましょう」
「じゃあ開けるよー」
サグミさんがクランリーダーとして宝箱のふたを開ける。
【『ネプトリルの永泉石』を入手しました!】
宝箱に入っていたのはアイテムだった。
「ダンジョンは踏破したし帰りますか」
「そうね。ここはじめじめしてるし早く外出たい」
「ならば私は失礼させてもらおう。予定があるのだ」
「僕も」
「おいらも」
「なら今日はこれで解散しますか」
異議を唱える者はいない。俺はコンソールを開いてダンジョンを後にした。
視界内にマイルームの光景が映るなりクラフトレシピを開いた。タップしてアイテムの名前を上に流す。
「何か作れる物が増えていればいいんだが」
指でスクロールしていると!のマークが見えた。
「あったあった。ネプトリルプールか」
作ろうと思っていたからちょうどいい。俺はアトリエに入って壺の前に立つ。
所持している鉱石を端材に変換して永泉石と一緒に投入する。
ミニゲーム画面が青い。まるで水中の中にいるような錯覚を受ける。
「あれ、判定サークルどこだ?」
探して、画面の上辺に判定サークルを見つけた。画面の下から半透明な球体がふわふわと上がってくる。
泡だ。判定ラインでボタンを押すとパンッと弾けて小気味いい音を立てる。
「ん?」
浮き上がる泡の中に砲弾らしきものが入っている。
悩んだ末にスルーするとエクセレントの判定が出た。
「以前プレイしたミニゲームでも似たのあったなぁ」
あの時は毒針だったな。
ダンジョン内のミニゲームでは短い間判定サークルが使えなくなった。砲弾入りの泡も似た効果をもたらしそうだ。
浮上した泡が水面に達する。
泡が弾けた。砲弾が浮力を失って落ちてくる。
そのまま判定サークルを通過して画面の下辺に消えた。
「面倒だなこれ」
落下タイミングによってはノーツと同時にサークルに達しそうだ。
サークルは上寄りに設けられている。余裕がある時は弾を処理した方がいいかもしれない。
また弾入りの泡が現れた。
「試してみるか」
下に泡がないことを確認して弾を処理した。サークルに電撃のエフェクトが走って機能停止におちいる。
今だとばかりに同じレーンで泡が浮き上がる。
「早く、早く!」
胸の奥から噴き上がる焦燥をこらえていると電撃のエフェクトが消えた。すぐにボタンを押してノーツを取る。
危なかった。
でも下辺に泡が映ってない状態なら間に合うと分かった。この情報を得られたのは大きい。
その後も泡の処理をする内にパーフェクトの文字が出た。
俺は一息ついてアイテムの性能を確認する。
『ネプトリルプール』
限りなく水を湧かせる石を活用したプール。塩素などは入ってないからペットにも優しい。
アビリティ【向上心のかたまり】
素晴らしい出来。このレベルの物は中々お目に掛かれない。
「よし、早速設置してみるか」
俺はマイルームの外に出た。
きら丸とラムネの姿が見えない。迷蔓の苑で競争しているようだ。
「戻ってきてプールがあったら驚くかな」
驚けばいいなぁ。そう思いながらコンソールを介してネプトリルプールを設置する。
指定した箇所の地面がへこんだ。石が設置されて土の面が灰色におおい隠される。
地面のへこみが見る見るうちに水で満たされる。
「おお、本当に石から水が湧き出てるな」
あふれるんじゃないか、そんな懸念が浮かぶと同時に水位の上昇が止まった。
視界の隅で光が発せられる。
「キュ」
きら丸とラムネが戻ってきた。すぐプールに気づいて水面に駆け寄る。
きら丸が水に飛び込んだ。水たまりのように広がっていつぞやのごとくぷか~~っと漂う。
ラムネの方は足を止めて見守るだけだ。
「どうした、入らないのか?」
「ぴぃ」
ラムネが鳴いてあおぐ。
ジャングルの湖では水浴びをしていた。このプールに塩素は入ってないのに何が違うんだろう。
「もしかして深いのか?」
湖の時は傾斜があった。
プールには傾きがない。一歩目から一メートルを超える水深が待ち構えている。
水取りならともかく、ジャングルに生息する小鳥には深かったかもしれない。
「キュ」
「あっ」
伸びたきら丸がラムネをのみ込んで水中に消えた。
「おいきら丸!」
あわててプールの中をのぞき込む。
細長い物がプールの底で動いている。
きら丸だ。中にはラムネが見える。
「大丈夫なのか?」
蛇状になったきら丸の中で、ラムネが興奮したように翼をぱたぱたさせている。
きら丸の中だと水の中でも大丈夫なようだ。
「そうだ、いいこと思いついた」




